ルパート・ニーヴ氏によって創設されたイギリスのオーディオ・メーカー、FOCUSRITE。プロから宅録ユーザーまでに向けた幅広い製品を手掛けており、特にScarlett Seriesをはじめとするオーディオ・インターフェースが有名だろう。今回はその中から、前身モデルClarett Seriesの音質をさらに向上させたというClarett+ Seriesを紹介。ISA 110マイクプリをエミュレートしたAir機能を搭載し、ボーカルの録音で大きな効果を生むそうだ。早速その実力を、技術責任者の解説や、シンガー・ソングライターしまものレビューからひもといていこう。
Photo:Chika Suzuki
Clarett+ Seriesとは
Clarett+ Seriesは、リアルでナチュラルなサウンドを特徴とする、Mac/Windows用のUSBオーディオ・インターフェース。搭載されるマイクプリは、すべて30年におよぶ設計技術を投入して製作された“CLARETTマイク・プリアンプ”だ。このマイクプリの最も大きな特徴が“Air機能”で、これはFOCUSRITEのスタジオ・コンソールに搭載されているマイクプリ=ISA 110をエミュレートしている。オンにしてレコーディングするとインピーダンスが切り替わり高域がブーストされ、音に存在感を与えることができるという。Air機能はMac/Windows/iOS対応のソフトウェア、Focusrite Controlからオン/オフを行う。Focusrite ControlではAir機能のほかに、出力のルーティング設定や、入力のインスト/ラインの切り替えなどが可能だ。
ADAT入力による拡張性も魅力の一つで、例えばClarett+ 2PreにClarett+ OctoPreを接続すれば、最大10chの入力が可能になる。
Clarett+ Seriesや、Scarlett 3rdGen、ClarettUSB、Redのシリーズには、Hitmaker Expansionというプラグイン・バンドルが付属する。ピッチ補正プラグインANTARES Auto-Tune Accessや、EQ/コンプレッサーのFOCUSRITE Red 2およびRed 3 PLUG-IN SUITEなどが含まれているので、ミックスの際に活用できるだろう。
Clarett+ Series Line Up
Clarett+ 2Pre
10イン/4アウトでマイクプリ×2を搭載。フロント・パネルには、XLR/フォーン・コンボ入力端子とゲイン・ノブを2つずつ搭載。ノブの下には3つのLEDがあり、左からINST(インストゥルメント・モード使用時に点灯)、AIR(Air機能使用時に点灯)、48Vのファンタム電源が並ぶ。右側にはメイン・モニターの出力レベルをコントロールするノブ、ヘッドフォン出力端子とヘッドフォンのボリューム・ノブがある。
リア・パネルには左から電源アダプター用の端子、USB-C端子、オプティカル入力端子、MIDI出力/入力端子、ライン出力×4(TRSフォーン)が並ぶ。
Clarett+ 4Pre
18イン/8アウトでマイクプリ×4を搭載するモデル。
Clarett+ OctoPre
8イン/8アウトでマイクプリ×8を搭載するモデル。
Clarett+ 8Pre
18イン/20アウトでマイクプリ×8を搭載するモデル。
技術責任者が語る“Clarett+ Seriesに投入された技術力”
FOCUSRITEで20年間にわたりオーディオ・インターフェースの開発に携わってきたサイモン・ジョーンズ氏。Clarett+ Seriesに投入された技術やこだわりについて話を伺った。
ーClarett+ Seriesのマイク・プリアンプは低ひずみ、低ノイズを特徴としています。前バージョンClarett Seriesとはどのような違いがあるのでしょうか?
Clarett+ Series は、Clarett Seriesのシグナル・チェーンを再分析し、幾つかの部品を最適化することで音質の向上を図りました。また、ADコンバーターをハイエンド・オーディオ・インターフェースRedNet Seriesと同じものに置き換えています。このコンバーターにより、とてもニュートラルでバランスの良いサウンドを提供することができるようになりました。
ーISA 110マイク・プリアンプをエミュレートしたというAir機能はどのように実現したのでしょうか?
Air機能は、Clarett+ Seriesの前身であるClarett Seriesに初めて搭載されました。Clarett+ SeriesやClarett Seriesは非常にコンパクトな製品なので、ISAの入力段をそのまま採用することは不可能です。そこで私たちはISA 110のマイク・プリアンプがサウンドの側面にどのような効果をもたらすのかを、計測と試聴を繰り返すことで時間をかけて分析しました。
ーClarett+ Seriesはどのようなユーザーに向いているとお考えですか?
Clarett+ Seriesは、プロのエンジニアにとっても高品位な音質を提供する一方で、これからプロを目指す方にも、手に取りやすい価格を実現しています。さまざまなハイエンド・マイクに対応できるマイク・プリアンプに加え、JFET回路を搭載した楽器入力があるので、ボーカリストはもちろん、ギタリストも豊かな音色を得られるでしょう。
しまもがClarett+ 2Preでボーカルを録音!
YouTubeやTikTokなどを中心に活動するシンガー・ ソングライターしまもにClarett+ 2Preをボーカル録音で試していただき、その印象を語ってもらった。
Air機能は音数の少ない曲に合う
Clarett+ 2Preは、普段使用しているオーディオ・インターフェスに比べて、音がすごくリアルに聴こえるという。
「自分の声をそのまま聴いている感覚でした。また、私はウィスパー・ボイスのような繊細な声で歌を録音することが多くあり、その際にゲインをかなり上げるんです。そうすると結構音がひずんでしまってミックスのときに困るのですが、Clanett+ 2Preはゲインを最大まで上げてもひずみが気になることがなく、すごくクリアに録音できました」
続いてAir機能を使って録音した際の印象を伺った。
「Air機能を使うと、ガツンとした抜け感のある音になります。ノーマルで録音するよりもさらにつやのある音になって、自分のボーカルがキラキラした“クリスタル・ボイス”になりました! 最近は高音域を使う歌がとてもはやっているので、“歌ってみた”を録音するのにもすごく合いそうです。音質でほかの歌い手と差を付けられると思いました」
Air機能とノーマル・モードはどのように使い分けるのが良いのだろう。
「最近は音数の少ないシンプルな曲作りを心がけていて、ピアノとボーカルだけの曲を作ることも多いんです。そういうときはそれぞれの音をよりくっきり聴かせたいので、Airモードを使いたいと思いました。聴いたときにハッとするような音を作れると思います。一方で、音数が多いときはすべてをAir機能をオンで録るととごちゃごちゃしてしまうので、ノーマル・モードを使うのが良いと思いました。でも、その中で目立たせたいパートにだけAir機能を使って録音して、キラッとさせるのは効果的だと思います」
アウトプットの音質への印象について伺うと、音質の良さはもちろん、自分の声をモニターする際のレイテンシーの少なさが魅力だと話してくれた。
「高音も低音もきちんとくっきり聴こえるし、音楽がいつもより色鮮やかに聴こえました。また、普段使っているオーディオ・インターフェースで自分の声を録音するときは、実際に出ている声とモニターする声との間にレイテンシーを感じていたのですが、Clarett+ 2Preではほとんど感じることなく録音できました。DAWのバッファー・サイズを気にする必要がないのがうれしいですね。Clarett+ Seriesに付属するプラグイン・バンドル=Hitmaker ExpansionからANTARES Auto-Tune Accessを使ってみたのですが、こちらもレイテンシーを感じにくく、とても歌いやすかったです」
もっと良い品質で宅録をしたい方にお薦め
セットアップが簡単なのも、大きな魅力の一つだという。
「私は機械が苦手なのですが、本体の設定ができるソフト、Focusrite Controlをダウンロードして、APPLE Mac Book ProにClarett+ 2Preをつなげるだけですぐに使うことができました。USB-C端子しかないMacBook Proに、変換ケーブル無しで直接つなげるのはうれしいですね。また、Focusrite Controlはツマミの数が少なくて使いやすいです。例えばAirモードにしたいときは、Input Settingsの“Air”ボタンを押すだけなので、直感的に操作ができました。
自宅のいろいろな場所で制作をするしまもにとって、軽くて持ち運びやすいのもうれしいポイントだという。
「普段はデスクで作っていても、疲れてくるとベットの上で作ることもあったりするので、移動させる際にコンパクトで軽いというのはすごく良いなって思います」
最後にどんな方にClanett+ 2Preをお薦めしたいかを伺った。
「あまり値段の高い機材は買えないけど、良い品質で宅録をしたいという方には、すごくお薦めです。付属のプラグインも充実している上、多機能ですし、ツマミの数が少ないので、初めてオーディオ・インターフェースを使う人にもすごく分かりやすいと思います」
しまも
【Profile】宮城県出身のシンガー・ソングライター。YouTube、Twitter、TikTokなどのSNSフォロワーが計150万人を超え、『SUMMER SONIC 2019』『YouTube Music Weekend』などの大型イベントに出演する一方、YouTube LIVEなどでリクエストを即興で弾き語りするなど、多方面で活躍。代表曲「YOU」はTikTokで5億回再生を超え話題に。『TikTok Spotlight Audition』優勝。『Billboard TikTok年間楽曲ランキング2019』2位を獲得。