Mission 2:コンプを使い分けろ! EQ&コンプで作る最強コンボ 〜プラグインが織りなす相乗効果を狙え!(2)

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EQとコンプのプラグインは、最新のデジタルからビンテージのアナログ機材をモデリングしたものまで、非常に多くの製品がリリースされています。しかし、その中から自分に最適なものを選ぶのは、とても難しいことですね。この特集では、ミックス・エンジニアのyasu2000氏がEQとコンプの多彩な組み合わせ方を、音源と併せて紹介。プラグインそれぞれの特性を生かし、あなただけの音作りを叶える最強コンボについて考えてみましょう!

Mission 2:コンプを使い分けろ!

yasu2000

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 さまざまなEQとその組み合わせ方については理解できたでしょうか? 次は、コンプレッサーに関してです。コンプもさまざまな種類のプラグインがありますが、僕はアナログ・モデリング・タイプのコンプを愛用しています。ここでは基本的なコンプの操作方法を理解するとともに、デジタルのコンプの特徴もつかんで正しい使い分け方を考えていきましょう!

↓START↓

 

ヒント

コンプは主に以下の役割を果たす

★ダイナミクスやピークを抑える
★奥行きを持たせる
★グルーブを安定させる
★抑えた周波数帯域に生じる音の断面をとらえながら、その形を変えて音のイメージを操作する

 

音の変化を視覚的にイメージできるデジタル

 コンプも大きくデジタルとアナログ・モデリングの2つに分けられます。デジタル・コンプはパラメーターが小数点単位で、アタック/リリース・タイムが幅広く設定できるのが特徴。また、グラフで操作内容を確認できるので、グルーブや奥行きの変化を感覚的につかみやすいです。グラフの縦軸(出力音量)は、頭の中で“奥と手前”に立体的にとらえます。レシオ(圧縮率)を決めてスレッショルド(コンプの動作を開始させる音量)を下げると、グラフの折れ曲がる線に当たる部分が音のつぶれた断面に見えてくるはずです。

 

 次にその断面をどのタイミングで鳴らすのか説明します。打楽器ならば、一打の音の波動は大きく分けて3段階。最初に突出して聴こえるアタック、次に長い時間で音量が下がるボディ、さらに小さい音量で減衰するテールです。アタック・タイムが速いとコンプでつぶれた断面が手前に現れてボディとの音量差が少なくなり、鋭さが無くなります。さらにリリース・タイムを遅めに設定すれば、コンプのかかったボディが長く続き、ファットな響きを得ることができます。リリース・タイムが長過ぎると、次の音のアタックにかぶってきますが、ここは工夫のしどころ! 2、4拍目はあえてつぶし、1、3拍目のアクセントのみを残せば、グルーブに統一感が生まれます。逆にアタック・タイムを遅くするとアタック音の形は残り、ボディのつぶれた断面が奥から聴こえます。また、同じスレッショルドのままリリース・タイムを速くするとボディのつぶれた断面が見える時間が短くなりコンプ感が薄れるのです。このように音のアタック/ボディ/テールの長さを、アタック/リリース・タイムで調整してみてください。

 

1stアイテム1176系コンプ(例:UNIVERSAL AUDIO UAD-2 1176)

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2ndアイテムデジタル・コンプ(例:AVID Pro Tools付属のCompressor/Limiter)

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スレッショルド
コンプの動作の基準となる音量を設定する。デジタル・コンプの場合、スレッショルドと明記しているものも多いが、1176系など、ビンテージの実機を元にしている場合、実機にならってスレッショルドが固定で、インプットの大小でコンプのかかり具合を設定するものもある

 ゲイン
圧縮によって下がった音量を上げるセクション。出力音量はメーターなどで確認も可能だ。1176系コンプはメーター横のスイッチ+4/8を選んで使用する。ちなみに+4は、メーターの0の位置が+4dBであることを意味する

アタック/リリース・タイム
アタック・タイムは、コンプの効き始めからレシオで設定した圧縮率に到達するまでの時間を指す。リリース・タイムは、スレッショルド値を下回ってから圧縮がオフになるまでの時間。1176の場合、右に回すほど速い設定

レシオ
ここでは圧縮率を設定する。1176系コンプの場合は、20:1、12:1、8:1、4:1の圧縮比から選択。20:1ならばコンプ後に20分の1の音量になる設定だ。圧縮率は高ければ高いほど、ナチュラルさが失われる傾向にある

ニー
コンプによる圧縮を、ハードもしくはソフトに開始するかどうかを決める。グラフで表示されるカーブが鋭い場合がハード・ニーで、ゆるやかになっていればソフト・ニーという。1176系コンプでは専用のパラメーターが無いが、圧縮比率の高い20:1、12:1がハード、8:1、4:1の場合がソフトになっている

サイド・チェイン
例えば、ベースのトラックにコンプをインサートして、サイド・チェインにキックの音声を入力すると、キックの鳴るタイミングでベースがコンプでリダクションされてキックが聴こえやすくなる。フィルターを使うと、フィルタリングした帯域にコンプを反応させないことも可能

 

積極的に音質変化させるアナログ・モデリング

 次に、アナログ・モデリング・コンプを見てみましょう。モデリング・コンプはアタック/リリース・タイムが固定のものもあります。さらに、ひずみが加わったり、つぶれた断面の形が丸くもしくは四角くなったり、モチモチになったりと印象を変えてくれます

 

 僕が最も多用しているUNIVERSAL AUDIO UAD-2 1176は、値が固定のスレッショルドに対しインプットの大小でかかり具合を決め、ゲインをアウトプットで調整する仕様です。インプット・ノブを少しずつ回したときに、まるでマイクとの距離を操作しているかのように立体的に奥行きが変化します。アタック/リリースの調整も絶妙な反応でグルーブを演出できるためとても使いやすいです。

 

 またコンプでは、段階的にアタック・タイムを変えながら音圧を上げるのをお勧めします。一つのコンプで極端につぶすとうねりが露骨に出て、自然さが失われるからです。そのため“音のキャラクターは気に入っているがアタック・タイムが遅い”といった場合は、無色かつアタック・タイムの速いコンプと組み合わせるなどします。また、アタックを残しながらピークを抑えたいときは、アタック処理用とピーク処理用、2種類のコンプで調整するのがよいと思います。こうすると、自然な質感のままグルーブや響きの印象を操作できます。

 

 以上のように、コンプを複数組み合わせる理由は以下の3つが挙げられます。

● 段階的にコンプレッションを行うため
● 自然な質感のままグルーブや響きの印象を変えるため
● アタック/リリース・タイムの特性が異なるため

 

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yasu2000

【Profile】big turtle STUDIOSのレコーディング/ミックス・エンジニア。NYのInstitute of Audio Research卒業後、ブルックリンのBushwick Studioを経て、2005年に帰国。現在はorigami PRODUCTIONS所属のアーティストのほか、あいみょんなどを手掛けている。

 

特集「EQ&コンプで作る最強コンボ」

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