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ハンドヘルド・マイクの選び方Q&A 〜マイクの構造や仕組みを理解しよう

ハンドヘルド・マイクの選び方Q&A 〜マイクの構造や仕組みを理解しよう

マイクの構造や仕組みについて既に知っているつもりでも、あらためて説明してと言われると“ええっと……”となってしまいがちではないでしょうか? ハンドヘルド・マイクのイロハを理解しておいたほうが、自分に合ったマイクを素早く見つけられるかも!? レコーディングからPAまで、幅広い経験と知識を持つエンジニア、近藤祥昭に伺いました。

Q1 ダイナミック・マイクとコンデンサー・マイクの違いは?

A1 まずは電源が必要かどうかです

 多くのハンドヘルド・マイクの先端には、音を拾うためのカプセルがあり、そのカプセルの周りをグリルが囲んでいます。ダイナミック・マイクのカプセルは振動板(ダイアフラム)、コイル、磁石から成り、振動板が音波を受けて振動することでコイルが動いて、音波が電気信号、つまり音響機器で扱える形に変換されるという仕組みです。

 つまり、ダイナミック・マイクは音波の圧力から電気を生み出すので、電源が要りません。反対にコンデンサー・マイクは、電源を必要とします。コンデンサー・マイクは、コンデンサー部の帯電膜を振動板として利用し、コイルを取り付けないので、振動系が軽量です。そのため、高域特性が優れています。ただしとてもハイインピーダンスなのでアンプ回路が必要です。電池を内蔵させるか、48Vファンタム電源からアンプ部へ電源供給しなければなりません。

ダイナミック・マイクは電源が要らないが、コンデンサー・マイクは電源が必要

Q2 ダイナミック・マイクとコンデンサー・マイクの音質に違いはある?

A2 基本的な構造が違うため音質も異なります

 コンデンサー・マイクの振動系は薄い軽量な膜ですので、広範囲な帯域にわたって機敏に反応します。すなわち、音波を受けるとすぐに振動しはじめ、音波がやむとすぐに振動が止まります。音質用語で言う過渡応答性が良い、ということになります。また単一指向性(カーディオイド)を作るためには、2つのマイク・カプセルを内装し電気的に混ぜることによって上記を実現する機種が多いです。膜の貼り方、コーティングなどのノウハウもあるでしょうが、内装するアンプ部の設計が重要と推測できます。振動膜は歌い手の息によって結露すると反応が鈍くなります。それでなくても湿気に弱いのは皆さんご存じかと。

 ダイナミック・マイクの構造は、スピーカーのドーム型ツィーターと同じようなもの。中高域に起きる共振をプレゼンス・ピークとして音作りに利用している機種が多いです。指向性は振動板裏側への音波の導き方で作り出しています。低域はスピーカーでいうエンクロージャー(筐体)と同じく、バック・キャビティを工夫して創出している機種も見かけます。近年ネオジム磁石を搭載し高感度化した製品もあり、過渡応答も向上していますが、反対に反応の鈍さが良い場合もあり、その選択肢は多いです。過去にはウーファーをマイクとした製品も登場しました。

Q3 レコーディングで使うマイクとライブで使うマイク、端的に言うと何が違う?

A3 持ったときに振動板が口の正面に向くようになっています

 例えばレコーディング・スタジオにあるラージ・ダイアフラムの真空管マイクを、手で持って歌う人はいないですよね。ハンドヘルド・マイクは、手で持てる大きさで、重すぎず軽すぎず、バランスの良い重量感になっていると思います。

 また、スタジオで使用するマイクは、多段階の指向性、感度の切り替えなどの機能を盛り込んでいるものが多く、そうなるとどうしても大きくなるし、重量も重くなってくる。同じような機能をライブ用のマイクに搭載すれば、手で持つところにいろいろなスイッチが装備されることになるため、意図しないタイミングで切り替わってしまう可能性が高まります。そのため、なるべく構造をシンプルにしているマイクが多いのです。

 ちなみに、ドラムなどの楽器収音に使う小さなペンシル型マイクは、振動板の面がより分かりやすいようになっているので、どこを狙っているのかをすぐに目視できます。マイクは用途に合わせて最適な形になっているのです。

ライブで使うマイクは振動板が口の正面に向くようになっている

Q4 周波数特性はどこに注目すれば良いのでしょうか?

A4 範囲だけでなくグラフも見ましょう

 マイクの周波数特性とは、その機種で収音できる周波数の範囲や、各周波数の音量を表すスペックのことです。前者は○Hz~○kHzと記載されます。後者は、マイクの製品サイトやマニュアル掲載のグラフでチェック可能です。

筆者がライブ用のボーカル・マイクとして所有するSHURE SM58の周波数特性グラフ

筆者がライブ用のボーカル・マイクとして所有するSHURE SM58の周波数特性グラフ

 入力される音波のうち、仮に1kHzが±0dB=フラットとして、4kHzが+6dBになっていれば、4kHzが1kHzよりも6dB大きく出力されるマイクということです。ちなみに、+6dBだと聴感上の音量が2倍になって、+3dBだと√2倍、すなわち約1.4倍になる、ということは一つの指標として覚えておきましょう。

 周波数特性が音質のすべてではありませんが、グラフを見ればどういう特徴を持ったマイクなのかが多少は推測できます。自分の歌声の特徴を十分に理解した上で、ここの帯域を強調したいからこのマイク、という選び方をするのもいいでしょう。

Q5 指向性の違いはどうやって使い分ける?

A5 モニターや歌の口元の位置を判断材料にしましょう

 指向性とは、収音できる方向、範囲のこと。図で表すとカーディオイド(単一指向性)は逆ハート型で、前方の収音範囲が広い構造になっています。スーパーカーディオイド/ハイパーカーディオイド(超指向性)はクローバーのような形をしています。

指向性とは、収音できる方向、範囲のこと。カーディオイド(単一指向性)、スーパーカーディオイド/ハイパーカーディオイド(超指向性)の図

 まずは音波を拾いにくいポイントについて、コロガシのモニター・スピーカーを例に考えてみましょう。カーディオイドの逆ハート型の凹んでいる部分は、マイクが向いている方向の真後ろで鳴っている音を最も受け付けにくいようになっています。ですので、モニターを歌手の真正面の足元に置いた状態が一番ハウリングしにくい=ハウリング・マージンを多く取れる状態になるということなのです。

 ただそうすると、歌手の足元が見えなくなりますよね。センターから見たボーカリストの足元が常に隠れてしまっているというのは、演出上、決して望ましい状態ではないかと思います。

 それを解決する方法として、歌手の前方の左右にコロガシを置くようになりました。こうすれば、足元も隠れないし、両サイドからモニターが均等に聴こえてきます。このときにハウリング・マージンを稼げるようにするにはどうすればいいかという点を考慮して、より正面に鋭い指向性を持ったスーパーカーディオイドと、さらに鋭いハイパーカーディオイドが誕生した、という発展の経緯もあるのです。

 それぞれ優劣があるわけではありませんが、メリット/デメリットはあります。コーラスを担当するギタリストが、演奏している手元を見ながら歌おうとすると、どうしても口元からマイクが離れてしまうので、収音する範囲が広いカーディオイドのマイクが適しています。

 モニターが適切な場所に配置され、口元とマイクの位置も安定しているならスーパー/ハイパーカーディオイドのほうがハウリング・マージンを稼げ、ゲインを上げられる。その分、今度はマイクを持って動いたりするとハウリングするリスクが高くなってしまう……というように、そのマイクの特性を分かった上で使うことも大事です。

 ちなみに、ラッパーやボイス・パーカッショニストなどがよくグリルを握り込んでいるのを見ますよね。そうすることで声がほかに逃げない、つまりストローを相手の耳に突っ込んで“もしもし”と言うような状態と同じで、拡散している音を一点に集中させることで、音色を作っていると言えるでしょう。ただその場合、マイク自体は無指向性、つまりどの方向の音も拾う状態になり、ハウリングするリスクが高まってしまいます。注意しましょう。

Q6 ハイグレードなマイ・マイクを持つメリットは?

A6 ほかとは違う特別感を得られます。これは意外と重要

 まず、ほかの人とは違う特別感を持つことができる。これは意外と重要な視点で、撮影が絡んでいるようなときに、“このマイクだと、写真映えすると思いますよ”という提案をすることもあります。独自性を出すために、見た目というのは大事な要素ですからね。

 あとはライブをする際に、自分が持ち込んだマイクについて、“(標準的なマイクよりも)○dB感度が高いです”と言えば、PAエンジニアからの信頼も得られると思います。ちゃんと自分のマイクのことを分かっているんだなと。それで限られたリハーサル時間で、レベル取りだけでなく音作りに長く時間を割ければ一石二鳥です。

 マイクを試せる機会があるなら、歌いやすいかどうかの主体性も大事ですが、客観的に聴いてもらった意見も重要です。可能ならリアルタイムでどんな音が出ているかを第三者に聴いてもらうとよいでしょう。

 そして、パーツや素材のクオリティの高さ、設計や製造、品質管理へのこだわりなども、ハイグレード・マイクならではの魅力。パーツに関しては、例えばカプセル内の磁石が感度を上げる要因となるように、マイクの性能そのものを左右します。また、グレードの高いマイクはダイナミック・レンジが広く取られていたり、指向性が正確に調整されていたりと、手間暇をかけて丁寧に作られ、出荷前の品質管理も徹底しているものと思われます。

マイ・マイクは、ほかとは違う特別感を得られる

Column:便利なインライン・プリアンプといふもの

 インライン・プリアンプという機材をご存じでしょうか? これは、マイクと、ミキサーやオーディオI/Oの間に挟んで、ゲインを持ち上げ、音もアンプらしい色付けがなされるというものです。出力が低いダイナミック・マイクやリボン・マイクに使うことで、より効果を発揮します。ただ使用する際は48Vファンタム電源が必要なので、コンデンサー・マイクへの使用は厳禁です。ライブ用途というよりは、どちらかと言えばレコーディングに使われるものですが、覚えておくと今後の役に立つかもしれません。

WARM AUDIO Warm Lifter

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SE ELECTRONICS DM1 Dynamite(左)SE ELECTRONICS DM2 T.N.T(右)

SE ELECTRONICS DM1 Dynamite(左)SE ELECTRONICS DM2 T.N.T(右)

近藤祥​昭(GOK SOUND)
【Profile】アナログ・テープを駆使するレコーディング・エンジニアで、PAも行う。これまでに大友良英、カヒミカリィ、非常階段、w.o.d.など、さまざまなアーティストを手掛ける。

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