NS-10M Studioとほぼ同スペック
継ぎ目をなくしたペーパー・コーン
CLA-10は2ウェイ・パッシブ・ニアフィールド・スピーカーで、ペアで販売されています。CLA-10の再生周波数帯域は60Hz~20kHz、許容入力は定格60W/最大120W、感度は90dB SPLです。そのほかサイズや重量、およびツィーターの周囲に吸音を目的としたリング型フェルト=アコースティック・アブソーバーを装着しているところなど、確認できる範囲では、CLA-10の基本的なスペックはYAMAHA NS-10M Studioと全く同じようです。
厚さ18mmのMDF(中密度繊維板)の木製キャビネットに、白いペーパー・コーンのウーファー・ユニットAV10-MLF(180mm)と、ソフト・ドームのツィーター・ユニットAV10-MHF(35mm)を備えています。NS-10Mでは白いペーパー・コーンに継ぎ目がありますが、CLA-10ではその継ぎ目をプレス成形することでなくしてあり、これによりさらに安定したサウンドが得られるでしょう。ちなみにツィーター/ウーファー・ユニットは交換用として単品購入も可能。内部の吸音材は日本製のものが使用されているようで、この辺りからもできる限りNS-10Mに近付けようとしたことがうかがえます。
密閉型ということも大きな特徴。現在主流のバスレフ型は設置環境がスピーカーのサウンドに大きく影響する場合が多く、バスレフの位置によってはセッティングに苦労することもあります。しかし、密閉型は設置環境の影響をあまり受けにくいという利点があるので便利でしょう。なお、背面にはハイグレードな大型のネジ式コネクターが採用されています。
色付けが少なく癖の無い素直な音
200Hz~10kHz付近は特にフラット
それでは実際に聴いてみましょう。NEVE V3コンソールの上にCLA-10を横置きでセッティングし、パワー・アンプにはAMCRON DC-300A Series IIを使用します。まずは普段リファレンスとして聴いている音源を試聴。見た目に違わず、サウンドも聴き慣れたNS-10Mに似ています。しかし、ウーファーのペーパー・コーンが改良されている影響なのか、NS-10Mの音を表現するときによく言われる“紙の音”という印象がそれほどありません。非常に色付けが少なく癖の無い素直な音で、しっかりとした密度感と厚みもあります。ギラギラした派手さはないものの、アタック感や粒立ちが良く、音の減衰も自然。いわゆる“スタジオ・モニター”という印象なので、実際の作業で違和感無く使えそうです。
次にAVID Pro Toolsで最近ミックスしたセッションを立ち上げ、フェーダーやプラグインなどの設定をいろいろ動かしながら聴いてみます。第一印象は200Hz~10kHz辺りがとてもフラット。特にボーカルやアコースティック楽器の再現力が優れており、各パートに足りない帯域、または逆に出過ぎている帯域の判断がしやすいので、EQ補正が必要なポイントも素早く見定めることができます。また、パンを動かしたときのステレオ感や、前後の定位感の違いも分かりやすく、コンプのアタック/リリース・タイムなどを変化させたときのレスポンスも良いです。わずかな微調整を正確に表現してくれるので、判断に迷うことなくミックスができそうですね。
ホーンやストリングスなどでは見えにくくなりがちな内声の動きも把握しやすく、各パートの判断がしやすいのでレコーディング時のモニターとしてもよいでしょう。ローエンド/ハイエンドは自然にロールオフしている感じで、サブベースなどを作り込む際にはサブウーファーなども併用した方がよい場合もあるかもしれません。しかし、言い換えればボーカルやギター、ピアノ、ドラムといった基本となるパートの音質や音量、定位感や空気感など、ミックス時に大切な中音域のバランスにフォーカスできるということでしょう。
最近筆者は、自分でミックスまで行うアーティストから“自身の制作環境では良く聴こえるのに、別の環境ではイマイチ”という悩みをよく聞くことがあります。詳しく話を聞いてみると、その原因にはワイドレンジなモニターで作業しているケースが多いという印象でした。そういった人たちにはぜひCLA-10を、モニターとして使用することをお勧めします。中域に焦点が当たるので、音楽の重要な部分をしっかり細部まで組み立てることができるでしょう。そのため、どんな再生環境でも良く聴こえる作品に仕上げることができると思います。CLA-10は、NS-10Mのサウンドを知らない若い世代にこそ、ぜひ試してもらいたい製品です。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年1月号より)