注目の製品をピックアップし、Rock oNのショップ・スタッフとその製品を扱うメーカーや輸入代理店が語り合う本連載。今回は、リスニング用から業務用に至るまで幅広いマイクやヘッドフォンなどを手掛けるSENNHEISERと、多くのスタジオで愛用され続けているマイク・ブランドNEUMANNのプロダクトを紹介する。外出自粛が続く中、自宅での録音環境を整えたいと思い始めた読者は多いのではないだろうか。そんなホーム・レコーディングに適したSENNHEISERとNEUMANNのマイク&スピーカーについて、ゼンハイザージャパンの真野寛太氏、加藤大成氏、ROCK ON PRO清水修平氏が対談を行った。
Photo:Takashi Yashima(人物とMKS 4、MK 8、TLM 103を除く)
●昨今の状況で、自宅でのレコーディングやライブ配信を行うクリエイターが増えたと思うのですが、影響は感じられますか?
真野 ホーム・レコーディングに適した機材の需要が高まっていると感じます。ECサイトを持つディーラーからの注文が増えていますね。比較的低価格なものを中心とし、録音用のコンデンサー・マイクだけでなく、ピン・マイクなどの配信用の機材が購入されている印象です。
清水 4月は“配信を始めたい”という方が多かったので低価格帯の製品が売れていましたが、この状態が長期化するということも分かり、より良い画質/音質で配信するためにはどうすれば良いのかを考える人が増えると思います。これからはもう少しグレードの高い製品が売れ始めるのではないかと感じますね。Rock oN Companyとしても、“自宅でより良い音で録音や配信をしましょう”という提案をしています。
真野 確かに、NEUMANN U87AIの売り上げも伸びていると感じます。
清水 “スタジオに行けなくなったからスタジオの機材を買う”というアーティストも出てきたんですよね。これからは音楽の作り方も変わっていくでしょう。例えば、スタジオ・ミュージシャンの方々は、スタジオに行って良い演奏をすることを仕事としていましたが、これからは自宅でどれだけ良い音で録るのかということも求められるようになると思います。アーティストにも録音のスキルが必要になるのではないでしょうか。
●今回紹介するSENNHEISERとNEUMANNの製品も自宅での制作に適した製品です。まずはSENNHEISERのマイク、MK 4の特徴を教えてください。
加藤 もともと、E 965というハンドヘルドでラージ・ダイアフラムを搭載したライブ用コンデンサー・マイクがありました。E 965が好評であることを受け、E 965を元にしたサイド・アドレス・スタジオ用マイクとして作られたのがMK 4になります。実際の音質はE 965と少し違っていて、E 965は中~低域の太さがあり、ライブにおけるボーカルに向いたものです。MK 4は高域に特徴があるマイクになっています。
真野 音の厚みがある打ち込み系のトラックでも埋もれないようなボーカルを録りたいときに合うのではないかと思います。また、MK 4はスタジオ録音以外でもさまざまな使われ方をされているんです。コスト・パフォーマンスに優れ、高域も伸びているため、放送局などでは複数本を導入してアンビエンス用として使うケースもあります。PAの現場では、ギター・アンプに立てて、繊細な高域部分を狙ってミックスでギターが埋もれないようにする場合にも使われるんです。
清水 高域が変に強調されるような感じではなく奇麗に録れるマイクですね。
加藤 MKシリーズにはMK 8というモデルもあります。MK 4は指向性がカーディオイドのみですが、MK 8は5種類から選択可能で、さまざまなソースや録音環境に応じられるようになっています。MK 4の上位モデルではありますが、音のキャラクターは違っていて、MK 8の方が温かみのあるサウンドです。いわゆるNEUMANNのような温かみのカラーではなく、もう少しフラットなイメージ。オールマイティに使えるマイクになっています。
●NEUMANN TLM 102も、コンパクトで自宅での録音時も取り回しが良さそうですね。
真野 もともとNEUMANNは、レコーディング・スタジオや放送局などに向けた製品がメインでした。2010年くらいからホーム・レコーディングの場にもアプローチしていくこととなり、その第一号とも言えるマイクがTLM 102です。
●特徴としてはどのようなことが挙げられますか?
真野 小型ということもありますし、多種多様なソースの録音に使っていただけます。トランスレスですのでリニアなサウンドを実現し、価格も抑えることができました。最大音圧レベルも高く、打楽器系やギター・アンプでも使えるという汎用性に優れたマイクになっています。以前、音響ハウスのエンジニアの方に協力いただき、NEUMANNのマイク25機種を比較する企画を行いました。そのときは、アマチュアの方でも処理がしやすいという評価を受けましたね。
清水 身の詰まった音というか、余分な部分を良い意味で拾わない。狙ったソースだけを録れるというのがポイントです。逆に言うと、部屋の響きも含めて録りたいというときには向かない。必要なところを切り取って録音するようなイメージですね。音数が多い曲で、一つ一つの音を際立たせて録りたいというときにハマるマイクです。
●音響特性が整っていない自宅で録音する人にとっては扱いやすそうですね。
清水 そうですね。通常であればマイクの立て方にかなり気を使わなければいけないところが、難しく考えなくて済むと思います。
●3つ目の製品はNEUMANN KH 80 DSPです。NEUMANNにスピーカーのイメージを持っている人はまだ多くないでしょうね。
真野 測定器や放送局用スピーカーを開発していたKLEIN+HUMMELが1990年代にSENNHEISERのグループ会社となりましたが、2009年に閉鎖することとなりました。このときにKLEIN+HUMMELのスタジオ・モニター部門がNEUMANNに移動してきたんです。そしてNEUMANNブランドとしてリスタートしようと、2011年に発売したのがKH 120というスピーカーになります。KH 80 DSPは、KLEIN+HUMMELのラインナップには無かった小型のモデルとしてNEUMANNが作ったDSP搭載スピーカーです。現在ではスタジオの規模も小さくなってきていますし、それに合わせて開発されています。
●スペースが広くないスタジオや、ホーム・スタジオだとスピーカーの適切な設置も難しくなってきますし、そういう状況も考慮してDSPを搭載したのでしょうか?
真野 そうです。限られた環境においてモニターするということを想定しているため、その環境に合わせてスピーカー自体をコントロールするという考えですね。DSPはAPPLE iPad用アプリのNeumann.Controlで操作可能です。部屋の大きさや反響の具合、スピーカーからリスニング・ポイントまでの位置などを入力することで、補正が完了します。
加藤 質問に答えることで自動補正してくれるGuidedモードだけでもかなり正確な音へ近付けることが可能ですが、自身でEQやディレイ補正ができるManualモードでさらに追い込んでいくこともできます。
真野 Neumann.Control用の測定マイクも発売を予定しています。測定マイクを使えば、より簡単にセッティングができるようになるでしょう。
●サウンド的にはどのような特徴を持っていますか?
真野 マイクとスピーカーでは目指しているところが異なります。マイクに関しては芸術的表現の道具として考えており、トランスレスや真空管のものなど、さまざまなモデルを用意していますが、モニター・スピーカーは正確な音を出して客観的に聴くことが目的ですので、種類はサイズ違いの4機種のみです。同サイズで音が違うモデルなどはありません。NEUMANNがスピーカーを出しているというと驚かれる方もいて、実際に音を聴いてみると“NEUMANNらしくない”と感じられることもあります。それはマイクとスピーカーでは考え方が違うためです。
清水 最近では認知度も上がってきていて、小型モニター・スピーカーの中でもKH 80 DSPは人気があります。このサイズらしからぬ音圧感があるのも魅力です。ただ、価格的には初心者の方が買うというよりも、この状況下で自宅の環境を整える必要が出てきたアーティストなどに向いているのではないでしょうか。コンパクトでありつつ、音の素直さと高域の分かりやすさを兼ね備えているので、自宅のモニター・スピーカーとして非常に適していると思います。
●これからもホーム・レコーディングの需要は高まると予想されますが、SENNHEISERとNEUMANNに期待したいプロダクトはありますか?
清水 NEUMANNはモニター・ヘッドフォンのNDH20も出していますが、もう少しエントリー向けのヘッドフォンが出れば人気になるんじゃないでしょうか。今はヘッドフォンの需要も高いですからね。SENNHEISERからは、レコーディング・クオリティのヘッドセットが出るといいかもしれません。そうすればマイクの位置なども気にせずに録音できますよね。
真野 放送局を中心に接話用ヘッドセットは出していますが、録音に向いたものはありませんからね。面白い製品になると思います。
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