精密なレンズのピントが合ったように
音のディテールが分かる
まずはお借りした個体をピンク・ノイズやサイン・スウィープ信号で測定してみました。カタログ値通り、56Hzから20kHz(スペック上は40kHz)まで±3dB以内のほぼ平坦な振幅周波数特性と、±45°以内の位相特性であることが分かりました。これは素晴らしい伝送特性であると言えます。複数のスピーカー・ユニットに帯域を分担させるため、フィルターで音声信号を周波数分割する際に、時間軸の正確さが低下してしまうことがあります。そこで問われるのがモニター・スピーカーの位相特性です。2ウェイでは入力信号を低域と高域に分解します。多少のタイミングのズレ(位相差)があったとしても、脳はまとまった信号として知覚できるのですが、このズレが音質に大きな影響を与えてしまうのです。
では、Epic 5を試聴してみましょう。説明書には、本機はニアフィールド用に設計されており、0.8〜1.4mでの使用が望ましいと記載されています。実際試聴してみると確かにそういう感じで、今回は左右スピーカー間隔と耳との距離を1辺が1.3mの正三角形になるように配置したところ非常に良いバランスになりました。またEpic 5はユニット間の位相を物理的にそろえているので、設置する際は耳の高さと音響軸を合わせた上で、バッフルが後傾した状態にすることが重要です。最初は高域の目立つやや硬めの音質に感じるかもしれませんが、その場合はスピーカーとの距離を増やすとよいでしょう。
音楽ソースを試聴してみるとまず感じることは、非常に精密なレンズのピントが合ったときのようにディテールが分かり、正確な定位感と楽器ごとの質感を感じることができます。これによりレコーディング時にはマイクの位置の微妙な変化が分かりやすく、ミックスやマスタリングにおいてもひずみなどが起きていないか迅速な判断ができると思います。
独自開発の1インチ・ツィーターは2kHzで−24dB/Octのフィルターがかけられています。急峻な特性にもかかわらずウーファーとの位相が保たれた平坦な合成特性で、クロスオーバー周波数=2kHz付近の音楽に最も重要な帯域は、再生忠実度がかなり高いと言えるでしょう。またこのツィーターの能率は比較的高めのようですが、大出力のアンプと組み合わせにおいて無音時のSN比には不利なようです。高域のSN比と低ひずみの両立は難しい問題ですが、業務用機器としては限られた条件でこのような設定はありだと思います。
ダブつきとは無縁の低域再生能力
すべての振動板にはアルミを採用
Epic 5の音の立ち上がりの速さは、特に生楽器の質感の表現に優れており、金管楽器の入ったオーケストラの生々しさが素晴らしく、スケールの大きい映画音楽などの作業の多い作曲家がモニターに使うと仕事がはかどるように感じました。このスケール感は底面のパッシブ・ラジエーターが大きく貢献。サイズから想像するより2オクターブ近く下の帯域まで感じることができます。長いダクトの共振でタイミングが遅れた上にディケイを伸ばしたようなバスレフでのダブつきとは無縁です。これはクラスDアンプと、すべての振動板素材に軽量なアルミ合金を採用している点も大きいでしょう。
低域は設置環境によってかなり影響を受ける部分ですが、Epic 5にはピン・スパイクと柔らかいシリコン素材でできたスパイク受けが付属しています。このスパイク受けの効果は音質的にも絶大で、必ず使用した方がよいです。スパイク受けの有無の効果を確かめるための試聴中、目を離したすきにEpic 5が低域の振動でトコトコと歩き出してしまいました。スパイク受けを使用したとしても設置面の共振はある程度あったので、柔らかい素材のインシュレーターの併用もよいかもしれません。
Epic 5の印象を一言で表すと、マスタリング・スタジオにあるラージ・モニターのミニチュアという感じです。小さなエンクロージャーからは想像できない、大型スタジオで聴くようなスケール感があり、ダイナミック・レンジも十分。高域の音圧も、耳の限界が先に来るほどヘッドルームがあります。出音が好みに合えば、Epic 5は手放せない道具になるかと思います。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年4月号より)