注目の製品をピックアップし、Rock oNのショップ・スタッフとその製品を扱うメーカーや輸入代理店に話を聞く本連載。今回はEQプラグインのSONIBLE Smart:EQ 3を紹介する。その特徴はAI搭載による自動イコライジングだが、入力された音声信号に合わせた最適な処理を素早く適用してくれるだけでなく、そこからユーザーが好みをしっかりと反映できるようになっているとのことだ。クリプトン・フューチャー・メディア SONICWIREチームの岩出龍馬氏と林有希寛氏、メディア・インテグレーションの伊部友博氏に話を聞いた。
SONIBLE Smart:EQ 3
14,146円(価格は為替によって変動)
AI搭載のEQプラグイン、Smart:EQ。入力したソースを分析し、カスタム・カーブ・フィルターを生成することで不快なレゾナンスやノッチを取り除くことができる。楽器ごとに適したプロファイルが用意されており、ユーザー自身でもプロファイルを作成可能だ。カーブをプラスまたはマイナス方向にどの程度適用するのかを調整するウェイティング・カーブを持ち、全体の調整だけでなく必要な周波数帯域だけに適用することもできる。ウェイティング・カーブは固定のほか、ダイナミックEQのように信号のダイナミクスに合わせて反応させることも可能。
●SONIBLEについて教えていただけますか?
岩出 エンジニアの方々が設立したオーストリアのメーカーです。現場のニーズに沿った開発が行われており、AIを用いたSmartシリーズのほか、EQのようなインターフェースでトランジェントや残響成分をコントロールできるEntropy:EQ+やProximity:EQ+など、ほかのメーカーでは見られないような独特のエフェクトをそろえているのが特徴です。
●SmartシリーズはAIを搭載した自動処理が魅力のプラグインです。Smart:EQ 3ではどのような処理が行われるのでしょうか?
岩出 Smart:EQ 3には、ベースやキック、スネア、ギターといった楽器ごとのプロファイルが用意されており、その楽器に対して処理すべき部分……例えばキックであればベースとかぶりやすい100Hz辺りの調整など、そのソースで耳障りだったりレゾナンスが出やすい部分を抑えることを念頭に置いて処理がされます。このプロファイルを選んでから入力信号のラーニングをすることで、プロファイルに沿いつつ実際に入力信号に合わせた調整が行われるんです。プロファイルに無い楽器の場合は、汎用的に使えるUniversalというプロファイルを選んでもらうとよいでしょう。
●プロファイルはファクトリー・プリセットだけでなく、ユーザーも作成できるのですか?
岩出 はい、作成いただけます。例えば、高域を持ち上げたサウンドが好みで、その処理を常に行ってほしいという場合、Smart:EQ 3上でそのように設定した後にプロファイルを新規保存すれば、また別のトラックでも簡単にそのサウンドの方向性へと処理することが可能です。ファクトリー・プリセットはあくまでSONIBLEからの一つの提案と考えていただき、好みに合わせて調整しつつオリジナルのプロファイルを作成してもらうのがよいと思います。
●AIで処理された音はどんな印象ですか?
伊部 他社のAI搭載プラグインではマスキングが抑えられ、音がスッキリしていく方向だったりしますが、Smart:EQ 3はただ単に平均化するというよりも、個性を持った処理が行われる印象でした。ドラムにガッツさが加わったり、レンジが狭くなったように感じても全体で鳴らすとピッタリとハマったりして、音楽的に面白いサウンドになります。
林 他社製AI搭載プラグインでは、AIが処理して終わりということもあります。しかし、Smart:EQ 3では、“この帯域だけAIの処理を加えたい”“AIの処理とは逆の方向へ適用したい”ということも叶えられるんです。
●AIが提案したEQ処理をどの程度適用するかを調整できるウェイティング・カーブの機能ですね。
岩出 はい。ウェイティング・カーブは一部の帯域に絞ったり、適用をマイナス側にすることができるんです。AIによってブーストされた部分をカット、カットされた部分をブーストするわけですね。AIは音のピーキーな部分などを抑えるわけですが、そういった部分がその音の個性だったりもします。逆方向に適用することでその部分が持ち上がり、自然と際立つ音になるわけです。
伊部 聴きやすいけどのっぺりした音になりやすいAI処理にアイディアを投じた、アーティスティックなプラグインになっていますね。
岩出 さらにSmart:EQ 3からは、このウェイティング・カーブを2バンドに分割することができるようになりました。分割することで、特定の帯域にフォーカスしてラーニング結果の適用量を調節することができます。
伊部 全帯域を一度に処理すると、“低域が強めだけど、処理を深くすると高域のおいしい部分が無くなる”などの悩みも出てきます。ウェイティング・カーブを分割することで高域/低域を個別に調整できるので、音作りの幅が広がるでしょう。現状では2バンドですが、3バンド以上にできるとマルチバンド・コンプのようにも使えそうなので、今後が楽しみです。
●Smart:EQ 3からは、ダイナミック・アダプションという機能が加わっています。
岩出 これまでは、ラーニングを行ったEQカーブが常時適用される状態でしたが、ダイナミック・アダプションを設定することで、ダイナミックEQのように入力信号レベルに合わせてカーブが常に変化します。曲中で音が大きく変化するような場合でも一貫性を保ったEQが可能です。
伊部 ウェイティング・カーブで適用量を深くしてフィルター処理をしっかりしながらも、その副作用を抑えることができる、とても優れた機能だと思います。
●AIによるEQカーブだけでなく、通常のEQのようにポイントを追加して音を追い込んでいけるのも魅力です。
岩出 AIがメインとなるプラグインではありますが、手動のEQでもリニア・フェイズやM/Sモードを搭載するなど、通常のEQとしても高機能なものになっているんです。
林 AIの機能は“スタート地点を整える”ようなイメージで、音色へ過度な変化を与えないようなアルゴリズムになっています。そこからユーザーが調整できるEQはとてもトランスペアレントなものに仕上がっており、純粋なEQとしての機能も追求されているんです。
伊部 サウンド全体のミッドとサイドのバランスも簡単に調整できます。ドラムをミッドにグッと寄せてガッツのある音にする、立体感を持たせたいソースであればサイドに寄せるなど、さまざまなシーンで活用できるでしょう。サイド成分のパンニングも可能で、片チャンネルに寄ってしまった音を補正することもできます。これもプロが喜ぶ機能だと思いますね。
●新機能として一番注目されているのがグルーピングです。どのような機能なのでしょうか?
岩出 複数のトラックに挿したSmart:EQ 3が連動し、各トラックの相互作用を考えたEQが自動で行われます。最大6trのSmart:EQ 3をグループとして設定可能です。グループの中にはレイヤーが3つあり、レイヤー1から順番に聴かせたいトラックを配置していきます。例えば、ボーカルを一番聴かせたいときはボーカル・トラックをレイヤー1に配置して、ドラムなど次に目立たせたいトラックはレイヤー2に。パッドなど抑えめにしてもよい音をレイヤー3へするなど、ユーザーのこだわりや曲の方向性に合わせて優先順位を設定してラーニングをすると、お互いの音が邪魔しないように、かつレイヤー設定に合わせたEQ処理を施してくれます。
伊部 レイヤーの効果は分かりやすく、優先順位を設定した上でウェイティング・カーブを調整すると、前に出したいトラックの音がすごく立ってくれるんです。時間の無い中で制作を行っている作家の方などは、素早く曲を仕上げるためのツールとして重宝すると思います。
岩出 グルーピングを行うと、一つのSmart:EQ 3からそれぞれのトラックのEQ設定を調整できるようになります。それも時短につながると思いますね。
●AIプラグインということでこれからの進化も気になるところですが、今後に期待したいことはありますか?
伊部 有名エンジニアのプロファイルが出ると面白そうですよね。単純なエフェクトのプリセットではなくプロファイルなのでAIによるラーニングも加わり、積極的な音作りに活用していけると思います。
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