衝撃に強いメタル・シャーシを採用
“1-knob comp”で簡単に音作り
MGシリーズの中にはYAMAHA MG10XUがありますが、MG10XUFとの大きな違いは、ボリューム・ノブなどが縦型のスライド・フェーダーになっているところでしょう。また、MG10XUFはMG10XUと比べて操作パネルの傾斜角度が若干大きくなり、操作性や視認性がさらに高くなっています。細かいところですが、そういった部分の積み重ねで作業意欲が変わることがよくありますので、重要な部分ですね。筐体にはパウダー・コーティングされたメタル・シャーシを採用し、衝撃にも強く、耐久性能も高いそうです。
もちろん、今まで培われてきたMGシリーズの技術はそのままに継承。ミキサーの性能を一番左右するマイク・プリアンプには、上位モデルのMGPシリーズと同仕様のD-PREを搭載しクリアなサウンドを提供してくれます。入力は全部で10chあり、そのうちマイク/ライン入力(XLR/TRSフォーン・コンボ)が4ch、ステレオ・ライン入力(フォーン)が3chあります。ch1〜4は48Vファンタム電源が供給でき、さらにch1〜2はノブ一つで簡単に音作りができる“1-knob comp”を搭載。一つのノブ操作でボーカルから楽器まで最適なコンプレッション効果を得ることができます。ch5〜6とch7〜8はRCAピン入力にも対応し、ch9〜10はライン入力(フォーン)とUSB接続されたコンピューターからの入力の切り替えが可能です。出力はステレオ・アウト(XLR/TRSフォーンL/R)、モニター・アウト(TRSフォーンL/R)、AUXセンドとステレオ・ヘッドフォン出力(TRSフォーン)を備えています。
リア・パネルには24ビット/192kHz対応ステレオUSBオーディオI/Oを搭載。コンピューターをはじめ、市販の変換アダプターを使用すればAPPLE iPadやiPhoneにも接続でき、高音質なデジタル録音/再生を行うことが可能です。
24種類のエフェクト選択が可能
2イン/2アウトのUSBオーディオI/O
まずはMG10XUFにiPadをつなぎ、スタジオ・モニターで音楽を試聴してみたところ、音質はちょっとびっくりするくらいクオリティが高いです。明らかにいつもよりも音が良く、楽曲の奥行きが鮮明で、張りのある音になっていました。
続いてマイクをch1につないでボイス・チェックもしてみましたが、これも同じように非常に好印象。高域は奇麗に伸び、それでいて密度も高く張りのある音です。低域は存在感がありますが余計な癖も無く、これがD-PREの“原音に忠実なサウンド”ということなのでしょう。これまでさまざまな小型アナログ・ミキサーを試してきましたが、それらのサウンドを2段階も3段階もアップグレードしたようなクオリティの高さだと思います。私のつたない経験上ではありますが、このクラスのミキサーの中では最高レベルの音質だろうと感じました。ホーム・スタジオ・ユースでこの音質が手に入るのは、実に驚きです。
また個人的に良いと思ったのは、ch1〜4のマイク/ライン入力にPADスイッチが装備されていること。高出力のソースが入力されても、ワンタッチでひずみのない入力レベルに設定できて便利です。例えばコンデンサー・マイクを使用してドラムの録音をする場合など、どうしてもPADが無いとオーバー・レベルになってしまうのですが、PADが付いていることで安心してドラムやパーカッションなどにもコンデンサー・マイクを使って録音ができます。さらに内蔵デジタル・マルチエフェクト・プロセッサー“SPX”も試してみましたが、リバーブやディレイなどは単体ハードウェアと比べても遜色ない音質。計24種類のエフェクトを選択でき、サウンドを自由に色付けすることが可能です。これだけ種類があれば、普段での用途としてはほぼカバーできるでしょう。
最後に2イン/2アウトのUSBオーディオI/Oの機能もチェック。セットアップは非常に簡単で、私の場合はMG10XUFとAPPLE MacBookをUSBケーブルで接続し、いつも使っているDAWを起動し設定するだけです。ドライバー不要で自動認識でしたので、普段からDAWを使用して音楽制作をしている人ならスムーズにセットアップできると思います。試しにDAWで音声を録音/再生してみました。録音した音声はそのままミキサーのch9〜10に出力され、アナログでモニターしていた音がそのまま再生されているような音質です。MG10XUFはコンパクトなのでフットワークも軽く、PA用途としてもとても便利なのですが、それ以上にミュージシャンやシンガー・ソングライター、YouTubeなどの動画クリエイターへのホーム・スタジオ用ミキサーとしてもお薦めです。手軽にハイクオリティな音楽制作環境を実現できる製品でしょう。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年6月号より)