ネオジム磁石採用の38mm径ユニット
周波数帯域は5Hz〜30kHz
NDH20はプロ・オーディオ、いわゆる業務用機器としては珍しく、同社のイメージ・カラーであるオレンジを差し色に使った高級感のある化粧箱に収められている。この辺りはハイエンド・オーディオ・ユーザーへのアプローチであろう。ボディはシルバーを基調とし、ヘッド・バンドのスライダー下部には見慣れたNEUMANNのロゴが刻印されている。いかにも“プロ仕様”という雰囲気だ。
磁束密度の高いネオジム磁石を採用した38mm径のダイナミック型ドライバー・ユニットは、高感度かつ低ひずみで、周波数特性は5Hz〜30kHzとワイド・レンジ。ハウジングには軽量アルミニウムが採用され、そこに形状記憶タイプのイア・パッドが取り付けられている。イア・パッドの内側はオレンジで格好良い。段階式で調整可能なヘッド・バンドはスチール製で、長時間でも快適に使用できそうだ。また、NDH20は折り畳むことも可能で、専用ポーチも付属。ケーブルはストレートとカールの2タイプが同梱されており、着脱式なので自分好みのケーブルに付け替えてもいいだろう。
遮音性に優れた設計
音の質感や倍音の温もりを正確に再現
それでは試聴してみよう。スタジオでは一般的なキュー・モニタリング・システムを、自宅では少々古いが長年愛用しているヘッドホン・アンプを使用した。また今回手元に届いたNDH20はバリバリの新品であったため、まだ完ぺきとは言えないが、変な癖が付かないように専用CDを使って3日間慎重にエイジングしてからのテストとなった。
まずNDH20は密閉型ヘッドホンだが、そのサウンドはまるでオープン・エア型のような開放的な鳴り。中域に密度を感じる音像はまさしくNEUMANNならではと言えよう。ポップ・ミュージックではボーカルの存在感が増し、ピアノは粒立ちが良くタッチも軽やかに聴こえる。エレキギターはコシのあるしっかりとした音像で、エレキベースはローエンドにかけて太く伸びやかになる印象。クラシックではストリングスの繊細な質感描写が素晴らしく、豊かな響きを確認できた。
アタック/リリースの再現性は極めて正確だ。許容入力は1,000mWを確保しており、かなりの大音量でも余裕のあるサウンドを鳴らしてくれる。イア・パッドは密着性が高く、音漏れも少ないのでレコーディングでの使用も安心だろう。
最近筆者はマスタリング作業にも立ち会うことが多く、その際には自前のヘッドホンを持ち込むことがある。なぜならマスタリング・ルームにあるモニターには慣れておらず、正しい判断をするのに時間がかかってしまうからである。今回はマスタリング作業の立ち会い時にもNDH20を持参してみたが、マスタリング・エンジニアが今どの辺りの周波数帯域を処理しているかや、コンプによる繊細な音圧変化などをしっかり聴き取ることができた。また、アルバムのマスタリングという長時間の作業にもかかわらず、快適な付け心地のおかげで疲れることもなかった。よって、NDH20はミックス・ダウン時にも十分使うことができるだろう。
一点だけ不満を挙げるとすれば、それはケーブルの取り付け位置。NDH20では右側のイア・カップ下部に着脱式ケーブルの挿し込み口が装備されており、これはぜひとも左側にしてほしかった。というのもスタジオで使われている大半のヘッドホンにおいて、ケーブルが左側に取り付けられているのには理由がある。それは、往年のコンソールにおけるマスターやモニターなどを制御するノブは大体右側に集約されている傾向があり、ピュア・オーディオ系でもボリューム・ノブは右手で操作することが望ましい機材が多いためだ。よってヘッドホン・ケーブルが右側にあると、どうしても邪魔になってしまうことが考えられる。また筆者の場合は、長年の習慣でついついケーブルのある方がLchと認識してしまうのだ。
今回のNDH20は、先述のようにまだ完ぺきにエイジングされていない状態ではあるものの、試聴では質感の滑らかさや倍音の温もりをきっちりと再現し、定位感もよく分かる立体的なサウンドであった。自分が手掛けたミックスを聴いてみても、リバーブにおけるプリディレイの間隔や残響音などがとても正確に描写されていて驚いた。筆者は長年レコーディング・スタジオでよく見る定番ヘッドホンをリケーブルして使っていたが、そろそろ入れ替えを検討していた時期であった。NDH20はその候補の一つとなるヘッドホンだろう。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年6月号より)