六本木駅から徒歩3分の好立地に6月にオープンしたライブ・ハウス、GT LIVE TOKYO。メイン・フロアは居心地の良さを勘案して150人としており、CODA AUDIOのラインアレイ・スピーカーによる高品位なサウンドが魅力だ。ステージ後方に設置された高解像度のLEDビジョンも目を引く同店に訪い、設備について取材を敢行した。
建物から造られたライブ・ハウス CODA AUDIO N-RAYの明瞭でパワフルな音
埼玉県川口市の音楽教室“GT MUSIC SCHOOL”とリハーサル・スタジオ“STUDIO GT”の系列店として、六本木に誕生したGT LIVE TOKYO。更地に建物を造るところから始まったライブ・ハウスで、建物や音響の設計をアコースティックエンジニアリング、音響や映像などの機材選定および納入をヒビノが手掛けている。建物は地下1階と地上3階から構成されており、地階と1階がGT LIVE TOKYO、2階にはオーナーが信頼を置くイタリアン・レストラン“NEL CUORE”が入る。3階は運営元GT MUSICのオフィスとスタジオだ。この枠組みは建物を造る前に決まっていたそうで、建築基準法上の高さや面積などの制限の中で、可能な限りライブ・フロアを広く高く取れるように設計したという。「建物からの設計ということで、当初から天井の高い吹き抜け空間にラインアレイというイメージがあり、このような設計となりました」とはアコースティックエンジニアリングの代表、入交研一郎氏の弁だ。建物の仕様を決めた後、それをヒビノに伝えると機材の提案や電源容量に関する回答があった。
「建物から設計すると、出演者と観客の動線の切り分けがプランしやすいです。設備においては、電源容量を柔軟に設定できるのがアドバンテージ。一般の賃貸テナント工事の場合、数十坪のライブ・ハウスを造っても、電気容量の制約上ここにあるような設備はなかなか構築できないと思います」
ラインアレイとステージ後方のLEDビジョンだけでも、相当な容量の電源が必要だろう。そのラインアレイは片側あたり、CODA AUDIO N-RAY×6台に専用の低域拡張モジュールSCN-F×2台を合わせたもの。設置方法はリギングで、ステージ下にサブウーファーのSCV-F×2台が用意されている。インフィルや1階のVIP席用エリア・サポート、モニター・スピーカーもすべてCODA AUDIO製だ。「N-RAYの強みは明瞭なサウンドとパワフルさだと思います。そして、CODA AUDIOの中ではコンパクトなモデルなので客席への威圧感がなく、視界をさえぎらないというのも特長です」と話すのは、ヒビノの雨宮晃史氏だ。
「モニター・スピーカーもCODA AUDIOでそろえていただいたのが功を奏しています。ラインアレイと同じ理論に基づくユニットのスピーカーなので、音響的な統一感が取れているのです。モニターしやすい環境ではないでしょうか」
天井に約30cmの吸音層を設け低域をタイトに 音が大きくても聴き疲れしない空間
ラインアレイをつっているとあって、2フロア吹き抜けの空間は天井が非常に高い。入交氏が説明する。
「躯体は現状よりもっと高いんですよ。天井には遮音層があり、その下に低域を吸音できる約30cmのしっかりとした吸音層を設けています。これは通常のライブ・ハウスではなかなかできないことで、低域が引き締まって聴こえます。お店のコンセプトからして、壁に大量の吸音材を貼るようなことはしたくなかったので、天井で十分に吸音し、壁にはさまざまなマテリアルを配置して響きをコントロールしています。響きの質としては、ニュートラルなところを狙いました」
「だからナチュラルな鳴りなのだと思います」と語るのはGT MUSICの代表、滝川岳氏。メジャー・デビューの経験を持つ現役ドラマーでもある。
「お客様からは“音が大きくても、全く疲れない”という声をいただいています。ステージで演奏していても疲れませんし、バンド・メンバーの音もよく聴こえます。こういう“当たり前”のことを丁寧に、最大限に形にできたのは、信頼できる方々とのチームワークがあったからこそだと思います」
GT LIVE TOKYO店長、町田孝氏もルーム・アコースティックに自信を見せる。
「スピーカーを鳴らしたときの音は、もちろん抜群なのですが、先日クラシックのアコースティック・ライブがあって、ものすごく良い音だったんです。この空間の特性自体が良いのだと、すぐに分かる感じの響きでした」
映像システムをSDVoEでIP化 シチュエーションに合わせて柔軟に映像を扱える
YAMAHAの最新デジタル・コンソール、DM7が導入されている点も見逃せないが、GT LIVE TOKYOの独自性として映像システムの自由度の高さにも触れておきたい。特筆すべきはIP化されているところで、ネットワークを介して、任意の映像を建物内のあらゆるディスプレイに出力できるようになっている。ヒビノの福田隆一氏がこう説明する。
「SDVoEという規格でIP化していて、HDMI信号をルーティング処理しています。どのディスプレイにどの映像ソースを出すかというのを、物理的な回線切り替えをせずにシステム内で実行できるのです。オペレーションにAPPLE iPadが使えるのも便利ですね。また、IDK IP-NINJARシリーズの映像用エンコーダー/デコーダーを使用し、好きな位置に映像の出力先を作ることが可能です。例えば、ディスプレイを上手と下手に追加したり、出演者の方へのモニター・ディスプレイを設置したりする場合、そのエンコーダー/デコーダーを使えば小回りが効きます。ライブだけでなく、インターネット配信や企業のプレゼンなどにGT LIVE TOKYOを活用する方々にも便利でしょう。さらに、会場常設のカメラに持ち込みのカメラを追加して使用することも可能で、持ち込み機材に対応できるようSDI信号入出力にも対応しています」
最高4Kの映像入力に対応するLEDビジョンには、カメラで撮影している映像をリアルタイムに映し出せる。出演者自身が用意した映像ソースも出力できるので、演奏と合わせて多彩なパフォーマンスが行える。ハイクオリティな設備と居心地の良さを兼ね備えるGT LIVE TOKYO。六本木の地から東京のライブ・ハウス・シーンに新たな風をもたらすだろう。