最大64個までのプラグインをパッチング可能なホスト〜BLUE CAT AUDIO Blue Cat's PatchWork

最大64個までのプラグインをパッチング可能なホスト〜BLUE CAT AUDIO Blue Cat's PatchWork

 Reviewed by 
中土智博
【Profile】Remark Spiritsのサウンド・プロデューサーを経て、作編曲家として活動中。乃木坂46などへの楽曲提供のほか、『あんさんぶるスターズ!』などのゲーム音楽も手掛ける。APDREAM所属。

最大8つの直列/並列チェインを作成、内蔵エフェクトは30種類

 BLUE CAT AUDIO Blue Cat's PatchWork(以下PatchWork)はその名のとおり、さまざまなソフト音源やプラグイン・エフェクトを“パッチワーク”し、1つのプラグインとして使用可能にする、まさに“パッチベイ・プラグイン”とも言うべきツール。Mac/Windowsで動作し、AU/AAX/VSTプラグインおよび、スタンドアローンでも使うことができます。

 

 また、PatchWorkはAU/VST/VST3プラグインのほか、PatchWork内蔵のエフェクトを一度に最大64個、ホストすることが可能です。各プラグイン/内蔵エフェクトは直列または並列で配置でき、最大8つのパラレル・チェインも作成できます。その結果、DAW上に複数のバス・トラックを立ち上げる必要が無くなります。

 

 なおPatchWorkの内蔵エフェクトは、EQやコンプレッサー、ゲート、フィルター、ビット・クラッシャー、ウェーブ・シェイパー、ピッチ/周波数シフター、トレモロ、コーラス、マルチタップ・ディレイ、フェイザー、モジュレーションなど30種類にも及びます。

 

 PatchWorkにはエフェクト・バージョンとシンセ・バージョンの2つがあり、プラグイン・エフェクトを扱う場合は前者で、ソフト音源を扱う場合は後者といった使い分けとなっています。前者は外部サイド・チェイン入力を、後者は外部へルーティングするための複数の出力バス(最大16ch)を装備。この出力バスは、例えば“ドラム系ソフト音源のパラアウトに使用する”といった使い方などができるでしょう。

 

 PatchWorkの画面レイアウトですが、最上段にはバイパス・ボタンやウェット/ドライを調節するMixノブ、コントロール・セッティング・ボタン、アンドゥ/リドゥ・ボタン、ヘルプ・ボタン、プラグイン・マトリクスの列や行の数を設定するボタン、レベル・メーターの表示/非表示ボタン、オートメーションの割り当てが可能なパラメーターの表示/非表示ボタン、プラグイン・スロットの表示/非表示ボタンなどを複数配置(画面①)。

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画面① 画面最上段にはバイパス・ボタンやウェット/ドライを調節するMixノブ、アンドゥ/リドゥ・ボタン、プラグイン・マトリクスの列や行の数を設定するボタンなどを配置する

 さらにこれらの下部に位置するメイン画面には、左端から入力ゲイン・ノブ/レベル・メーター、プリプラグイン・スロット・セクション、パラレル・プラグイン・スロット・セクション、ポストプラグイン・スロット・セクション、出力ゲイン・ノブ/レベル・メーターがあり、最下段には任意のパラメーターをアサインできるノブが8つ備わっています(画面②)。

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画面② 画面最下段には、任意のパラメーターをアサインできるマクロ・ノブを8つ装備

各プラグイン・スロットの大きさは、スモール/ミディアム/ラージで切り替え可能

 次は信号の流れについて。画面③を見れば分かりやすいと思いますが、入力された信号はまず二手に分かれ、片方はバイパス・ボタンを通ってMixノブへ、もう片方は入力ゲインへ流れます。後者は直列処理のプリプラグイン・スロット・セクション→並列処理のパラレル・プラグイン・スロット・セクション→直列処理のポストプラグイン・スロット・セクション→出力ゲインを通ってMixノブへ向かい、オリジナルの信号とミックスされます。

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画面③ PatchWorkのシグナル・フロー。入力信号は二手に分かれ、片方はバイパス・ボタンを通ってMixノブへ、もう片方は入力ゲインへ流れる。後者は直列処理のプリプラグイン・スロット・セクション→並列処理のパラレル・プラグイン・スロット・セクション→直列処理のポストプラグイン・スロット・セクション→出力ゲインを通ってMixノブへ向かい、オリジナルの信号とミックスされる

 ちなみに、各プラグイン・スロットの大きさはスモール/ミディアム/ラージの3サイズが用意されており、場合に応じて柔軟に変更できて便利です。

 

 また、パラレル・プラグイン・スロット・セクションの右上部分には、“◀S▶”ボタンと“{A}”ボタンを搭載(画面④)。“◀S▶”ボタンを押すとエクスクルーシブ・ソロ・モードに、“{A}”ボタンを押すとサミング・モードになります。

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画面④ パラレル・プラグイン・スロット・セクションの右上部分には、“◀S▶”ボタンと“{A}”ボタンを搭載。“◀S▶”ボタンではエクスクルーシブ・ソロ・モードに、“{A}”ボタンではサミング・モードに変更可能だ。赤枠内には、左からポストゲイン、位相反転スイッチ、ソロ・ボタンで、各チェインに備えられている。なおエクスクルーシブ・ソロ・モードでは、どれか1つのチェイン以外はすべてミュートになる仕様だ

 エクスクルーシブ・ソロ・モードでは、同セクション内において1つのチェインしかソロにできなくなります。一方サミング・モードでは、さらに“Average”と“Sum”の2タイプを選択可能です(画面⑤)。

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画面⑤ サミング・モードには、“Average”と“Sum”の2タイプを選択できる。Averageでは、パラレル・プラグイン・スロット・セクションでアクティブになっているチェインの数に応じてゲインを平均化。Sumでは同セクションにおいてアクティブなチェインのゲインを合算する

 Averageにすると、同セクションでアクティブになっているチェインの数に応じてゲインを平均化し、Sumにすると、コンソールのミックス・バスのようにすべてのアクティブなチェインのゲインを合算します。

 

 個人的に良いと思うのは、単純に2〜3のソフト・シンセをレイヤーしたいだけならSumが分かりやすく、大規模なレイヤリングをする場合でゲイン管理を楽にしたいときはAverageにするという使い分け方です。

PatchWork内で構築したチェインはプリセットとして保存が行える

 PatchWork内で構築したチェインは、プリセットとしてAAXやVST/VST3など、任意のプラグイン・フォーマットで保存可能です。一度プリセットとして保存してしまえば、次回から瞬時にリコールしたり、ほかのDAWで共有したりすることができます。このことを踏まえて、ここからは筆者なりのPatchWorkの使い方をご紹介。具体的には下記の3つの用途が挙げられます。

①ソフト・シンセのレイヤー
②複数のエフェクト・チェインの聴き比べ
③オリジナル・プラグインの構築

 ①に関してですが、ソフト・シンセのレイヤーはその数に応じてトラック数も増えるため、グルーピングや編集作業に手間がかかります。それらは書き出し時のミスやトラブルなどにつながりやすいのですが、PatchWorkなら最大8つのソフト音源をレイヤーしてもトラックは1つのまま。これは圧倒的に便利だと言えます。

 

 ②では、比べたいエフェクト・チェインをパラレルで数パターン構築し、前述したエクスクルーシブ・ソロ・モードを活用しましょう。たったそれだけで比較/検証が簡単に行えるため、こちらも非常に手間が省けます。また、各エフェクトをバイパスしていくうちに生じるタイム・ラグによって、“比較前の音の印象を忘れてしまった”ということも回避可能です。最終的に使うチェインが決まった場合、それ以外の使わないチェインは電源ボタンでオフにしておけば、CPUリソースも節約できることでしょう。

 

 ③に関してですが、例えばプリプラグイン・スロット・セクションには自動ゲイン調整機能を持つプラグインや、ローパス/ハイパス・フィルター、コンプ、ディエッサーなど、下ごしらえ的なプラグインをインサートし、パラレル・プラグイン・スロット・セクションには強め/弱めに設定したパラレル・コンプや、逆にパラレル処理に対応していないプラグインをインサート。

 

  最後のポストプラグイン・スロット・セクションには補正用のEQや、直列で使うようなリバーブ、ディレイなど空間系エフェクトをインサートします(画面⑥)。このように、PatchWorkは自分なりのアイディアをどんどん試せるオリジナル・プラグインとして活用することができるでしょう。

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画面⑥ 筆者のオリジナル・プラグイン・プリセット。プリプラグイン・スロット・セクションにはEQやローパス/ハイパス・フィルター、ディエッサー、コンプなど、音作りの土台となるようなプラグインをインサートし、パラレル・プラグイン・スロット・セクションにはさまざまな設定のエフェクトをアサイン。後段のポストプラグイン・スロット・セクションには補正用EQやリミッターなどをインサートしている

 筆者は、既に実際の作業にPatchWorkを導入しています。そのきっかけは、AVID Pro Toolsで使用できるAAXフォーマットに対応していないソフト音源やプラグイン・エフェクトを使えるようにするため。そして、プラグインをインサートするスロット数を節約するためです。しかし今となっては、前述したようなPatchWorkの強みをより生かした使い方でも利用しています。

 

 ちなみにPatchWorkは、CPU負荷がとても低いのもポイント。これだけでも導入理由としては十分です。

 

 このようにPatchWorkは、複雑なプラグイン処理や比較検証をより簡単に行いたい人や、複数のDAWを使い分けるユーザーにとって、まさに“福音”と言えるようなプラグインです。特にPro Toolsを扱うクリエイターやエンジニアにとっては“導入しないで本当に大丈夫?”とって言っても、決して大袈裟では無いツールだと言えるでしょう!

 

BLUE CAT AUDIO Blue Cat's PatchWork【特殊処理】

10,980円

 Requirements 
■Mac:OS X 10.7以上、AU/AAX/VST(いずれも32/64ビット)対応のホスト・アプリケーション、INTELプロセッサー
■Windows:Windows Vista/7/8/10、AAX/DirectX/VST(いずれも32/64ビット)対応のホスト・アプリケーション、SSE2命令セットに対応したプロセッサー(Pentium 4 以降)
■共通:スタンドアローンでも動作

 

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