ADSRの各カーブを変えられるEG
8chモジュレーション・マトリクスを装備
まず製品を目にして一番印象的だったのは、小さなボディながらかなり頑丈で、高級感があることだ。スライダーとボタンが所狭しと並び、センターにある大きなディスプレイに波形などのさまざまなパラメーターがグラフィカルに表示される。
音源部分はオシレーターを2つ搭載し、オシレーター1でノコギリ波と矩形波/パルス波、オシレーター2で矩形波/パルス波を生成可能。各ボイスで2つのオシレーターを使える。オシレーターの音量バランスについては、オシレーター1が音量固定なので、オシレーター2のレベル・スライダーで調整する形。またこれらとは別途、ノイズも使用可能だ。
フィルターは、オシレーター後段のVCFとしてローパス、VCAの後段にハイパスを用意。ローパス・フィルターはボイスごとに異なる設定ができ、レゾナンスを上げるとしっかり発振する。その発振音は濁った感じではなく、サイン波のオシレーターとして使用できるようなクリーンで気持ちの良い音色だ。
VCAにあるのはレベル・スライダーだけだが、エディット・ボタンを押しディスプレイを見るとパン・スプレッドの設定が行えるので、最大6つのボイスをバラバラの定位で出力可能。エフェクトでのステレオ化とは違った面白い効果を得られる。
LFOの数は2つで、いずれも7種類の波形を選択可能。それぞれにディレイ・タイムのスライダーも用意されているという充実ぶりだ。エンベロープ・ジェネレーター(EG)はVCA用、VCF用、モジュレーション用の3つがあり、スライダーは選択式で兼用となっている。通常のADSR型だが、A〜RのすべてのカーブがCURVEボタンを押してからADSRの各スライダーを動かすことでエディットできるようになっている。たった4つのスライダーと4つのボタン(EGの選択とカーブ)でかなり細かい設定ができる。LFOとEGは、共にボイスごとにかけられる仕様だ。モジュレーションに関しては、ディスプレイ内のマトリクスで行う。8chのマトリクスなので、ソースやデスティネーション、デプスなどを最大8つアサインできる。
アルペジエイターも“これでもか”というほど充実。パターンを全11種類のプリセットから選択できる上、エディット機能が付いており、最大32のステップのベロシティやゲート・タイム、レングスを設定することが可能。アルペジオをよりフレーズらしくジェネレートできる。また32種類のパターンがプリセットされているほか、ユーザー・パターンを32種類まで作成可能だ。
さらにはコントロール・シーケンサーも装備。こちらは各種パラメーターに作用する32ステップのシーケンサーで、モジュレーション・ソースとしてマトリクスにアサインすれば、さまざまなパラメーターに躍動感を与えることができる。同じセクションではコード・メモリーも可能で、中でもポリコード機能が出色。各鍵盤に和音を登録でき、例えば1曲の中で使うすべてのコードを登録しておけば、指1本で曲に合ったコードを鳴らしていくような工夫もできる。
ユニゾンについては、全体で6ボイスなので2音ずつのユニゾンなら3ボイスに、3音ずつなら2ボイスになる。このほか4音ユニゾンと2音ユニゾンの音を同時に使ったり、6音ユニゾンなども可能。各ボイスがアクティブであることを示すLEDが搭載されているため、そのとき何音使用しているのか、どのようなユニゾン・タイプで鳴っているのかなどが一目りょう然だ。これは演奏中の安心感にもつながり、とても良いと思う。鍵盤の左側にあるホイール類はバック・ライト付きで、モジュレーションなどを深くかけるほどに明るくなるため操作していて気持ち良い。ホイールを上げっぱなしにしてしまってミスをする、といったこともこれで防げるだろう。素晴らしい特徴だ。
アナログらしい音色から
デジタルライクな音まで対応
本機は、TC ELECTRONICとKLARK TEKNIKが開発した高品質なデジタル・マルチエフェクトを備えている。内容も充実していて、リバーブやディレイ、EQ、ディストーションなど全35種類を搭載。同時に使えるのは最大4系統で、それらをさまざまな組み合わせで使うことが可能となっている。
プリセット音色は8バンク×128プログラムで計1,024種類あり、リード系からパッド系まで、さまざまなスタイルの音が用意されている。エレピ系はエンベロープ(特にディケイ)のカーブを鋭くすることで、まるでデジタル・シンセのようなクリアでアタック感のあるサウンドになっている。パッド系のプリセットについても、内蔵のデジタル・エフェクトをうまく組み合わせているのだろう、アナログ・シンセだけでは出せないようなサウンドも印象に残った。もちろんアナログ系サウンドも多数あり、良い意味でさまざまな用途に使えるシンセと言える。
DeepMindシリーズにはAPPLE iPadや一部のAndroidタブレット端末、Mac/Windowsに対応した専用のエディター・アプリが用意されており、これを使用することで全パラメーターをUSB/MIDI経由で遠隔操作できる。視覚的にエディットできるのはもとより、非常に分かりやすい“プリセット・マネージャー”、最大4つのプリセット音色をタッチ操作でブレンドできる“プリセット・ブレンダー”、DAW上でプラグインを操作するような感覚で使える内蔵エフェクトの設定画面、コントロール・シーケンサーやアルペジエイターのセッティング・ページなど便利な機能が用意されている。操作性も反応も良く、細かい音作りやシーケンサーのプログラミングには価値のあるものと感じた。
BEHRINGERにとって初のシンセのシリーズが、これほど完成度の高いものになると、今後の製品も実に楽しみである。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年3月号より)