ペアで30万円以下のモニター・スピーカーから選び抜かれた全11モデルを、音楽制作の第一線で活躍するエンジニアの染野拓氏、プロデューサー/コンポーザーのT.Kura氏が徹底レビュー! ここでは、FOCAL Alpha Evo 65を紹介します。
多様な環境でのミックスに対応できるよう設計。ニュートラルな周波数特性が特徴のコーンを搭載
音響施工が施されたスタジオはもちろん、ベッドルームなど、さまざまな環境でのミキシングに対応できるように設計。2台のクラスDアンプで駆動し、音の広がりを確保するためのアルミニウム製のインバーテッド・ドーム・ツィーターと、FOCAL独自のストレート・ファイバー・コーンを搭載したウーファーで構成される。このコーンは、ニュートラルな周波数特性を特徴とし、ダイナミック・レンジにも優れるという。背面には低域、高域それぞれのEQや、オート・スタンバイ・モードのスイッチを備える。
SPECIFICATIONS
●形式:2ウェイ・パワード ●スピーカー構成:6.5インチ径ウーファー+1インチ径ツィーター ●周波数特性:40Hz~22kHz ●外形寸法:261(W)×339(H)×289(D)mm ●重量:7.6kg/1台
派手な高域と低域、ナチュラルな中域 〜染野拓
Alpha Evo 65はとても元気なサウンド!というのがファースト・インプレッション。高域と低域が派手なので、ヒップホップやトラップ・ミュージックといった、近年の音楽ジャンルとは特に相性がいいと感じました。中域はナチュラルで抑えめなため、もし調整したい場合はリア・パネルにあるEQ補正機能を活用するといいでしょう。ここには高域/低域用のシェルビングEQを備えており、高域は±3dB、低域は±6dBで設定可能です。
ゲインを上げていったときの色付き具合に関しては、より一段と元気なサウンドになる印象。ただし、音量の上げ下げによる定位感の変化はほとんどないので、自宅スタジオから大きな商業スタジオまで、幅広い環境で使用できるモニター・スピーカーだと思います。また、テンションを上げてくれる鳴りがするため、ポップスはもちろん、ヒップホップやダンス・ミュージックのビート・メイカーの方にもお薦めです。ミックスしたいときは、EQ補正機能で高域と低域を調整すれば準備万端。なので一見Alpha Evo 65はクリエイター向きに思えますが、エンジニアでも使えるモニターです。使い分けられるのが便利ですね。
バスレフ・ポートで迫力のある低域を実現 〜T.Kura
Alpha Evo 65の外観を見て注目したのは、フロント・パネルの下段にバスレフ・ポートが付いているということ。これによって迫力のある低域再生を実現できるのですが、実際に鳴らしてみると、やはりその通り。ドン!とくる低域が魅力です。高域に関しては、FOCAL特有のシルキーな質感というより、エネルギッシュなイメージ。そのため、Alpha Evo 65は作り手のテンションをガンガン上げてくれるスピーカーだと言えるでしょう。制作時は、とにかくノリノリで気分良く作業できることが大切なので、大音量でも良い感じで鳴ってくれるAlpha Evo 65は最高。一人で制作するときはもちろん、複数人で集まってコライトするときにもお薦めです。細かい部分はあとに回して、とりあえずどんどん曲を作っていきたいときは特に大活躍するでしょう。
一方、ミックス時はリア・パネルにあるEQ補正機能で調整すればしっかり使えます。音量を小さくしてもそのエネルギッシュなサウンド・キャラクターは健在なので、プライベート・スタジオでの活用にも適しているでしょう。それにしてもこのAlpha Evo 65はガッツのある鳴りがいいですね。環境が許す限り、ぜひ爆音で鳴らしてください!
レビュワー紹介
染野拓
レコーディング/ミックス・エンジニア、PA。2017年、東京藝術大学音楽環境創造科を卒業。2019年からStyrismに所属し、これまでにCHARA、SIRUP、odol、WONK、モノンクルなどの作品を手掛けている。
Recent Work
『Where is "LAGHEADS"?』
LAGHEADS
(LAGHEADS LABEL)
※全8曲のうち7曲のミックスを担当
T.Kura
プロデューサー/コンポーザー。EXILE、三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE、Crystal Kay、安室奈美恵、AI、三浦大知などの国内トップ・アーティストを手掛けるほか、1996年にプロデュースしたエリーシャ・ラヴァーンのシングル「Say Yeah!」がUKの『Blues&Soul』誌のチャートで1位を獲得。2010年には、EXILE「I Wish For You」で第52回日本レコード大賞を受賞。日本国内にとどまらず世界で活躍しているR&B/ヒップホップ・プロデューサー。
試聴環境
モニター・スピーカーの試聴は、前回の特集“はじめてのモニター・スピーカー選び”に続き、東京・御茶ノ水にある多目的スペースのRITTOR BASEで行なった。スタジオにはデスクとスピーカー・スタンドを用意し、全11モデルを個別にスタンドへ配置してレビュー。レビュワーの2人には、リファレンスとなる音源を再生したり、AVID Pro Toolsのセッションで作業したりして、各モニター・スピーカーの性能をチェックしてもらった。