SENNHEISERから新たに発売されたダイナミック・マイクのMD 435とMD 445。大口径ダイアフラムを採用し、MD 435はカーディオイド、MD 445はハイリジェクション・スーパー・カーディオイドと指向性が異なる。今回はアイドル・グループPARADISESのユイ・ガ・ドクソンが実際に使用して、同グループのPAエンジニアを務める松田健一氏と対談! アイドルとエンジニアがマイクをテーマに語らう物珍しい企画が実現したが、知見の異なる2人がMD 435&MD 445を主軸に言葉を交わし合ったら……どうなるのか? 前編ではMD 435&MD 445を試す入口として、両機種の仕様をチェックしながら対談いただく。
Photo:Chika Suzuki
SENNHEISERのマイクは高域に独特の質感がある
ーユイ・ガ・ドクソンさんは普段ライブでどのようなマイクを使われているのでしょうか?
松田 さまざまなマイクを使いますが、そのラインナップの中にSENNHEISERのワイアレス・マイク用カプセルMMD 835-1 BKも入っていますね。
ユイ・ガ・ドクソン(以下ドクソン) そうみたいですね! 私は自分でマイクを選んだ経験は無いので、今回みたいに2本のマイクを比較して、それぞれの満足度を考えるのは初めてなんですよ!
ーでもドクソンさんはさまざまなマイクを使われているとのことなので、響き方の違いに気付いた経験はあるのではないでしょうか?
ドクソン そうですね! ライブによってマイクが変わるので、いつもよりこもって聴こえるときや、体育館で校長先生がしゃべっているときの“マイク通しました!”って感じの電子音っぽさを感じることとかはありましたね。
松田 しかも、同じマイクでも使う人によって相性の良し悪しが変わるからね。
ドクソン そうですよね。例えば、同じグループで活動しているメンバーのココ・パーティン・ココは、低音が効いた声なんですよ。私はたまに、自分の声がマイクに乗りづらいかなと思うことがあったりします。
ー松田さんから見て、ドクソンさんの声質を言い表すとしたら?
松田 まさに“真っ直ぐな声”ですね。だからマイクの特性を利用して、少し派手に演出するのも合うのかなって思います。
ドクソン いつも松田さんは子音が立つように調整してくれているんですよ! ライブしていると自分の本当の声よりも何割も増して格好良く聴こえる。メンバーごとにそれぞれ絶妙に調整してくれていたり……マイク選びも関係があるんですよね。
松田 そうですね。ボーカリストの武器はマイクだけなので、その一本で勝負しなくてはいけないから大事な存在だよね。
ーMMD 835-1 BKとドクソンさんの声の相性はいかがでしょうか?
松田 合いますね。SENNHEISERのマイクはどれも高域に独特の質感があって、子音の響き方などに作用して聴こえやすくなっていると感じます。実はMD 445は、ドクソンさんではないけれど、実際に現場で女性ボーカルに試したことがあるんです。高域がパキッと出て、低域がくっきりと見えるマイクだと思いました。かなり相性が良いんじゃないかと思います。
MD 435と445はスリムでスベスベで好き
ー期待値が高いということで、まずは実際にMD 435とMD 445を触ってみましょう! 持ってみた感触はいかがでしょうか?
ドクソン 私はいつも結構マイクを強く握り締めちゃうタイプなので、グリル・ボールとの境目の部分が当たって指が痛くなることがありますが、MD 435とMD 445はボディがスリムなのでずっと持っていても大丈夫そうです!
ー触り心地はいかがでしょうか?
ドクソン スベスベです!
松田 確かにサラサラしているのは良いですよね。
ドクソン そして少しマットなので、すべりにくそうな気がします。いつも踊りながら歌うとものすごく手汗をかくので。
松田 実際にこれまで、マイクを飛ばしてきた人が何人か居るよね(笑)。
ドクソン 私も振り中にスコーン!って飛ばしたことがあります(笑)。MD 435とMD 445は握りしめたときに手にしっかりとフィットするなと感じる。思わず手から離れることも少なそうです! 細くて握りやすい、このスリムな体型をしたマイク、好きなんですよね。
ーMD 435とMD 445でグリル・ボールの形が異なっているようですね。
松田 MD 445はグリルの先が少し短いですね。これによって、単純にボーカルの口元とダイアフラムの距離感が変わりますよね。
ドクソン MD 445はアイスクリームみたいな形でかわいいです。そのダイアフラムというのは何ですか?
松田 マイクのグリル内部に入っているパーツの名前です。声の振動でダイアフラムが揺れて、コイルが動き、電気信号が発生して音になっているんです。
ーMD 435とMD 445では大口径ダイアフラムが採用されています。周波数特性も40Hz〜20kHzとレンジが広くなっていますね。
松田 今の音楽や今のスピーカーとかだと、高域の再現性がどんどん上がっていますよね。スピーカーの周波数レンジとかは広いので、昔からあるマイクはナローに聴こえてきたりする。MD 435とMD 445のように高域が20kHzまで伸びていれば、声の解像度が高くなるし音像が大きくなるんです。
ドクソン 確かに、私はライブの会場によっていろいろな種類のマイクを使っているんですけど“もっと自分の声に近い音で鳴ってほしい”って思った経験がありました。MD 435とMD 445は、その部分で期待できそうだなって思います!
ー15kHz以上の高域が収音できるメリットはどんなところでしょうか?
松田 15kHz以上は、明るいとか暗いとか全体のトーンに影響する情報がある帯域です。高域成分がしっかりと収音されると、音の輪郭にリアリティが出てきて、明確なものになりますね。声の再現性の高さについても、期待できるんじゃないかと思います。
鋭い指向性はアイドル・グループに必要不可欠
ー両機種は指向性も異なりますね。
ドクソン シコウセイ……って私は分からないです。
松田 マイクで収音できる向きや範囲のことなんだよね。指向性には幾つかパターンがあります。
ーMD 435がカーディオイドで、MD 445がハイリジェクション・スーパー・カーディオイドなんです。
ドクソン ハイリジェクション・スーパー・カーディオイドって、なんだかとても速そうな気がしますね。“スーパー・カー”っていう言葉が入っているし……近未来的な感じがします。
一同 (笑)。
松田 確かにMD 435もMD 445もレスポンスの速さが魅力だったりするんだけど、それはボイス・コイルの素材(両機種ともに軽量アルミニウム銅)というまた別の理由があるんですよね。さっき話していた2つのカーディオイドは、どちらもマイクの正面で鳴っている音を収める指向性の名前を指しています。MD 445のハイリジェクション・スーパー・カーディオイドは、収音範囲をより狭めてマイクの目の前で鳴る音を集中的に収音する指向性。その結果、FOHやモニターのスピーカーなどから周り込んでくる音をあまり入れないので、ライブでハウリングなどを起こしにくいんですよね。
ドクソン よくライブ現場で“今日のマイクはより真っ直ぐな声を拾うから、マイクに口を近付けて”って言われることがあるけれど、そのときと同じような特徴があるマイクということですか?
松田 そう! ハイリジェクションはSENNHEISERが付け加えた独自の言葉だけれど、スーパー・カーディオイドのマイクはボーカリストとマイクの距離が近付くにつれてより声にフォーカスして収音されるという特徴があります。
ドクソン へぇ〜、なるほど! じゃあMD 445を使うときは、顔の横にズラしてしまわないように歌わないとですね!
松田 ドクソンさんが1カ月前まで所属していたGO TO THE BEDSの曲は、音数が多くて激しいサウンドが多いですよね。しかも、ライブではメンバー6本のマイクが並ぶので、それぞれヘッドアンプでゲインを稼いだ状態だとハウリングも起きて、マイクがステージ上で生きているだけでぼわぁっと膨らんでしまいがち。だから指向性が鋭くて音がはっきり立ち上がるマイクは、アイドル・グループのPAにはこれから必要不可欠になるかもしれない。いつも歌詞に沿ってボーカルのフェーダーを追いかけながら10dBぐらい上げるんです。でもハイリジェクション・スーパー・カーディオイドのMD 445ならば、すべてのマイクの音量をあらかじめ上げておくこともできそう。そうすれば僕はほかのミックス操作に集中できるので、PAとしてはアドバンテージが高いなと思います。僕がもっと、頑張れるという意味です!
ドクソン 松田さんが頑張ってくれて、私の声が格好良くなるのはうれしいです!
ーまたハンドリング・ノイズを抑えるためにスプリング・マウント式カプセルになっており、取り外しができます。
ドクソン もしかして、このグリルの中にグミやミント・タブレットを収納することができたりするのでしょうか!?
松田 それは絶対に無理ですね(笑)。
ドクソン わたしたちはライブ中に水を飲まないので口が乾くんですよ。マイクの中に幾つかミント・タブレットを入れることができたら、ステージが暗転したときに、お客さんにバレないように食べられるかなと思ったのですが……。
ーそれは残念ながら難しいですね(笑)。でも、マイクはそういった楽しい妄想ができる存在で、何よりもドクソンさんの声の“どの部分をどんな風に印象的に響かせるか決めてくれる大事なもの”ということを学べたのではないでしょうか?
ドクソン はい! きっとMD 435とMD 445はどちらも、とても性能が良いんだろうって思うので、歌って試すのが楽しみです。音がクリアだったり、声を拾いやすいマイクだったらうれしいです!
松田 では実際に試していきましょうか! 今回は「PARADISES RETURN」を歌って試してみましょう。
ドクソン PARADISESに移籍してから初の現場なので、なんだか緊張するけれど頑張ります! 楽しみです!
後編では歌唱動画も公開予定!
ユイ・ガ・ドクソン
【Profile】音楽事務所WACK所属アイドル。GANG PARADEのメンバーとしてデビューし、2020年にGO TO THE BEDSが始動した際には初代メンバーとして活動。2021年10月よりPARADISESとGO TO THE BEDSの全メンバーがトレードする形でPARADISESへ移籍した。好きな食べ物はラーメン。
松田健一
【Profile】三重県出身のライブPA。2016年に株式会社Synkを設立し、WACK所属アイドルを含むさまざまなアーティストのライブPAを数多く行っている。そのほかアミューズメント施設やホテル、店舗の音響システムなども手掛ける。
SENNHEISER MD 435 / MD 445
オープン・プライス(市場予想価格:各81,400円前後)
SPECIFICATIONS
●MD 435
▪指向性:カーディオイド ▪感度(@1kHz):1.8mV/Pa ▪等価ノイズ・レベル:17dBA ▪外形寸法:47.5(φ)×181(H)mm ▪重量:350g
●MD 445
▪指向性:ハイリジェクション・スーパー・カーディオイド ▪感度(@1kHz):1.6mV/Pa ▪等価ノイズ・レベル:18dBA ▪外形寸法:47.5(φ)×174(H)mm ▪重量:329g
●MD 435/MD 445共通
▪周波数特性:40Hz〜20kHz ▪最大SPL(@1kHz):163dB ▪出力インピーダンス(@1kHz):245Ω