「TURBOSOUND Berlin TBV123-AN/TBV118L-AN」製品レビュー:スタック時の位相干渉を取り除く技術を採用したパワード・スピーカー

TURBOSOUNDBerlin TBV123-AN/TBV118L-AN
1970年代後期に発足して以来、さまざまなアーティストのパフォーマンスを支えてきたTURBOSOUNDが、Berlinシリーズを発売。このシリーズにはフルレンジ2ウェイのTBV123とサブウーファーのTBV118L、そのパワード・タイプであるTBV123-ANとTBV118L-ANがある。今回はパワード・タイプをテストしてみた。

KLARK TEKNIKのDSP内蔵
ULTRANETネットワーク機能搭載

TBV123-ANは12インチ・ウーファーと1インチ・ドライバー2基を搭載し、デンドリティック・ウェーブ・ガイドを使ったホーンを採用している。デンドリティックとは樹木状という意味で、デンドリティック・ウェーブ・ガイドはダイアフラムから出力された音源を等しく2分割し、それぞれをさらにまた2分割……と繰り返し合計16に分けたときに、音源が出口に至るまでの道のりをすべて等距離にすることによって、スピーカーをスタックしたときのキャビネット間の位相干渉を取り除く技術。つまり、TBV123-ANのテーパーを合わせてスタックすれば、それぞれの帯域すべてが完全に同一時間に出力され、物理的に一つのホーンから出力されることと同じになるということである。TBV118L-ANは18インチ・ドライバーを内蔵したサブウーファーだ。両者をスタックしたときの最大サイズは598mm(W)×751mm(D)とコンパクトな部類に入る。またそれぞれKLARK TEKNIKのDSPとクラスDアンプを内蔵し2,500Wと3,000Wという高出力を持っている。

TBV123-ANとTBV118L-ANのリア・パネルには、プロセッサーをコントロールするためのディスプレイや各コネクターが付いている。今回のテストではアナログ(XLR)で入力したが、デジタル入力ではULTRANETを採用し、イーサーネット・ケーブルでの接続も可能。またパワコンによるACリンクもできるので、シンプルな接続ができる。

▲TBV123-ANとTBV118L-ANのリア・パネル。左上にはLCDパネルと設定用の4つのボタン、ジョグ・ダイアルがある。その下には、左から外部コンピューターと接続するためのUSB端子、INPUT(XLR/フォーン・コンボ)、パラアウト用のLINK(XLR)、ULTRANET IN&THRU(共にRJ-45)、右端にはパラアウト用のAC LINK OUTPUT、AC INPUT(共にパワコン)、電源ボタンを装備 ▲TBV123-ANとTBV118L-ANのリア・パネル。左上にはLCDパネルと設定用の4つのボタン、ジョグ・ダイアルがある。その下には、左から外部コンピューターと接続するためのUSB端子、INPUT(XLR/フォーン・コンボ)、パラアウト用のLINK(XLR)、ULTRANET IN&THRU(共にRJ-45)、右端にはパラアウト用のAC LINK OUTPUT、AC INPUT(共にパワコン)、電源ボタンを装備

次に両製品のプロセッサー部分に注目して見てみよう。EQは、低域と高域のシェルビングEQと2バンドのパラメトリックEQ、ハイパス・フィルター、ローパス・フィルターを備えている。また、TBV123-ANに搭載されたハイパス・フィルターは、TBV118L-ANを使用するときに80/120Hzの2つから選択可能。クロスオーバー機能も装備し、任意の周波数と極性の設定ができる。そのほかディレイやリミッターも付いていて、プリセットのセーブ/ロードも簡単。昨今のアンプ内蔵プロセッサーとしてはとてもシンプルである。キャビネット専用のアンプなので、それほど多くの調整機能は必要無いと思われる。

相互干渉しない“一体感のあるサウンド”
タイトで迫力のあるローエンド

実際に200人くらいが収容できるシアターにて、音源とマイクによるTBV123-ANのテストを、いろいろな組み合わせで試した。まずは1本のTBV123-ANを汎用スタンドに立ててのチェック。音質はまさにTURBOSOUNDの音。高域の伸び方が、少し低い中高域の辺りからグッと力強さを伴う“あのサウンド”で思わず“にやり”とした。

次にTBV123-ANをスタンドに2本マウントしてみた。スピーカー同士の連結には角度の選択肢はなく、ぴったりくっ付けることが可能。本体底面にはマウント用の穴が正面方向と斜め下方向と2種類あり、斜め下方向にすることによって2本重ねたときのスピーカーの角度がちょうどよい方に向くように作られている。ライン・アレイをスタンドで構築できるのは大変画期的なことだ。ホーン部分に関しては特別なプロセッシングなどは何も施さずとも音質の変化はなく、スピーカー同士が相互干渉しない“一体感のあるサウンド”が実現された。これはTURBOSOUND独自のデンドリティック・ウェーブガイドの技術によるものだろう。12インチ・ウーファーに関しては、干渉を解消するプロセッサーの機能が選択できるが、それを使わなくても乱れた感じはそれほどしなかった。一つ挙げるとしたら、スタンドにマウントしたときの見た目がシンメトリーにはならない点だが、音質的には遜色無いだろう。

そして、いよいよTBV118L-ANを追加してみる。プロセッサーの設定は至ってシンプルで、ローパス・フィルターの設定で80Hzか120Hzかを選択するだけ。今回は80Hzに設定し、先ほどスタンドに立てた2本のTBV123-ANと鳴らしてみた。結果、タイトで迫力のあるローエンドが追加され、音楽の表情がガラッと変わった。TBV118L-ANはコンパクトだが、スピード感のあるローには好感が持てた。18インチ・ドライバーが持つゆとりと良く設計されたキャビネットによるものだと思うが、音が作られた感じではなく、いわゆる“スピーカーらしさを感じるサウンド”で、ある意味TURBOSOUNDの伝統的な音。ここでも思わず“にやり”としてしまった。

次にTBV118L-ANを2本スタックし、その上にポールを取り付けてTBV123-AN2本を乗せ、高さを3m近くにした。音はサブウーファーが一つ足された分さらに迫力が増したように感じた。TBV123-ANの指向性は100°×15°で、合計3本までスタックできるので2階席のある500〜600人キャパシティのコンサート・ホールでも十分に対応できるだろう。

最後にTBV118L-ANを3本積んで、真ん中のスピーカーを逆向きにしたカーディオイド設定を試みた。ローパス・フィルターのパラメーター、80/120Hzのそれぞれにカーディオイド設定ができる。ステージ側に回り込んだ音は見事にすっきりとして、しっかりと効果を確認できた。

スピーカーの重量に関しては、一人で設置できるかどうかで使用できる規模が違ってくるが、このBerlinシリーズは、全体的に重量があるので一人での作業は少し難しいと感じる。しかし、だからこそしっかりとした良い音が出ることが実感できた。TBV123-ANは電気的プロセッシングによるものではなく、デンドリティック・ウェーブガイドによる物理的な工夫によってパワーのあるハイエンドが感じられた。そして、重量のあるTBV118L-ANから出てくるローエンドのスピード感は、2本スタックしてもその印象は変わらず好印象であった。

昨今ではプロセッサーによってローエンドを作り出し、筐体の重量を抑えている製品を多く見かけるが、これは環境によってはブーミーで実体のないローエンドになってしまうことが多々ある。しかし、TBV118L-ANはしっかりと“PA”が感じられる製品。パワード・タイプであるTBV123-ANとTBV118L-ANは、難しい調整や接続は必要無く、設定や積み方によってガラっと音が変わってしまうこともないので、比較的誰でも安心して使用できる。サイズも小さめなので積荷の負担にならないのもメリットだ。コンパクトなパワード・スピーカーに少し物足りなさを感じているが、大規模なセッティングにはしたくないという人には打ってつけのスピーカーだろう。

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サウンド&レコーディング・マガジン 2018年6月号より)

TURBOSOUND
Berlin TBV123-AN/TBV118L-AN
Berlin TBV123-AN:430,000円、Berlin TBV118L-AN:330,000円
⃝Berlin TBV123-AN ▪ユニット構成:12インチ・ウーファー(低域)、1インチ・ドライバー×2(高域) ▪クラスDパワー・アンプ出力:2,500W ▪指向性/100°(水平)×15°(垂直) ▪外形寸法:598(W)×344(H)×398(D)mm ▪重量:23.0kg ⃝Berlin TBV118L-AN ▪ユニット構成:18インチ・ウーファー ▪クラスDパワー・アンプ出力:3,000W ▪外形寸法:598(W)×513(H)×751(D)mm ▪重量:38.5kg ⃝共通項目 ▪ビット&サンプリング・レート:最高24ビット/48kHz