MOOGの代名詞ラダー・フィルターを搭載
パッチ・ベイで自由な音作り
まず目に付くのは、木製のサイド・パネルとブラックでセンス良くデザインされたメイン・パネル。いかにも“MOOGらしさ”を感じさせる外観で、“物”としても魅力的だと思います。
メイン・パネルの上部には、2系統のVCOとホワイト・ノイズ・ジェネレーター、3つのエンベロープ・ジェネレーター、選択式ハイパス/ローパス・フィルターなどを用意。下部にはテンポ・ノブをはじめ、ステップごとにピッチ/ベロシティの設定ができる8ステップ・アナログ・シーケンサー、右端には24回路モジュラー・パッチ・ベイ(15イン/9アウト)などの機能を装備しています。
モジュールは内部結線されており、パッチングをしなくともすぐに音作りが可能です。搭載された2系統のアナログ・オシレーターは、それぞれ矩形波と三角波を選べます。また、HARD SYNCスイッチをオンにすると、オシレーター2の位相をオシレーター1の位相に合わせることができ、VCO 2 FREQUENCYノブを回すと音色の変化を楽しめます。
さらにホワイト・ノイズやフィルターを駆使することによっても、より強烈でオリジナリティあるサウンドを作り出すことができるでしょう。DFAMに搭載されているVCFは、MOOGの代名詞4ポール・ラダー・フィルターで、先述したようにローパス/ハイパスを選択することができます。ローパス・フィルターは自然なかかり具合で、レゾナンスを上げていくと程良く発振するのでとても心地良いです。
8ステップ・アナログ・シーケンサーはシンプルな構成で、操作はとても簡単。ピッチ・ノブとベロシティ・ノブを組み合わせて個性的なリズム・パターンを作り出すことができます。また、パッチ・ベイでPITCH CV(アウトプット)とTEMPO CV(インプット)を接続すると、リズムをスイングさせたりすることができ、パッチング次第でさまざまなパターンが作れるのでとても興味深いです。
太いサウンドのオシレーター
EuroRackケースにセット可能
DFAMと外部モジュラー・システムを組み合わせるには、まずパッチ・ベイのADV/CLOCK入力にマスター側となる外部モジュラーのクロック出力をパッチングします。これだけで同期完了です。僕自身としては、太めで好きなDFAMの三角波をオシレーターとして使用し、外部モジュラーのシーケンサーからCVを入力してフレーズを演奏させました。さらにDFAMのVCA出力から出るパーカッション・サウンドを外部でミックスしたりするなど、まるで1台のDFAMをマルチ音源とするような使い方ができて大変面白かったです。
そのほか、DFAMはパッチ・ベイにEXT AUDIOという外部オーディオ入力を備えており、ここに入力した音源にフィルターやべロシティ、エンベロープなどの処理を適用することもできます。僕は試しにドラム・ループを入力してみましたが、もともとのドラム・ループが持つグルーブとDFAMのグルーブが相互作用し、非常に面白い効果を得ることができました。
DFAMは、“どちらかと言えば”少ない予算の中で音楽制作をしていたり、これからDAWを始めるようなクリエイターの方たちに“まずはこれをどうぞ”と言うような製品ではありませんが、既にモジュラー・シンセを導入している方はもちろん、これからモジュラー・シンセを始めようという方、自分だけのパーカッション・サウンドを追求したい方などにはぜひ試していただきたいシンセだと思います。説明書にはプリセット・パッチも幾つか紹介されているので、一通り試してみるのもお勧め。DFAMはちょっとしたパラメーターの違いがサウンドに大きく変化を与えるので、個性的で幅広いサウンドを容易に作り出すことができるでしょう。
また、DFAMを単体使用して自作したループ・サウンドなどを、DAWに取り込みビートを構築していくのもいいと思います。そして、やはりパッチ・ベイを使って外部のモジュラー・シンセと組み合わせるのも面白いです。そうすることによって無限の可能性が広がり、制作意欲も十分に刺激してくれることでしょう! ちなみにフロントのネジを外して電源ケーブルを差し替えれば、そのままEuroRackケースにセッティングできるのもモジュラー・シンセ・ユーザーにとってはうれしいところですね。僕はまだ試せていませんが、同シリーズのMother-32と組み合わせての使用も面白そうなので、ぜひ一度チャレンジしてみたいです。
ノースカロライナ州アッシュビルのモーグ・ミュージック・ファクトリーでハンドメイドされたDFAMは、パーカッション・パターン制作のための実践的なアプローチを提示しています。パッチングの必要もなく、どんな年齢の人もユニークでリズミカルなパターンを素早く制作可能です。多くのクリエイターやシンセ・フリークにとっても魅力的な製品なのではないでしょうか。気になった方はまず、近くの楽器店などでじっくりと試奏されることをお勧めします。
撮影:川村容一(メイン写真)(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年8月号より)