1インチ径ダイアフラムを2枚搭載
出力段にカスタム・トランスを装備
僕は2012年に本誌でSE2200AIIをレビューしました。その後すぐに購入し、2018年現在も飽きることなく出動回数がかなり多いマイクのひとつです。当時の5万円以下のラージ・ダイアフラム・マイクには、中域の情報量の少なさと高域のピークによって、硬くて耳に痛い音がするというイメージがありました。しかしSE2200AII(発売当時39,900円)は高域がオープンで明るく、中域に関しても十分な“実の部分”があって引き締まっており、なおかつバランスが良くて明るいという印象を持ったのです。個人的には“モダンな響き”という感じがします。また録音中からあまり処理しなくても最終形が見え、ボーカリストも歌いやすそう。そんなマイクが進化したというのだから期待も膨らみます。
今回の新生SE2200は、オリジナルのSE2200からカプセル・デザインやカスタム設計の出力トランス、クラスA回路トポロジーなどを受け継いでいます。カプセルに関しては、音響特性を向上させるために金蒸着の1インチ径ダイアフラムを2枚搭載。これは前モデルのSE2200AIIにも共通の仕様です。出力段のカスタム・トランスはSE2200AIIからのアップデート・ポイントで、往年のクラシック・マイクをほうふつさせます。回路はICを使わないディスクリート・コンポーネントとなっており、低ノイズ/高感度をうたっています。機能面については、SE2200AIIからローカット・スイッチに160Hzという選択肢が増えました。
周波数レンジがワイドで
中域にサチュレーションを帯びた音
それでは実際に音を聴いてみましょう。まずはボーカルでチェックします。ローカットを入れずにマイクプリ(オーディオI/Oに内蔵のものを使用)のゲインを上げていくと、SE2200AIIに比べて中域に若干サチュレーションが増え、前に張り付く感が強くなっている印象です。この辺りはカスタム・トランスによるブラッシュ・アップではないでしょうか。僕はSE2200AIIを使うとき、ビンテージ・トランス搭載のマイクプリやチューブ・コンプなどを併用してサチュレーションや立体感を付け加えていました。しかしSE2200は、マイク単体でモダンでありながらもクラシックのテイストを少しブレンドしたようなサウンドに仕上がっています。
またこれを受けてか、ローカットにSE2200AIIの80Hzだけでなく160Hzが採用されたのも納得。SE2200AIIのように極めてモダンな響きにしたい場合は、160Hzにローカットを入れるとその通りになります。160Hzという数値だけを見ると“結構切るんだなぁ”と感じますが、実際に音を聴くとそんなことはなく、ボーカリストはこっちの方が歌いやすいのではないかとも。マイクに近付く場合も思いのほか効果的です。また、SE2200にはポップ・ガードが付いてくるのですが、これが軽く楕円のような形状で、きちっと吹かれが止まります。マイクの付属ポップ・ガードというのは大体おまけ的なクオリティで現場で使えないものが多い中、さすがアクセサリー製品も数多くリリースしているSE ELECTRONICS。作り込みが違います。
次にアコースティック・ギターでチェック。ストロークもアルペジオも、アタックからサステインまで奇麗に表現できます。SE2200AIIでアコギを収めると、ドラム入りのオケでリズムの一部として聴こえてくるようなサラっとした質感というイメージですが、SE2200は“アコギと歌だけ”といったメイン的な使い方にもテリトリーを広げている印象。これも出力トランスからの影響が大きいのではないかと思います。
アコギに限らず全般的に言えることですが、SE2200AIIも今回のSE2200も、オフマイクよりオンマイクの方が、より“らしい”モダンな響きが得られると感じます。またSE2200については、ローカットと近接効果、トランスによるサチュレーションを理解してマイキングしていけば、収音時にかなりのところまで音を作り込めるでしょう。
SE ELECTRONICSの製品のように、機能的にはシンプルで見た目も派手ではないけれど、よく考えられ、一つ一つ丁寧にハンドメイドされたマイクは良いものです。使い手の理解とイマジネーションによって、いつまでも飽きのこないモダン・スタンダードとして君臨していくことでしょう。そしてこの価格でこの質が得られ、さらには時代の変化に合わせてアップデートされ、常に新鮮な音がすることに驚かされます。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年3月号より)