サウンドクルースタジオ|音響設備ファイル【Vol.86】

サウンドクルースタジオ|音響設備ファイル【Vol.86】

楽器レンタルやローディー、テクニシャンの派遣だけでなく、トランスポートや映像、音響部門、そしてスタジオ業務まで、幅広いジャンルで音楽業界での地位を確立してきたサウンドクルー。東京・大田区平和島にあるレコーディング・スタジオに、本年初頭、SOLID STATE LOGIC(以下SSL)の最新スタジオ・ミキシング・コンソールOriginが導入された。リプレイスの経緯とOriginの使用感についてレポートしていこう。

素直なヘッド・アンプの音と効きの良いEQと、クリアでローエンドまで表現するサウンドが特徴

 1984年設立のサウンドクルーは、楽器、音響、映像、レコーディング機器のレンタル/設営/販売などを主軸に、レコーディング/リハーサル・スタジオも運営している。今回、SSL Originが導入されたのは、3つあるレコーディング・スタジオのうち、B、Cスタジオになる。もともとSSL AWS900+とAWS900を使っていたというが、リプレイスの経緯を、同スタジオのチーフ・エンジニアである石田裕太が話してくれた。

 「AWS900を導入してから随分時間もたっていたので、そろそろリプレイスしようという時期でもあったんですが、弊社のスタジオはバンド系の録音で使われることが多く、そのほかミックス・チェックがあるくらいなので、まずはアナログ・コンソールが候補となりました。さらに、商業スタジオでスタンダードになっているSSL SL4000シリーズのような使い勝手の良いコンソールということで、Originに決まったんです。あとはチャンネル数も増やしたくて、AWS900が24chだったので、Originでは32chを選択しました」

 Bスタジオは、メイン・ブースと4つのブースを備えたバンド録音に最適な環境。Cスタジオは1ブースで、5.1chサラウンド・ミックスにも対応するサイズとなっている。Originは、16chと32chが選択可能だが、今回は両スタジオともに32chが導入された。操作してみた最初の印象について石田に聞いた。

 「もともとAWS900を使っていましたし、AスタジオにはSL4056Gも入っているので、少しレクチャーを受けたくらいで全く問題なく操作できました。サウンドに関しても、ヘッド・アンプは素直な音で、どちらかというとSL4056Gに近い印象です。SN比も良いですし、EQも非常に効き方が良く、欲しい帯域をグッと持ち上げてくれました」

 同社のレコーディング・エンジニア、根元崇もこう続ける。

 「僕はエンジニア人生の中でSL4000シリーズを一番使ってきたので、最新のコンソールということに少しだけ不安がありました。でも、実際に触ってみるとサウンドはクリアでローエンドもしっかりと出ていたので、SSLのコンソールのイメージ通りの音です。操作性も分かりやすくなっていたので、うちの若いエンジニアたちも、SL4000シリーズより覚えるのが早かったですよ」

サウンドクルーのレコーディング・スタジオは3つあり、右写真はスタジオCのコントロール・ルーム。13m2の1ブース、1コントロール・ルームという形で、5.1chサラウンド・ミックスにも対応している。ラージ・スピーカーはMUSIKELECTRONIC GEITHAIN RL901K、ニアフィールドにADAM AUDIO S2V、5.1ch用にはGENELEC 1031Aがセッティングされていた。前ページ写真はスタジオB。メイン+4ブースの構成で、バンド録音に最適な環境となっている。また同スタジオは、10,000点を超えるレンタル機材を無料で利用できるというのも特徴だ

サウンドクルーのレコーディング・スタジオは3つあり、上の写真はスタジオCのコントロール・ルーム。13m2の1ブース、1コントロール・ルームという形で、5.1chサラウンド・ミックスにも対応している。ラージ・スピーカーはMUSIKELECTRONIC GEITHAIN RL901K、ニアフィールドにADAM AUDIO S2V、5.1ch用にはGENELEC 1031Aがセッティングされていた。ページ冒頭の写真はスタジオB。メイン+4ブースの構成で、バンド録音に最適な環境となっている。また同スタジオは、10,000点を超えるレンタル機材を無料で利用できるというのも特徴だ

スタジオB、Cのコントロール・ルームに設置されたOrigin。コンパクトなサイズながら32chを確保でき、限られた空間でも設置できるのはメリットだという

スタジオB、Cのコントロール・ルームに設置されたOrigin。コンパクトなサイズながら32chを確保でき、限られた空間でも設置できるのはメリットだという

スタジオBのコンソール左横のラックには、コンプレッサーのUNIVERSAL AUDIO 1176LN×3、UREI 1178、NEVE 33609Cが収納されている

スタジオBのコンソール左横のラックには、コンプレッサーのUNIVERSAL AUDIO 1176LN×3、UREI 1178、NEVE 33609Cが収納されている

同じくスタジオBのコンソール右横のラック。AMEK 9098EQが8台と、ADGEAR CC-22を収納している

同じくスタジオBのコンソール右横のラック。AMEK 9098EQが8台と、ADGEAR CC-22を収納している

スタジオBのラージ・スピーカーは、TANNOY SYSTEM1200が埋め込まれており、ニアフィールドには、YAMAHA NS-10Mがセッティングされていた

スタジオBのラージ・スピーカーは、TANNOY SYSTEM1200が埋め込まれており、ニアフィールドには、YAMAHA NS-10Mがセッティングされていた

サウンドにインパクトを加えられるPureDriveとパラメーターが増えたバス・コンプが便利

 Originは、SSLの伝統的なアナログ・フローを踏襲したインライン・コンソールで、SSL SL4000Eシリーズを受け継ぐEQ、定評あるSSLバス・コンプレッサーといったこれまで培ってきた技術を受け継ぎながら、独自のPure Driveマイクプリや新しい16+2系統のバス、ミックス・アンプ回路を搭載。低いノイズ・フロアと広いヘッドルームを実現している。さらに、モジュール構造のセンター・セクションにAPI 500シリーズのラックや、DAWコントローラーを格納できるなど拡張性もあり、現代のプロダクションにも対応するハイブリッドな機能を併せ持っている。導入して半年ほどたち、さまざまな場面で使用してきた石田が本機の良さをこう語る。

 「ギター、ベース、ドラムと、一式録ることが多いのですが、出音に大きなキャラ付けがされるわけではなく、常に素直な音で録れるというのが変わらない印象でした。インパクトを出したいときはPureDriveのDRIVEボタンをオンにするとピークが管理しやすくなるため、ポイントで使うと効果的だなと。スネア・ドラムなどに合っていましたね。EQも、昨今はプラグインも出ていますが、それよりも効きが良いと感じましたし、つまみの重さも本家に似せている印象でしたね。個人的に便利だったのはフェーダー部分に搭載されている0dBのスイッチ。毎回キャリブレーションを取らなくてもバイパスできるので、サミング的に使うこともできます。あとは、各チャンネルのBUSES部分にスモール/ラージ・フェーダーのルーティングを決められるスイッチがあるのも時間短縮になり便利だと思いました」

上部が60mmのスモール・フェーダー・コントロールで、下部が100mmのラージフェーダー・コントロール。フェーダーをバイパスしてユニティー・ゲインに設定する0dBスイッチのほか、パンやSOLO、CUTのボタンなどを備える

上部が60mmのスモール・フェーダー・コントロールで、下部が100mmのラージフェーダー・コントロール。フェーダーをバイパスしてユニティー・ゲインに設定する0dBスイッチのほか、パンやSOLO、CUTのボタンなどを備える

上部からダイレクト・アウト、レベル・コントロールとパンが付いた2つのステレオ・キュー・フィード、レベル・コントロール付きのモノラルAuxバスが4つ、18dB/octのハイパス・フィルター、SSL SL4000Eシリーズの“242”EQ、バス・チャンネル・ルーティング。EQは、4バンドのパラメトリックEQで、石田は“効きがよく音作りがしやすい”と話す

上部からダイレクト・アウト、レベル・コントロールとパンが付いた2つのステレオ・キュー・フィード、レベル・コントロール付きのモノラルAuxバスが4つ、18dB/octのハイパス・フィルター、SSL SL4000Eシリーズの“242”EQ、バス・チャンネル・ルーティング。EQは、4バンドのパラメトリックEQで、石田は“効きがよく音作りがしやすい”と話す

各インライン・チャンネルの一番上にあるCHANセクション。Origin独自のPure Driveマイクプリ/入力ゲイン・ノブ、倍音増幅が可能なDRIVEボタンなどが備えられている。その下はゲイン・トリム付きのライン・レベル・モニター入力

各インライン・チャンネルの一番上にあるCHANセクション。Origin独自のPure Driveマイクプリ/入力ゲイン・ノブ、倍音増幅が可能なDRIVEボタンなどが備えられている。その下はゲイン・トリム付きのライン・レベル・モニター入力

 根元も「中央のマスター・コントロール・セクションにはさまざまなツールが備えられていますが、SSL伝統のバス・コンプは、レシオの設定が1.5〜10となるなど、SL4000シリーズよりもパラメーターが多くなっており、音がもさっとする印象もなくクリアなかかり具合でした。シンプルに音も好きでしたね。個人的には、4系統準備されているモニター・セレクターの4つ目に、独立して音量コントロールできるノブが付いているのが良くて。ここにサブウーファーをつないで使っていて重宝していますね」と続けてくれた。

コンソール中央に備えられたマスター・コントロール・セクション。ロゴの右側にはOrigin用に機能が強化されたバス・コンプがあるほか、トラックバス・ルーティング・マトリクス、ソロ・マスター、ミックス・バス、モニタリング、リターンの各セクションが分かりやすく配置されている。また本機の特徴として、こちらのセンター・セクションはモジュール構造となっており、API 500シリーズのラックや、同社のDAWコントローラーUF8を格納するなど、目的に合わせて環境を自由にレイアウトすることが可能となっている

コンソール中央に備えられたマスター・コントロール・セクション。ロゴの右側にはOrigin用に機能が強化されたバス・コンプがあるほか、トラックバス・ルーティング・マトリクス、ソロ・マスター、ミックス・バス、モニタリング、リターンの各セクションが分かりやすく配置されている。また本機の特徴として、こちらのセンター・セクションはモジュール構造となっており、API 500シリーズのラックや、同社のDAWコントローラーUF8を格納するなど、目的に合わせて環境を自由にレイアウトすることが可能となっている

 そのマスター・コントロール・セクションにはバス・コンプ以外に、16系統のトラック・バスへのアサイン・スイッチを装備したルーティング・マトリックスのほか、ソロ・マスター、ミックス・バス、モニタリング、4系統のステレオ・リターンなどの各セクションを使いやすくレイアウト。消費電力を抑えるためのオート・スリープ機能も備わっている。最後に、今後サウンドクルー・スタジオを使うエンジニア、ミュージシャンたちに向けて、メッセージをいただいた。

 「AWSの時代は、プリアンプを別途持ってきてセッティングするエンジニアも多く見られたのですが、Originは本体のマイクプリが優秀で使いやすいので、ぜひ一度試してもらいたいですね。コンプはスタジオ常設のものをルーティングして、EQはOriginを使うなど、自由度の高いセッティングで録音に集中できるので、ぜひバンドを録るときはサウンドクルー・スタジオを使ってみてほしいです」(石田)

 「最初は新しい卓ということで構えてしまうかもしれませんが、SL4000シリーズを使ってきたエンジニアならとても使いやすくなっていることを実感すると思いますし、音も違和感なくSSLらしいクリアな音なので、安心して使ってもらいたいですね」(根元)

今回話を聞いたサウンドクルー・スタジオのチーフ・エンジニアの石田裕太(写真左)と、レコーディング・エンジニアの根元崇(同右)

今回話を聞いたサウンドクルー・スタジオのチーフ・エンジニアの石田裕太(写真左)と、レコーディング・エンジニアの根元崇(同右)

施設情報/関連リンク

関連記事