ペアで30万円以下のモニター・スピーカーから選び抜かれた全11モデルを、音楽制作の第一線で活躍するエンジニアの染野拓氏、プロデューサー/コンポーザーのT.Kura氏が徹底レビュー! ここでは、IK MULTIMEDIA ILoud Precision 5を紹介します。
ARC Systemによるキャリブレーション機能を内蔵。広帯域のフラット再生を掲げるリニア・フェイズ・モニター
iLoud Precisionシリーズの中で最もコンパクトなモデル。低ひずみ/低共振が特徴のツィーターと軽量コート紙メンブレン製のウーファーで構成される。リニア・フェイズ・クロスオーバー、DSP技術により、リニアな位相特性、理想的なステップ応答を追求。ARC System技術によるキャリブレーション機能を内蔵し、付属の測定用MEMSマイクを使用して音場を調整できる。背面にEQなどのスイッチを搭載し、X-Monitorアプリケーションでより細かいコントロールをすることも可能だ。4つの専用インシュレーターが付属する。
SPECIFICATIONS
●形式:2ウェイ・パワード ●スピーカー構成:5インチ径ウーファー+1.5インチ径ツィーター ●周波数特性:46Hz~30kHz ●外形寸法:177(W)×305(H)×248(D)mm ●重量:6.1kg/1台
現代的で明るめなサウンドとステレオ・ワイドな音像 〜染野拓
ILoud Precision 5は、見た目のサイズ感以上に音圧が出るのでびっくり! サウンドは現代的で明るめな傾向。ボーカルが最前面に位置し、ステレオ・ワイドで奥行きもあるため、近年の音楽を作るのにもってこいのスピーカーです。トランジェントがタイトに再現されるため、ドラムやベースといったリズム隊の処理が正確に行えます。
個人的には高域が若干きついと感じたので、リア・パネルにある内蔵DSPでハイシェルフを“FLAT”から“−”にしてみたところちょうど良くなりました。しかし、そのままの方がボーカルの歯擦音や各楽器のピークが見えやすかったので、モニターとしてはそちらが正解なのでしょう。
ARC Systemによるキャリブレーション機能を使ってみたところ、音場が引き締まった感じがよく分かりました。効き具合がとても良いので、ILoud Precision 5を使う方は一度試してみるとよいです。音量を上げ下げしても音像が崩れず、縦の周波数レンジに関してはハイエンドからローエンドまでバランス良く鳴ります。何より、信じられないくらい音圧が出るので、自宅環境から大規模なスタジオまで幅広く対応できる万能スピーカーだと言えるでしょう。
サブウーファー顔負けのローエンドが出せる 〜T.Kura
まず驚いたのは低域のレンジと解像度。ROLAND TR-808系キック・ベースのピッチがよく聴こえ、サブウーファー顔負けのローエンドです。キックとベースの帯域カブリもよく見えるので、処理がしやすいと感じました。
一方の高域もハイエンドまでよく出ています。耳が痛ければ内蔵DSPで補正すればよいと思いますが、リスニング用途でなければ、モニターとしてはこれくらいの方がちょうど良いかもしれません。中域に関しては、スネアとボーカルの位置関係が非常に分かりやすく、ゲインを上げていくとその傾向がより顕著に表れます。総合的に見て、ILoud Precision 5は原音忠実に鳴らしてくれるスピーカーです。これだけ良いと、最上位モデルとしてラインナップされたILoud Precision MTMにも自然と興味が湧きました。
キャリブレーション機能では音が結構変わるため、自宅環境のような狭い設置環境で試すと効果的かもしれません。測定用のMEMSマイクが付属し、キャリブレーションの方法も簡単。解析/補正アプリケーション・ソフトのX-Monitorと組み合わせて、コンピューターから音場を自由に調整できるのも非常に便利だと感じます。
レビュワー紹介
染野拓
レコーディング/ミックス・エンジニア、PA。2017年、東京藝術大学音楽環境創造科を卒業。2019年からStyrismに所属し、これまでにCHARA、SIRUP、odol、WONK、モノンクルなどの作品を手掛けている。
Recent Work
『Where is "LAGHEADS"?』
LAGHEADS
(LAGHEADS LABEL)
※全8曲のうち7曲のミックスを担当
T.Kura
プロデューサー/コンポーザー。EXILE、三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE、Crystal Kay、安室奈美恵、AI、三浦大知などの国内トップ・アーティストを手掛けるほか、1996年にプロデュースしたエリーシャ・ラヴァーンのシングル「Say Yeah!」がUKの『Blues&Soul』誌のチャートで1位を獲得。2010年には、EXILE「I Wish For You」で第52回日本レコード大賞を受賞。日本国内にとどまらず世界で活躍しているR&B/ヒップホップ・プロデューサー。
試聴環境
モニター・スピーカーの試聴は、前回の特集“はじめてのモニター・スピーカー選び”に続き、東京・御茶ノ水にある多目的スペースのRITTOR BASEで行なった。スタジオにはデスクとスピーカー・スタンドを用意し、全11モデルを個別にスタンドへ配置してレビュー。レビュワーの2人には、リファレンスとなる音源を再生したり、AVID Pro Toolsのセッションで作業したりして、各モニター・スピーカーの性能をチェックしてもらった。