音の芯となる部分がしっかり録れる
高域は透明感があってスムーズ
Emberは一つ一つ手作業で調整されたカスタムのコンデンサー・カプセルを搭載しつつ、低価格を実現しています。本体を手に取ってみて感じたのは、グリルやボディはしっかりとしていながら、とても軽いこと。コンパクトで380gという重量になっています。通常のコンデンサー・マイクよりもスリムで、多くのダイナミック・マイクとは違いサイド・アドレスなので、ほんのわずかなスペースに滑り込ませることができたりと、場所を選ばず気軽に使うことができそうです。また、ライブ・ストリーミングなどでの撮影時はマイクの映り込みが少なく使いやすいでしょう。指向性はカーディオイドで、本体にはスイッチ類が一切付いていないシンプルな設計です。また、パッケージにはマイク・スタンド・アダプターが付属しています。
では、使用頻度が高そうなボーカルから試していきましょう。一聴して思ったのは、サウンドがナチュラルなことです。それと、良い意味であまり広範囲を録らないマイクだとも感じました。通常、部屋のチューニングが良くないとコンデンサー・マイクが反射音を拾ってしまい、良い音で録れない場合が多いです。しかしEmberは守備範囲をタイトにしているのか、部屋鳴りが気になりません。音の芯となる部分がしっかり録れる感じです。例えば、かけ録りできるプラグインと組み合わせて録音すると、ワンランク上の音質を狙えて面白いかもしれません。こういったことは、しっかりとナチュラルな音質で録れるからできること。こういうアイディアがちょっと音を聴いただけで思い浮かぶということは、ポテンシャルを秘めたマイクである証拠だと思います。
録音を進めていくと、低ノイズでヘッドルームもあり、高域は透明感があってスムーズなことも分かってきました。だんだんと信頼感が高まっていきます。歌だけではなくナレーションも試してみましたが、基本に忠実な機材というのはどんなソースを録っても使える音になるのだなとあらためて思いました。
アコギの中域がダブつくことが無い
リッチな音像でオケとのなじみ方も自然
ソースを変えて、次はアコースティック・ギターで試してみます。ボーカル録りのときにEmberのスイート・スポットが結構近めということが分かったので、12フレット狙いで30cmくらい離れたところにマイキング。アコギもしっかりと芯があり、中域がダブつくこともなくバランスの良い音で録れました。ストロークでもアルペジオでも、スムーズでありながらリッチな音像で録音でき、オケとのなじみ方も自然でした。部屋の影響を受けにくいという特徴が、アコギの録音でも大きなアドバンテージとなった印象です。
エレキギターのキャビネットにも立ててみました。スタジオ・ライブなどで使う小さいキャビネットは音量的にもEmberと相性が良い感じです。ライン録音をするのが普通になってきた昨今ですが、Emberを使って家でエレキギターをマイクで録ってみるのも面白いのではないでしょうか?
続いて打楽器系も試してみましょう。ボンゴにEmberを立ててみると、ちょうどダイナミック・マイクとコンデンサー・マイクの中間的な雰囲気の音で録れました。こういうタイプのマイクはソースを選ばずそつなくこなしてくれるのが特徴です。コンデンサー・マイクを使いたいときにも、ダイナミック・マイクを使いたいときにも、どちらでも対応可能。収録時に楽器が1つ増えた、ゲストが急きょ増えたなど、現場ではいろいろありますから、マイク・ラックの中にあるととても重宝するのです。
Emberは、宅録をしていたり動画を作っている人であれば必ず選択肢に入るマイクです。ライブ・ストリーミング、ポッド・キャスティングでのナレーションにはもちろん、スタジオ・ライブでワンランク上の音質を提供できる秘密兵器としても活躍するでしょう。ホーム・スタジオ、リハーサル・スタジオでのレコーディングでは作業環境を選ばずどこでも安定した音質を約束してくれます。また、商業レコーディング・スタジオでもドラムに付けたカウベルやライド・シンバルなど、ピンポイントで使いたいけど周りの音をあまり拾いたくないときのお助けマイクとして使用するのも有効かもしれません。このクオリティをこの価格帯で実現できるBLUE MICROPHONES、時代のニーズを的確に把握し、発信し続ける力はさすがです。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年6月号より)