2dBのステップ・ゲインを採用
入力インピーダンスの切り替えが可能
M801MK2は、基本的に非常にシンプルなモデルです。入出力端子はマイク・インプット(XLR)とライン・アウトプット(XLR)、パラレル・ライン・アウトプット(XLR)がそれぞれ8系統。パラレル出力によってさまざまな状況に対応できるのは、非常にありがたいです。
操作子はゲインのつまみ、48Vファンタム電源、フェイズ、PAD(−20dB)、リボン・マイク・モードのRBNスイッチを装備。これらが8ch分用意されていて、ピーク・インジケーターも備わっています。
18〜64dBのゲインは、2dBごとのステップ仕様。連続可変仕様とは異なりリコールが効くので、これだけでかなりプロ用機器であることがうかがえます。
ピーク・インジケーターは緑色が−14dBで点灯し、+16dBで赤色に点灯します。これは出荷時の値で、機器の内部でチャンネルごとのスレッショルド・レベルが調整可能です。これもプロ用機器ならではの配慮と言えるでしょう。
そして気になるリボン・マイク・モード。ゲインが10dB増幅され、マイクの破損を防ぐために48Vファンタム電源が供給できないようになります。さらに、入力インピーダンスが8.1kΩ(PAD使用時は1.3kΩ)から、20kΩという非常に高い値に変化。これによりリボン・マイクやダイナミック・マイクが、本来のポテンシャルを最大限に発揮できるわけです。リボン・マイク・モードによってインピーダンスを変更する機能は、近年のGRACE DESIGN製品に搭載されてきましたが、先代M801のリボン・マイク・モードにはこのインピーダンスの切り替え機能は無かったので、ここが大きなリニューアル・ポイントだと言えるでしょう。
今まで筆者は古いリボン・マイクは低めのインピーダンスで受けた方が良いと思っていたのですが、M801MK2のリボン・マイク・モードの入力インピーダンスは20kΩ。いろいろと調べた結果、コンデンサー・マイクとは違いリボン・マイクやダイナミック・マイクは、マイク・プリアンプの入力インピーダンスとのマッチングが、顕著にサウンドの違いとして表れるということが分かりました。
さらに、リボン・マイクは音源が低音域になるほどインピーダンスが増幅し、最大で1kΩにも及ぶらしいのです。マイクのインピーダンスは200〜300Ωが一般的で、NEUMANN U67やRCA 44BXなどの古いマイクは内部の配線で40Ωや60Ωという低い値に変更できるようになっているというのが筆者の知識だったので、これには非常に驚きました。筆者は最近NHK『チコちゃんに叱られる!』という、身近な疑問を専門家が解説するテレビ番組を非常に気に入っているのですが、まさにその番組のように身近なことなのに知らない真実でしたね。
全帯域にわたって素直なサウンド
スピード感のあるリボン・マイク・モード
さて、実際に現場で使用してみましょう。第一印象はビジュアルも含め、価格以上にしっかりした作りだと言うこと。操作性の良いつまみとスイッチ、そして分かりやすいパネルの表示が好印象です。
まずコンデンサー・マイクのNEUMANN U87Iでボーカルの収音を試みます。NEVE 1073と比較しても、そん色の無いしっかりとしたサウンドです。サウンドは1073のような色付けが無く、既発モデルのように素直で原音忠実なイメージ。楽器でもチェックしたところ、全帯域にわたって癖のない素直なサウンドになっています。
次は弊社スタジオ・サウンド・ダリにあるリボン・マイクのRCA 77DXでテスト。こちらもボーカルに使用して、通常モードとリボン・マイク・モードの違いを検証していきます。これは驚きで、誰もが聴いても分かるくらいはっきりとした違いがありました。リボン・マイク・モードは周波数レンジが広く、透明感やスピード感が断然優れています。楽器による違いなどの細かい話ではなく、素晴らしいの一言です。
ほかにも44BXやROYER LABS R-121、SAMAR AUDIO DESIGN VL37などのリボン・マイクでもチェックしたところ、同様の結果でした。そしてビンテージのリボン・マイクの方が違いが顕著に表れるようで、リボン・マイクならではのブーミーな低域が減り、低域自体の実像がはっきり伝わってきます。高域はハイエンドが伸びて透明感が増す印象です。
アコギでもチェックしましょう。弾く瞬間のピックが弦に当たる音の存在感とスピード感が、非常にナチュラルに感じます。ダイナミック・マイクでもリボン・マイク・モードを試してみました。リボン・マイクほどではありませんが、スピード感とエネルギー量が増すように感じられました。
1950年代のマイクが今になって本領発揮できるとは、うれしいやら情けないやら……。リボン・マイクに目を向けて製品を開発しているGRACE DESIGNに感謝します。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年4月号より)