PAスピーカーで知られるWHARFEDALE PROから、初のスタジオ・モニターとしてリリースされたDiamond Studio BT Series。ホーム・スピーカー・ブランドとして90年の歴史を持つWHARFEDALEが1980年代に発売しベストセラーとなったブックシェルフ型スピーカーDiamond Seriesの名を冠しているとのことで、期待が高まるところだ。その背景と実力を紐解いていこう。
撮影:鈴木千佳 撮影協力:HAL STUDIO
1932年創業の老舗オーディオ・メーカー
1932年、ギルバート・ブリッグス氏はイギリスのヨークシャーにある自宅の地下室で最初のスピーカーを作った。彼の自宅はワーフェ川の谷間、今日ではワーフェデールとして知られている地域にあり、これがオーディオ・メーカーWHARFEDALEの始まりだ。ブリッグス氏は後にハイファイ・オーディオにおけるパイオニア的な存在になる。
1945年、より良い音質での音楽再生を求める風潮が高まりつつある中、WHARFEDALEは現代のラウド・スピーカーの原型となる初の2ウェイ・スピーカーを開発。10インチ径のツィーターや、大人2人がかりでやっと持ち上げることができるクロスオーバーなど、現代から見ると風変わりなものではあるが、これが当時の業界全体の基準となった。1950年代に入ると、ブリッグス氏はオーディオ・メーカーQUADのピーター・ウォーカー氏と共同でコンサート向けのシリーズを開発。QUADがアンプを、WHARFEDALEがスピーカー・システムを提供することで、観客がライブや音楽を直接体験できるシステムを実現した。
1960~70年代にはデザイン性を重視するためにチーク・ビニールやプラスチックを導入。1980年代初期にはスキャン・レーザー・プローブ(SCALP)と周波数スライス・プロット(FRESP)技術を導入し、ラウド・スピーカーへの理解を深め、業界のさらなる発展をもたらした。1981年には超小型のブックシェルフ・タイプのスピーカーDiamond Seriesを発売。独自のドライバー技術を駆使し、高速でタイトなサウンドを実現したという。このスピーカー・シリーズはベストセラーとなり、現在においても発売されている。中でもDiamond 220はWhat Hi-Fi Awards 2014で200ポンド以内のベスト・スピーカーに認定された。
部品のほぼすべてを自社工場でゼロから製造
1996年、WHARFEDALEは数多くのオーディオ・ブランドを有するInternational Audio Group(以下IAG)の傘下となり、その翌年プロ・オーディオ市場の需要に対応するためにWHARFEDALE PROを設立。現在ではラインアレイから設備音響、ポータブル・オーディオまで幅広く展開するブランドになっている。IAGの中心地である中国には約40万㎡にわたる広大な敷地の工場があり、製造の95%以上の工程がここで行われる。既製品のパーツを使うのではなく、部品をゼロから製造し、すべての生産を一貫して行うことで高いクオリティを追求することが可能になっている。
ウーファーのサイズが異なる2機種をラインナップ
Diamond Studio BT Seriesは、Bluetooth接続に対応したパワード・タイプのモニター・スピーカー。スマートフォンなどのモバイル・デバイスをワイアレス接続するほか、TWS(True Wireless Stereo)システムにより2台のスピーカーをワイアレスでペアリングしてステレオ・リンクさせることもできる。
6.5インチ径ウーファーを備え、最大音圧113dBのDiamond Studio 7-BTと、5インチ径のウーファーを備える最大音圧110dBのDiamond Studio 5-BTをラインナップ。周波数特性は7-BTが38Hz~25kHz、5-BTが45Hz~25kHzだ。高域、低域それぞれにクラスDアンプを採用したバイアンプ方式になっている。剛性が高く軽量なグラスファイバー製のコーン・ウーファーを搭載。アナログ入力はRCAピン(ステレオ)とXLR/フォーン・コンボ端子を備えている。
SPECIFICATIONS
Diamond Studio 7-BT
■ユニット構成:1インチ径ツィーター+6.5インチ径ウーファー ■周波数特性:38Hz~25kHz ■トータル出力:150W ■最大音圧:113dB ■外形寸法:210(W)×340(H)×260(D)mm ■重量:6.84kg
Diamond Studio 5-BT
■ユニット構成:1インチ径ツィーター+5インチ径ウーファー ■周波数特性:45Hz~25kHz ■トータル出力:140W ■最大音圧:110dB ■外形寸法:180(W)×290(H)×240(D)mm ■重量:5.62kg
共通
■クロス・オーバー:2.2kHz ■指向角度:135°×110° ■入力:XLR/フォーン・コンボ×1系統、RCAピン×1系統、Bluetooth
Diamond Studio BT Seriesをエンジニア山崎寛晃氏が試聴
プロ・オーディオ専門ブランドWHARFEDALE PRO初のモニター・スピーカーDiamond Studio BT Series。エンジニア山崎寛晃氏のレビューをお伝えしよう。
フラットかつエネルギッシュな音像
外見はいかにもスタジオ・モニターという感じで特徴のあるウーファーが目を引きます。Diamond Studio 7-BT、5-BTどちらも、大きさから想像するより軽量で扱いやすいです。低域と高域のレベル・コントロールは自然な効き方で、設置場所に応じて柔軟に対応できそうですね。今回試聴した10畳ほどの環境では、どちらも0dBでちょうど良かったです。
まずリファレンス音源(ネオソウル、ロック、ポップスなど)を再生してみます。低域から高域までクセがなくフラットに鳴っているものの、音の立ち上がりが速く、エネルギッシュなサウンドです。特に7-BTはローエンドまでしっかり分かります。次に、現在ミックスしているAVID Pro Toolsのセッション(ポップス、ボサノバ)を聴いてみました。歌や生楽器の表現力に優れ、ニュアンスがよく分かります。また、ステレオの定位感が良く、パンニングの微妙な変化がとらえやすいです。ひずみ感もよく分かります。特に音が前に出るようなロックやポップス、ヒップホップなどのジャンルに適していると思いました。
Bluetooth機能で視点を変えてミックスが可能
Bluetooth接続にするとホーム・オーディオとして音楽を流したり、映画や動画を観るのに適したサウンドに変化。具体的には音の輪郭が淡く、特に低域がパワフルになります。1つのスピーカーで視点を変えてミックスをチェックできるのが良いですね。7-BTと5-BTの音のキャラクターはよく似ていますが、7-BTの方が中域を中心に、よりフラットなサウンドなのと、サイズが大きい分低域が出るので、設置場所が許すのであれば7-BTを購入することをお勧めします。
機材を何からそろえれば良いか迷っているビギナーの方は、まず最初にスピーカーを検討するべきだと思います。Diamond Studio BT Seriesは導入しやすい価格で、スタジオ・モニターに求められているものをきちんとカバーしています。分離良く各音の輪郭がよく見え、音色選びや録音、ミックスをする際の判断がしやすいので、作業効率が上がるでしょう。色付けが無い音ではあるものの、 決しておとなしいキャラクターではなく、Bluetooth接続で高品質なホーム・オーディオとしても使用できるので、既にモニター・スピーカーを使用している人も、セカンド・モニターとしてぜひ試していただきたいです。