注目の製品をピックアップし、Rock oNのショップ・スタッフとその製品を扱うメーカーや輸入代理店が語り合う本連載。今回はYAMAHAのパワード・モニター・スピーカー、MSP3Aを紹介する。MSP3の後継機となるモデルで、MSPシリーズ共通のリファレンス・サウンドはそのまま、よりクリアな再生を目指した改良が施されているスピーカーだ。ヤマハミュージックジャパンの重森耕一郎氏、滝澤真二氏、ヤマハ・エレクトロニクス・マニュファクチュアリング・インドネシアの塩島浩之氏、Rock oNの伊部友博氏に、MSP3Aについて語っていただいた。
Photo:Takashi Yashima(メイン)
MSP3A
オープン・プライス(市場予想価格:16,000円前後/1台)
●YAMAHAのモニター・スピーカーと言えば、まず思い付くのがNS-10Mですね。
重森 NS-10Mは1977年に開発されました。もともとAV機器のカテゴリーとして登場しましたが、そのクオリティはサウンド・エンジニアをはじめとしたプロの方々からも信頼いただけたため音楽制作現場でもスタンダードとなり、後にNS-10M Studioが登場することとなります。そして1998年にMSP5というモデルを発売しました。パッシブのモニター・スピーカーが主流だった中、MSP5はYAMAHAでは初めての本格的なパワード・モニターとして開発されたスピーカーです。
●自宅制作環境での使用を目的にMSPシリーズが作られたのですか?
滝澤 当時はコンピューターで音楽制作をするとなると、100万円ほどかけないと環境が手に入らない時代です。MSP5は制作環境でのモニターというよりも、ハードディスク・レコーダーやシンセなど、いろいろなものから音を再生するための汎用的なスピーカーという位置付けでした。
重森 最初はコンシューマーにもプロにも、パワード・モニターという存在をなかなか受け入れていただけなかったようです。しかし、時代とともに徐々にパワード・モニターが浸透していくこととなります。2004年にはSTEINBERGがグループ傘下となったことで、YAMAHAはさらにコンピューター・ミュージックに力を入れていきました。2005年には、自宅制作環境での使用を想定したHSシリーズが発売され、モニターのラインナップが増えていきます。
滝澤 YAMAHAとしては、MSPシリーズとHSシリーズでどちらが上位モデルということではなく、2つの選択肢をご提供しております。
重森 HSシリーズは5インチから8インチまでをラインナップしていますが、国内においては自宅の環境的に大口径のスピーカーだと鳴らし切れないという方もいらっしゃいますし、欧米と比べて小型モデルが好まれる傾向にあります。そのため約4インチのMSP3を選ばれる方は多くいらっしゃいます。
滝澤 YAMAHAでは音楽教室や学校での使用も想定しています。HSシリーズはウーファー部分が露出しているため、耐久面での不安を解消すべく、ウーファー部分にグリルが付いたMSPシリーズをお勧めしたりしていますね。ほかにも、サイレント・ピアノの再生用スピーカーとしてMSP3をご提案したりもしています。
重森 施設での使用も考え、MSPシリーズは底面にネジ穴が付いていて壁や天井への設置に対応しています。また、MSPシリーズを持ち運んで使う方も多いです。自宅制作環境で一度スピーカーを設置すればあまり設定を変えることはありませんが、持ち運んで使う場合はその都度音の調整も行います。MSPシリーズではその点も考え、フロントに操作子が備わっているんです。そういった面から汎用性の高いモニター・スピーカーと言えるでしょう。
●今回MSP3の後継として登場したMSP3Aは、どのようなポイントが改良されているのですか?
塩島 一見して分かる部分は、バスレフ・ポートが背面に移動したことです。以前のMSP3では、フロント・パネルに2つのポートがありました。ポートからはノイズも出ますので、後ろに移動させたことによって全体的に音のにごりを解消することにもつながります。また、今回はポートに“ツイステッドフレアポート”というものを採用しました。ひねりの無い通常のポートだと、ポートの端の部分で空気の乱れが発生します。これがノイズの原因になるんです。ポートにひねりを加えて広がりを変化させることで、空気の乱れを抑えることができ、クリアな低域を得ることができます。
伊部 MSP3と違ってポートが1つになり、直径も大きくなっていますが、それも音へ影響しているのですか?
塩島 はい。やはりポート径が小さいほど、気流による風切り音などのノイズは強くなってしまいます。ツイステッドフレアポートを開発する際には、通常のポートとひねりを加えたポートを比較試聴しました。ひねり具合が違うものも幾つか用意しましたね。ポートの変化によって、音の解像度に影響することを感じることができました。
●伊部さんはMSP3Aの音にどんな印象を受けましたか?
伊部 解像度や引き締まった音の印象は、MSP5 Studioと一致していました。口径が小さいので低域をしっかり再生するのは難しいところですが、80Hz以下を“感じる”ことはできます。これはNS-10Mでも言われていたことで、MSP3Aにも継承されているのだと思いますね。制作環境の都合で置けるスピーカーのサイズが限られる方や、初心者の方にはぴったりではないでしょうか。中高域がしっかり確認できますし、解像度が高くピントが合っているような感覚で、立体感もあって音の配置もしやすい印象です。
塩島 バスレフ・ポートが背面になったので、壁との距離で低域の量感はコントロールいただけると思います。
伊部 データ上ではMSP3から周波数特性は大きく変わっていませんが、低域が大きく感じられましたね。フロントにはトーン・コントロールが付いていますが、どのような設定になっているのですか?
塩島 LOWは100Hz以下、HIGHは10kHz以上を±3dBするシェルビング・カーブのような設定です。このカーブもMSP3から変える案もあったのですが、MSP3ユーザーが買い替えることも考え、既にお持ちの使用感を崩さないように同じ特性をキープしました。
●本体の軽量化もされていますね。
塩島 軽量化できた要因として、キャビネットとリア・パネルの見直しやツイステッドフレアポートが挙げられます。また、ウーファー・ユニットの改良として防磁キャップとキャンセル・マグネットを外せたのも影響しています。
伊部 “スピーカーは重い方が良い”という話もありますが、MSP3Aは軽くなりつつ再生性能が上がっているわけですよね。本体の材質は何なのですか?
塩島 ポリプロピレンです。開発ではこういった材質や板厚などを見直し、キャビネットの響きも考慮しました。再生音の広がりにかなり影響するんです。
●さらにリファレンス・サウンドに磨きがかかり、MSP3Aがあれば制作時の音の判断も安心して行えそうですね。
伊部 自宅制作をする人が増えている中、スピーカーで悩む方も多いです。MSP5 Studioまでは手が出せない……という場合にはMSP3A一択と言えるでしょう。ミキサーなどを必要とせず、入力2系統を再生できるというのもエントリー・ユーザーには優しい点だと思います。小さい音量でもバランスが崩れないため、夜の作業もしやすいでしょう。また、制作だけでなく、リスニング用途でも使えるスピーカーだと感じます。
塩島 モニターとして求められる音の分離感や解像度は意識していますが、リスニングでも使えることを目指して開発しました。ぜひ一度音を聴いてみていただきたいです。
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