2023年9月23日〜24日に開催されたイベント『サンレコフェス2023』にて行われた、5つのセミナーを動画とともにレポート! 続いては、“単曲配信のための、DAW完結マスタリング”をテーマに実施したセミナー。エンジニアのyasu2000氏がAVID Pro Toolsセッションを開きつつ、事前にマスタリングした音源を用いて解説した。
Photo:Hiroki Obara
単曲配信に効くマスタリングをDAWで完結させる(yasu2000)
このセミナーは、本誌2023年10月号「マスタリングの現在」の記事をベースにしたもの。普段からミックスとマスタリングの両方を手掛けるyasu2000氏が、Uilou「マチアワセ」を題材曲として話を進めた。最も興味深いのは、マスタリングのビフォー/アフターだけでなく、各工程の結果を聴くことができた点。工程は大きく分けて以下の7つだ。
- ある程度まで音量を上げる
- サビが大きくなるよう調整してからEQでキャラ作り
- リミッターなどで音圧感を決める
- 緻密なEQで理想の周波数特性にする
- ダイナミックEQで耳に痛い高域をカット
- エンハンサーで中域の倍音を整える
- EQで中域を少し上げて“色味”を出す
最初に説明されたのはマスタリングの方針。題材曲がダンス・ミュージック系なので、カルヴィン・ハリス&デュア・リパの「ワン・キス」をリファレンスにしたと話す。
「あらゆる再生環境で、楽曲のすべての音がきちんと聴こえるようにすること。これが、僕のマスタリングのゴールです。そのために、今回は高域のブーストや低域の強調、音圧アップなどを行いました。音圧に関しては最近、ストリーミング・サービスのラウドネス・ノーマライゼーションをオフにする人が多い印象なので、十分に高めるようにしています。ただ、YouTubeではオフにできないため、“YouTube用”と“その他のストーリミング/CD用”の2種類のマスターを作成する、というのが近年の僕のやり方です」
方針を語った後、各工程を順にプレイバック。すっぴんの2ミックスが、徐々に洗練されていくのが分かる。
「高域のブーストは、複数のEQを使って少しずつ、段階的に行うのが良いと思います。1台のEQで大幅にブーストすると、耳に痛くなりがちだからです。とは言え、どうしても痛い帯域は出てくるので、ブーストした後にダイナミックEQでピンポイントにカットするんです」
4.の工程も重要。EQを使用し、USメインストリーム系の楽曲のような周波数特性にシェイプした。
「50Hz辺りが最も大きく、中~高域にかけてはつながり良く、なだらかに下がっていくようにEQします。ミッドとサイドの両成分にアプローチして、各パートの干渉を避けながら調整していくのもポイントです」
最後に“マスタリングでつまずかないためのミックスの秘けつ”にまで言及したyasu2000氏。動画を視聴し、そのノウハウを自らの音楽制作に生かしていただきたい。