3つの波形が用意されたVCO1&2
ツマミ一つで周波数変調が可能
筆者は初代MiniBruteのユーザーなのだが、MiniBrute 2の実物を見て驚いたのがその外観である。サイドの木製パネルが写真で見るよりも高級感を漂わせ、全体的にシックでクール。スライダーとツマミがバランス良く配置され、視覚的にも音作りが容易になるようデザインされている。
音源部分はオシレーター(VCO)を2基搭載。VCO1にはノコギリ波、矩形波(パルス・ワイズ可変)、三角波が用意されており、各波形の音量をオシレーター・ミキサーで調整できる。ノコギリ波には“Ultrasaw”、三角波には“Metalizer”というウェーブ・シェイピング機能があり、それらを活用すればエッジの鋭い音や深みのある音なども作成可能だ。
初代のMiniBruteは、オシレーターとは別途サブオシレーターを備えていたが、本機はVCO2を装備。サイン波/ノコギリ波/矩形波を選んで使用でき、それらのピッチをTuneツマミで調整可能なため(12時の位置がVCO1と同じピッチ)、初代のサブオシレーターよりもずっと高機能である。個人的にはサイン波が気に入っていて、音が太く、端正かつ素直。それでいてアナログならではのマイルドさもたたえている。 Tuneツマミの下にはRangeというスイッチがあり、調整できる帯域幅をFine(中心周波数の上下1オクターブ)/All(MiniBrute 2で出せるすべての帯域)/LFO(1Hzからの超低域)の3種類から選択することが可能。これにより、新たに追加されたFM機能やオシレーター・シンク機能などと合わせて、さまざまな音色合成が行える。
そのFM機能は、VCO1のFMツマミなどで扱える。このツマミには、デフォルトでVCO2の周波数がモジュレーション・ソースとして割り当てられており、上げていくとVCO1の周波数がモジュレートされる仕組み。つまり、自らパッチングなどをすることなくFMが行えるわけだ。アナログのFM機能が標準搭載されているのは非常にうれしく、これによってディープなFM音やエキセントリックなサウンドなど、無限とも言える音作りが可能になった。筆者は、FMだけのためにモジュラー・シンセを買い込み散財した経験があるので、コスト・パフォーマンスの面から見てもありがたい。
フィルターは2ポール(−12dB/oct)のSTEINER-PARKERスタイルで、フィルター・タイプをローパス/ハイパス/バンドパス/ノッチから選択可能。ローパス・フィルターは、2ポールとはいえかなり深くかかる印象で、くぐもった音からキラキラした音色まで幅広く作れる。またレゾナンスを上げると自己発振が可能で、その音もかなり素直で奇麗だと感じた。
多彩な動作モードを備えるEG
“Brute Factor”など独自機能も搭載
次にエンベロープ・ジェネレーター(以下、EG)を見ていこう。ADSR方式とAD方式の2種類のEGが用意されており、デフォルトでは前者がフィルター用、後者がアンプ用となっている。AD方式については、最初は戸惑ったが慣れると便利だ。Decayスライダーの横には、EGの挙動の仕方を選べるGate/TrigとOnce/Loopの2つのスイッチがスタンバイ。例えばGateでは、ノート・オフのタイミングまで信号の最大レベルが保たれ、ノート・オフ以降はレベルが減衰していく。またOnceは、設定したエンベロープを1回だけ動作させるモードなので、GateとOnceを選んでおけば、通常のADSR式のEGのようになじみのある感じで操作できるだろう。
ちなみにLoopというモードは、設定したエンベロープを繰り返しかけるというもの。次のノートがトリガーされるまでアタック/ディケイの各段の設定がループして適用されるので、トレモロのような効果がすぐに得られて面白い。そのほか、TrigとLoopを選択しておけば無限に発振し続けるので音作りの際のチェックなどに便利だし、初期電子音楽のようなエクスペリメンタルなことをやろうとするときにも有用と言えそうだ。
LFOは、同じ仕様のものが計2基備わっている。6種類の波形を選んで使え、周期をシーケンサー(後述)のテンポ・クロックに同期させることも可能。LFO自体にアッテネーターは付いていないが、パッチ・ベイのセクションから2組のアッテネーターにアクセスできるので、それを使えばいい。
アンプには特徴的な機能が2つスタンバイ。一つは、出音にフィードバック音を加えられる“Brute Factor”だ。Bruteシリーズでおなじみの機能であり、ツマミを回していけば、すぐにエッジの効いたサウンドを作成できる。もう一つは“Att 2→Amp”というツマミ。こちらは、開くと無限に音が発振され続けるので、音色のチェック時はもちろんのこと、ドローン制作なども容易に行える。この機能はモジュラー・シンセを意識したものであると思われ、モジュラーになじみのある人はツマミを全開にし、パッチ・ベイで遊ぶとすぐにいろいろできそうだ。先に紹介したEGのLoopと組み合わせることで、かすかなグルーブを持ったドローンなどがすぐにできるのも面白い。
シーケンサー(最大64ステップ)とアルペジエイターも搭載されており、前者は細かいエディットも可能。作成したシーケンスを本体のUSB/MIDI端子からMac/Windowsのコンピューターに保存しておくこともでき、DAWとのテンポ同期も容易である。アルペジエイターには8つのパターンが用意されており、ホールド・モードなどとともに重宝しそうだ。
視認性が良い48系統のパッチ・ベイ
内蔵のアッテネーターも有用
さていよいよ、MiniBrute 2の目玉機能である48ポイントのパッチ・ベイを見ていこう。基本的にはここまで紹介してきたパラメーターなどがパッチングできるようになっており、端子名を白い文字で記載しているのが入力端子、白いボックスで囲んでいるのが出力端子である。また、端子上部に付された青い文字はデフォルトの状態で何が内部結線されているのかを表しており(ほかのソースをパッチングするとその接続は解除される)、視覚的に大変分かりやすい。
このパッチ・ベイは外部のEuroRackモジュールとも容易に接続でき、例えばMIDIというセクションにあるKBD端子(ピッチ出力)を外部オシレーター・モジュールのV/Oct端子にパッチングし、EGのアウトを外部モジュールのVCAに、そのVCAアウトを本機のEXTイン(外部入力)に接続すれば、外部モジュールを鍵盤で内蔵オシレーターのように扱うことができる。また、パッチ・ベイで扱えるアッテネーターも大変便利。外部モジュールにアッテネーターが付いていないこともよくあるからだ。例えばLFOのアウトを外部モジュールに送る際や、VCO2のサイン波をFM合成用ソースとして送る場合などに有用だろう。このパッチ・ベイは、外部モジュールを使わずとも十分に楽しめる。AD方式のEGと“Att2→Amp”ツマミを活用すればシーケンサーを使わずに自動演奏が行えたりもするので、適当にパッチングするだけでも遊べるのだ。
単体はもちろんのこと、外部モジュールとの接続でも大いに活用できる本機。ARTURIAからRackBrute 3U(42,000円)/RackBrute 6U(55,000円)という外部モジュール用のケース&電源も発売されているので、これからモジュラーを始めようという人には最初の一台として、まずはこのMiniBrute 2でモジュラー・シンセの基礎を学ぶというのもオススメだし、コスト・パフォーマンスは相当に良いと思う。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年7月号より)