ペアで30万円以下のモニター・スピーカーから選び抜かれた全11モデルを、音楽制作の第一線で活躍するエンジニアの染野拓氏、プロデューサー/コンポーザーのT.Kura氏が徹底レビュー! ここでは、ECLIPSE TD307MK3を紹介します。
“正確な音の再生”をコンセプトに開発。回折や内部定在波を抑制する卵形ボディを採用
“正確な音の再生”をコンセプトに開発されたECLIPSEのスピーカーTDシリーズの中で、最もコンパクトなモデル。卵形のフォルムは、音波の広がりを妨げず、回折や内部定在波を抑制。スピーカー・ユニットには、軽量で高剛性と適度な内部損失を持つ振動板を採用し、強力な磁気回路を搭載することで、素早く正確なストロークを実現しているという。スピーカーを構成するそれぞれの接点には、振動カットと気密の確保に効果的な素材を使用しているとのこと。スピーカーの角度は無段階に調整できる作りとなっている。
SPECIFICATIONS
●形式:フルレンジ・パッシブ ●スピーカー構成:65mm径ドライバー×1 ●周波数特性:80Hz~25kHz ●外形寸法:135(W)×212(H)×184(D)mm ●重量:2kg/1台
※今回の試聴ではパワー・アンプにDENON PMA-60を使用
シビランスやピッチなどのボーカル処理に最適 〜染野拓
一時期、自分はECLIPSE TD-M1を使っていたことがあるので、TD307MK3の試聴は楽しみでした。実際に聴いてみたところ、中〜高域が断然良い感じに鳴り、情報量も豊富で音像の描写力が高いと感じます。この特徴を生かせば、ボーカルにおけるシビランスの処理や、ボーカルをオケとなじませるための処理、そのほかボーカルのピッチ調整といった作業にも向くでしょう。
TD307MK3のサウンドは全体的に聴きやすく、定位も非常に分かりやすいです。ボーカルとコーラスにおける前後の奥行き感もよく分かり、定位感も見えやすいため、細かなパンニングの調整も素早く行えるでしょう。また、TD307MK3はトランジェントの再現に優れているため、一つ一つの音が時間軸でくっきり聴こえますし、EQやコンプ、リバーブなどのエフェクト成分も非常に明瞭に分かります。
M/S処理におけるサイド成分も非常に見えやすいです。低域に関しては、ECLIPSEのサブウーファーとセットで使用するとなお良いのですが、サブウーファー無しでもニアフィールド・モニターとしてデスク周りに置いておきたいスピーカーだと言えるでしょう。
2台目以降のサブモニターとしてもお薦め 〜T.Kura
以前、初期のTD307を使っていたことがあり、そのときはラージ/ニアフィールド/クローズ・モニターのうち、一番近くに置くクローズ・モニターとして活用していました。今回はTD307MK3の試聴ということですが、フルレンジ・モデルなので、中低域〜高域までをバランス良く再生することができます。特に、ボーカルの口の動きや喉の使い方といった繊細なニュアンスがクリアに聴こえるでしょう。
また、TD307MK3は位相が良いため、複数のシンセ・パッドを重ねたときでも、特定の帯域における音の濁りを見つけることができます。大人数によるコーラスでも同じことが言えるでしょう。奥行き感や定位感に関しても優秀です。TD307MK3は中低域〜高域に特化して再生する分、その点はほかの何よりも緻密なスピーカーだと思います。
外観は非常にフューチャリスティックで、ほかに類を見ないデザイン。スピーカーに近いところで耳を澄ませると、より厳密にモニターできるでしょう。なお、TD307MK3はパッシブ・タイプのため、アンプやスピーカー・ケーブルの組み合わせで音が変わることに留意すべき。2台目のモニターとしての導入もお勧めします!
レビュワー紹介
染野拓
レコーディング/ミックス・エンジニア、PA。2017年、東京藝術大学音楽環境創造科を卒業。2019年からStyrismに所属し、これまでにCHARA、SIRUP、odol、WONK、モノンクルなどの作品を手掛けている。
Recent Work
『Where is "LAGHEADS"?』
LAGHEADS
(LAGHEADS LABEL)
※全8曲のうち7曲のミックスを担当
T.Kura
プロデューサー/コンポーザー。EXILE、三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE、Crystal Kay、安室奈美恵、AI、三浦大知などの国内トップ・アーティストを手掛けるほか、1996年にプロデュースしたエリーシャ・ラヴァーンのシングル「Say Yeah!」がUKの『Blues&Soul』誌のチャートで1位を獲得。2010年には、EXILE「I Wish For You」で第52回日本レコード大賞を受賞。日本国内にとどまらず世界で活躍しているR&B/ヒップホップ・プロデューサー。
試聴環境
モニター・スピーカーの試聴は、前回の特集“はじめてのモニター・スピーカー選び”に続き、東京・御茶ノ水にある多目的スペースのRITTOR BASEで行なった。スタジオにはデスクとスピーカー・スタンドを用意し、全11モデルを個別にスタンドへ配置してレビュー。レビュワーの2人には、リファレンスとなる音源を再生したり、AVID Pro Toolsのセッションで作業したりして、各モニター・スピーカーの性能をチェックしてもらった。