福島県南会津郡南会津町にある御蔵入交流館は、文化ホール/図書館/中央公民館/保健センターの4つから成る複合施設。その中の一つである文化ホールは、クラシックや歌舞伎などを中心としたイベントを数多く開催しており、2020年2月にリニューアル・オープンを果たした。今回は、ホールの機材について関係者に話を聞いてみよう。
Text:Susumu Nakagawa Photo:Yusuke Kitamura
コンパクトながらも十分な迫力のKiva II
2004年4月、会津田島駅から徒歩10分の立地にオープンした御蔵入交流館。同館の一部である文化ホールは1〜3階席までを有し、着席で800名の収容が可能だ。2020年2月には、音響設備の改修工事を終えてリニューアル・オープンした。この経緯を、同館に勤める教育委員会生涯学習課芸術文化係の猪股淳氏に伺った。
「大きな理由は機材の老朽化です。このホールは建設以来16年近くたっているため、機材を修理するにも部品が入手できない状態でした。そのため、これを機に音響設備を一新しようと思ったのです。また、このホールは歌舞伎やクラシックなどの公演が多く、オーストリアの著名ピアニスト、イェルク・デームスが生前にここで録音したこともあるくらい響きが良いと評判があります。そこで、音響面でもより良いものを導入しようと考えたのです」
音響改修工事の施工はヤマハサウンドシステムで、設備のプランニングは、オープン時から文化ホールの管理に携わるアール・ケー・ビーの代表取締役、矢吹実氏が担当。あらゆる要望を矢吹氏がまとめた結果、メイン・スピーカーはL-ACOUSTICS製のものが採用され、それらのパワー・アンプとしてすべてL-ACOUSTICS LA4Xが用いられている。矢吹氏は、メイン・スピーカーについて次のように説明する。
「プロセニアム中央にはKiva IIを8基と、サブウーファーのSB15Mを2基フライングし、1〜3階席をほぼカバーしています。また1階部分のサイドにはそれぞれKiva IIを6基、SB15Mを3基、X12を1基ずつ、2階部分のサイドには3階バルコニー席を狙うようにKiva IIを5基ずつ、サランネットの裏側に配置しているのです。このホールは残響時間が長いためクラシック・コンサートなどにはすごく合うのですが、スピーチなどの場合には、逆にその残響音が問題となっていました。そこで明りょう度が高く、パンチのあるこれらのラインアレイ・スピーカーを導入したところ、この問題が劇的に改善されたのです」
矢吹氏いわく、「これまでクラシック以外の催事では、シーリングに設置された残響時間を調節する幕を用いていましたが、今ではそれ無しで運用可能です」とのこと。矢吹氏は、1階部分のサイドのスピーカーについてこう語る。
「当初は大型のモデルを入れることも検討していたのですが、それだと設置スペースの問題で難しいということが分かりました。そのため、よりコンパクトなKiva IIとSB15Mを多めに導入し、より均一なエリア・カバーを目指したのです。両者のサイズは小さめですが、その迫力は十分過ぎるくらいと言えるでしょう。また、Kiva IIは水平100°の指向性を備えていますが、客席の最前列付近をカバーすることが若干難しかったため、そのエリアはX12でカバーしています。X12はステージ上のモニターにも使用していますが、2ウェイ同軸スピーカーなのでサウンドがクリアになった印象です」
矢吹氏は、今回の改修工事で一番変化が著しかったのは3階席だと言う。
「実際に3階席に座って聴いてみるとよく分かる通り、すぐ近くで音が鳴っているような迫力があります。これまではどう音圧を上げても、3階席では迫力を感じられなかったのですが、現在はとても臨場感のあるサウンドを体感できるんです。1階席で聴いている印象とほとんど変わりません。これは、プロセニアム中央にフライングされた8基のKiva IIと2基のSB15Mの音が、ダイレクトに飛んできているからだと思います。これらのスピーカーは、まさに“ホール全体のサウンドを一つ上のレベルに持ち上げている”と言っても過言ではないでしょう」
“本当に良い音”を若い世代に伝えたい
一方、2階の音響調整室には32本のインプット・フェーダーを持つデジタル・コンソール、YAMAHA QL5が採用されている。これについて矢吹氏はこう述べる。
「導入した理由は大きく2つあります。まずは入出力をすべてデジタル・オーディオ・ネットワークDanteで接続できる点、もう一つは、汎用性の高いコンソールを置くことによって乗り込みのPAエンジニアの方でも安心して操作できる点です。あとはAPPLE iPad専用アプリQL StageMixを使って、客席などの好きな場所でモニタリングしながらiPadでQL5を操作できるところでしょう」
さらに舞台袖には、16本のインプット・フェーダーを搭載するデジタル・コンソールYAMAHA QL1がサブ機としてスタンバイしているそうだ。その理由を矢吹氏に伺った。
「QL1とQL5を同じように設定しておけば、わざわざQL5が設置された2階の音響調整室まで行かずに舞台袖でオペレーションすることが可能です。万が一スタッフの人数が足りないときでも、舞台袖に居ながらコンソールを触れるのはメリットが大きく、さまざまな状況にも対応できます」
今回の改修工事によって、以前とは比べものにならないくらい音が良くなったと語る矢吹氏は、最後にこう付け加える。
「改修前でも、利用された方々から“素晴らしい音響だ”という声をいただくことは多かったのですが、今回のL-ACOUSTICS製品を中心としたスピーカー・システムのサウンドを体験されたら、さらに驚かれると思います。これだけの設備と高品質なサウンドがこの南会津町にあるのだということを、これからいろいろな方に知ってもらえるとうれしいですね!」
猪股氏も、これからの運用に期待を寄せている。
「今はCOVID-19の影響でイベントの開催が難しい状況ではありますが、徐々に皆さんに足を運んでいただいて、新しくなった文化ホールの音を味わってみてほしいです。地域密接型のイベントも多く予定しているので、特に地元の学生や子供たちには“本当に良い音”というものを伝えたいと思います。コンピューターやスマートフォンのスピーカーとの音の違いを、ぜひ肌で感じてほしいですね」
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