コロナ禍の影響でレコーディングもストップしていましたが、徐々に再開し始め、いろいろな方と作業できる喜びを感じています。スタジオ・レコーディングやライブが通常通りに行えるよう、一日も早い終息を願っています。そんな状況の中、リモートでの作業やレコーディングも増え、データ転送する機会が増えてきているのではないでしょうか。今回はAVID Pro Toolsでのパラデータ作成時のソフト音源のオーディオ化などについて触れていきます。
ソフト音源の音量過多や
マスター・チューニングに注意
常にピーク・インジケーターが点灯した状態の、クリッピングした音でも格好良い作品はたくさんありますが、生楽器と打ち込みが共存するような情報量の多いオケでは、音色によって録音レベルを調整する必要があります。1trごとに録音レベルを調整している段階では、その違いは分かりづらいと思いますが、トラックを重ねていくにつれ明確になっていきます。
例えば、脇役にしたいパッド音色をギリギリまで突っ込んで録っていると、ミックスでボリュームを下げても存在感があり過ぎてオケになじまず、意図していないバランス感になることがあります。
ソフト音源は1音色でマスターにピークがつく大きい音量のものが多いので、ProTools(インプット)側のフェーダーではなく、ソフト音源(アウトプット)側でボリュームを下げましょう。
ソフト音源の音量が大きいままPro Tools側でフェーダーを下げると、デジタル領域でクリップしたままフェーダーが下がることになってしまい、トラックを重ねたときに飽和して、抜けてこない音色になってしまいます。32ビット・フロート処理であっても、ソフト音源内やプラグイン内のクリッピングを救済することはできません。もちろん、音源によってはソフト内クリッピングの音が売りのものありますので、方向性を見定めて判断してもらえればと思います。
好みやジャンルによっても異なりますが、デジタル・レコーディングでは録音レベルに少し余裕を残しておいた方が、オケの混ざりや仕上がりが良くなることが多いと感じています。筆者は、オケの全トラックのフェーダーを−5〜−3dBにそろえたときに、バランスが取れていてマスターが適性レベルになるよう、録音レベルを楽曲に合わせて調整しています。
目立ってほしいトラック、脇役として陰で支えてほしいトラックなど、イメージにあわせて録音レベルを調整してオーディオ化してみてください。サウンド・メイクの手段の一つとして取り入れてもらえればうれしいです。
また、生楽器とソフト音源が混ざる場合、マスター・チューニングにも意識してもらいたいと思います。ソフト音源は通常A=440Hzが基準となっているので、441Hzにする場合はソフト音源のマスター・チューンを変更しましょう。
cent 表記の音源がありますが、440Hzから441Hzにしたい場合は約+4centになります。
アウトボード& 96kHz で
アナログのひずみと倍音を生かす
同系統のソフト音源を多用していると、どうしても平面的なサウンドになってしまうことがあると思います。そんなとき、奥行きや空気感を出すためにアウトボードを通してPro Toolsに戻します。筆者がよく使用しているアウトボードは、THER MIONIC CULTURE The Culture Vulture、EMPIRICAL LABS Fatso EL7、Distressor EL8、VINTECH AUDIO X73です。
プラグインとは異なるひずみや倍音を付加することができ、有機的で存在感ある音に変化します。劇的に音が良くなるということではありませんが、楽曲の中での存在感が変わってくるので、マスタリング後の音源を聴いたときに、通しておいて良かったと思うことが多々あります。
また、現在はコンピューターの性能もアップして96kHzでの作業も増えてきました。そのメリットの一つは、アウトボードを通した際のアナログ特性をより明確に表現できることです。アナログのひずみや倍音が必須な音楽で、アウトボードを多用する現場では、96kHz 録音が効果的だと思います。
エンジニアに渡す前に
セッションの丁寧な整理を
限られた時間の中でミックスをするエンジニアの立場になれば、渡されるパラデータが丁寧であることに越したことはないと思います。日本の商業スタジオではほとんどがPro Toolsを使っているため、Pro Toolsセッションでの納品はとても効率的です。作品をより良い仕上がりにするために、以下の点に気を付けています。
●トラック名を付ける
楽器の略記号を把握して、極力短く、分かりやいトラック名がよいでしょう。
●楽器ごとにトラック・カラーを変える
例えば、リズムは青、シンセは緑、歌は赤など。
●リージョン・カラーを変える
コピー&ペーストした部分はエディット作業が重複しないよう、ペーストした部分のクリップ・カラーを変えます。
●レイヤーで成り立っている音色はまとめて1trに
特にキックは位相に注意してまとめましょう。
●プラグインを含めて書き出す
ディレイ使用でフレーズを構築している音色やフィルター・オートメーションなどは、そのプラグインを含めた状態でコミット/バウンスします。また、Pro Tools|HD 限定ですが、フェーダー・オートメーションを描いているトラックは、トリム・フェーダーにしておきましょう
●ラフ・ミックスを入れておく
各トラックのプラグインは外した状態で納品することが多いので、自分の意図を伝えるためにも必ずラフ・ミックスは入れておきましょう。
いかがでしたでしょうか? 肝心のクリエティブな部分が至ってなければ元も子もありませんが、音質などが気になり始めて、アイディアを出すことに集中できない状況は避けたいものです。クリエイティブな作業に集中できる環境作りの一つとして、参考にしてもらえればうれしいです。
tasuku
プロデューサー/作編曲家/ギタリストとして活動。ロックからダンス・ミュージックまで垣根無く扱う。ポルノグラフィティ、SPYAIRのアレンジ&サポート・ギタリストとしてライブにも帯同するほか、Sexy Zone、浜崎あゆみ、広瀬香美、島谷ひとみなどのアレンジ、映画音楽の制作なども行っている。prime sound studio form所属。
問合せ: アビッドテクノロジー
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