CRANBORNE AUDIO 500ADAT 〜I/Oを拡張しつつ500モジュールやサミングを取り入れた一台

CRANBORNE AUDIO 500ADAT 〜I/Oを拡張しつつ500モジュールやサミングを取り入れた一台

“ビンテージ・サウンドへのモダンなアプローチ”を標ぼうするロンドンのブランド=CRANBORNE AUDIO(クランボーン・オーディオ)。同社の500ADATはAPI 500互換モジュール用シャーシ/オーディオI/O用の入出力エキスパンダー/サミング・ミキサーなど、さまざまな顔を持つ一台だ。メーカーへの取材やエンジニアによるレビューを通し、その用途や有用性に迫ってみよう。

Photo:Hiroki Obara Translation:Tomohiro Moriya

CRANBORNE AUDIO 500ADAT 製品概要

CRANBORNE AUDIO 500ADAT

500ADAT リア・パネル

 8スロットのAPI 500互換モジュール用シャーシ/オーディオI/O用の入出力エキスパンダー/サミング・ミキサー。2組のADATイン/アウト(オプティカル)を装備し、オーディオI/Oに接続して24ビット/96kHz時に最大8イン/8アウト、192kHz時には最大4イン/4アウトを追加可能。内蔵AD/DAコンバーターはソースを精緻に再現するという。各スロットにはインサート端子(TRSフォーン)があり、500互換モジュール後段にアウトボードを接続できる。サミング・ミキサーはディスクリート仕様。録音時にも活用でき、DAWからのプレイバックを好みのバランスでミックスしつつ、演奏をゼロ・レイテンシーでモニター可能だ。リファレンス・クオリティのヘッドフォン端子を2系統装備。ヘッドフォン・アンプは十分なヘッドルームと1Hzまでの周波数応答を誇る。独自のアナログ伝送規格C.A.S.T.をサポートし、C.A.S.T.リンク端子を使うことで最大16chのサミングに対応。期間限定キャンペーンとして、同社の500互換プリアンプ・モジュール、Camden 500が付属する。

■周波数特性(-1dB):2.2Hz~80kHz以上(A/D)、1Hz以下~61kHz以上(D/A)、2.25Hz~80kHz以上(サミング) ■外形寸法:481(W)×185(H)×219(D)mm ■重量:7kg ■価格:オープン・プライス(市場予想価格:198,000円前後/税込)

500ADATでできること!

1. オーディオI/Oを8イン/8アウト拡張
2. 500モジュールを使う録音/ミックス
3. キュー・ボックス的な使用法も可能
4. サミング・ミキサーまで搭載

500ADATは、リアのADATイン/アウトでオーディオI/Oにデジタル接続して使うことを想定。一般的な500互換モジュール・スロットとしても使用できる

500ADATは、リアのADATイン/アウトでオーディオI/Oにデジタル接続して使うことを想定。一般的な500互換モジュール・スロットとしても使用できる

エンジニアリング・ディレクターに聞くアナログの求道とデジタルの追求

 CRANBORNE AUDIOの歴史は、API 500互換のプリアンプCamden 500と500モジュール用シャーシ/オーディオI/Oの500R8で幕を開けた。エンジニアリング・ディレクターのショーン・カルポヴィッチ氏にインタビューし、ブランドの成り立ちや体制、ポリシー、そして新製品500ADATへ注がれた技術について伺った。

SOUNDCRAFTで技術を磨いた人々が多様な分野の専門家とともに製品開発

●CRANBORNE AUDIO設立の経緯を教えてください。

○R&Dディレクターのエドワード・ホームズと私が始めました。Camden 500と500R8で自信をつけた後、投資家の協力を得て従業員を増やし、2017 NAMM Showでブランドをローンチさせたのです。我々はもともとSOUNDCRAFTのスタッフで、今のCRANBORNE AUDIOでプロダクト・マネージャーを務めるエリオット・トーマス、クリエイティブ・ディレクターのアンドリュー・パットらも当時からの同僚です。みな、情熱的なミュージシャンでもあり、2015~16年以降はそれぞれの道を行きました。私はASTON MICROPHONESに移り、スタートアップならではのやりがいを感じていたのですが、やがてエドワードとともにブランドの設立に向けて動くようになったのです。

CRANBORNE AUDIOが入居するビルは、ロンドン郊外のクランボーン・ロード沿いにある。ビルの前に立つのは取材に応じてくれたショーン・カルポヴィッチ氏。写真から見て取れるように陽気な人だ

CRANBORNE AUDIOが入居するビルは、ロンドン郊外のクランボーン・ロード沿いにある。ビルの前に立つのは取材に応じてくれたショーン・カルポヴィッチ氏。写真から見て取れるように陽気な人だ

R&Dディレクターのエドワード・ホームズ氏

R&Dディレクターのエドワード・ホームズ氏

●製品開発陣には、どのような方々が居るのでしょう?

○多くはSOUNDCRAFT時代からの同僚で、25年間、ほとんどのコンソールを作っていた大ベテランも居ます。ほかにも、1970年代からコンピューター言語の分野で活躍してきた人、CISCOでネットワーク・ルーターやAD/DAコンバーターを設計していた人、APPLEで初代iMacの開発に携わってからROLIでのソフトウェア開発を経て入社した人など、さまざまな分野のエキスパートを抱えています。

 

●CRANBORNE AUDIOには“自分たちが音楽制作で使いたいものを作る”というポリシーがあると伺いました。

○スタッフの何割かがミュージシャンやサウンド・エンジニアでもあるので、その経験は製品のユーザーが求めているものを“深いレベル”で把握するのに役立っています。そして、ブランドとして最も重きを置いているのが、クローン製品ではなく革新的なものを作ること。同時に、それが何であるか初見の人へ瞬時に伝わるのも大事です。触ってみれば驚きがあり、ユーザーの口コミを通して広まっていく……これが最強のプロモーションだと思っていますね。

 

●あなたたちのハードウェア製品は、ソフトウェア全盛のこの時代に何をもたらすと考えていますか?

○DAWやプラグインは強力なゲーム・チェンジャーとなりましたが、D/Aされた信号には今もアナログらしい質感が求められていると思います。そのバイブスはミュージシャンをインスパイアしますし、マジックとしか言いようがありません。事細かに、無限に調整することは、ともすればマジックの消滅を招きますが、ミックスを終えたサウンドは本来、バイブスがブーストされたものであるべきです。500R8や500ADATは、その手助けになると思っています。

ディスクリート仕様のアナログ回路から超低ジッターのクロックまでこだわり抜く

●500ADATは、どのようなテーマで開発したのでしょう?

○“音楽の作り手が、自らのサウンドをストレートに得られる機材”というのが根底にあります。また、アナログなプロセスに必要なツールを小さな筐体に収めるのも重要でした。現代のホーム・スタジオでアナログらしい音を作ろうとすると、機材やケーブルでごった返してしまいますが、コンパクトにまとめることでトラブルまで減らせると考えたのです。そして今や多くの人が高性能なオーディオI/Oを所有していて、それらには大抵ADAT端子が備わっています。ところが、有効活用されているケースは少ないと思いませんか? 他方、アナログの質感を求めて500モジュールを使う人は、DAWとのやり取りにAD/DAコンバーターを必要とします。ならば、モジュール8台のためのAD/DAが可能で、なおかつオーディオI/Oの空きADAT端子を活用できる機材があればよいのではないかと考えたのです。

 

●AD/DAコンバーターは、どちらのブランドのものを?

○以前はAKMの製品を使っていましたが、供給が途絶えてからはDEWESOFT Siriusシリーズに乗り換えました。さらにESS TECHNOLOGYからも供給を受けているので、製品の設計によって使い分けています。デジタル領域の話題としては、0.5ピコ秒未満のジッターを実現した内部クロックも特徴です。外部機器をスレーブにする際のクロック・データ・リカバリーが秀逸で、どんな場合も6ピコ秒未満のジッターでリカバーします。あらゆるオーディオI/Oとの併用において、レコーディングの質を犠牲にしないのです。

 

●アナログ領域には、どのような技術を投じていますか?

○500ADATや500R8のアナログ回路は、ほとんどがディスクリートです。抵抗などがたくさん入っているため、昨今のオーディオI/Oなどに比べてノイズやひずみが多いものの、それが耳に心地良いアナログの質感を生んでいます。

API 500モジュール用シャーシ/USBオーディオI/Oの500R8。モニター・コントローラーとしても機能する

API 500モジュール用シャーシ/USBオーディオI/Oの500R8。モニター・コントローラーとしても機能する

●500ADATは、内蔵のヘッドフォン・アンプまでディスクリート仕様なのですよね。

○はい。“あらゆるインピーダンスのヘッドフォンに対応できるものを”と考えた結果、自分たちで作るしかありませんでした。音に関してはニュートラルでリニア、そしてクリアなものを目指しています。周波数特性を可聴域の外まで大胆に広げ、全高調波ひずみを徹底的に抑えているのです。

 

●サミング・ミキサー部については、いかがでしょう?

○ヘッドルームやダイナミック・レンジを重視しています。サミング後の処理で色付けがなされるべきだと思っているので、まとまりが良く立体的な質感を目指しているのです。

 

●500ADATは、デジタルの技術を活用しつつ、アナログの旨味が得られる一台のようです。

○500ADATに限らず、我々イギリスの無名ブランドの製品を自らの耳で判断して購入し、その評価を広めてくれた人たちへの感謝はずっと忘れません。そして、これからユーザーになってくれる方々のことも全力でサポートしていきます。

CRANBORNE AUDIO 500ADAT × 福田聡 エンジニア・レビュー

製品情報

関連記事

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp