スタンド設置も行えるPA用パワード・スピーカー「YAMAHA DHR12M」レビュー

スタンド設置も行えるPA用パワード・スピーカー「YAMAHA DHR12M」レビュー

 YAMAHAから新たなPA用スピーカー、DHRシリーズとCHRシリーズが発表された。前者はパワード、後者はパッシブで、共に低域トランスデューサーが10インチ/12インチ/15インチ径の3機種をそろえる。今回はDHRシリーズから12インチのDHR12Mをテストした。

機能を絞ったシンプルな作りが奏功。ウェッジ・モニターとして練られた設計

 DHR12Mは、機種名からも察しが付く通りウェッジ・モニターとして使いやすい形状だが、スピーカー・スタンド用のソケットを備えるためスタンド設置も可能。ちなみに10インチのDHR10と15インチのDHR15は、スタンド設置を前提とした形状だ。内蔵アンプの最大出力はDHR12MとDHR15が1,000W、DHR10が700W。DSPによる音質調整機能D-CONTOURでメイン/モニターのモード切り替えが行え、目的に合わせてスイッチ一つで設定できる。

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DHRシリーズ。左から低域ドライバー10インチ径のDHR10、12インチのDHR12M、15インチのDHR15

 近年のパワード・スピーカーには、Bluetoothレシーバーや数種類のEQプリセットを備えるなど多機能なモデルが多く、それも大きなメリットだが、DHRシリーズは至ってシンプルなのが良い。ストア機能なども無く、前に使ったときの設定になっていないかを現場で確認したり、レンタル使用した後にセッティングを戻したりといった手間が省ける。

 

 DHR12Mの背面には2つのチャンネルが用意され、いずれもXLR/TRSフォーン・コンボのマイク/ライン・インを装備。ch2にはRCAピンのライン・インL/Rも備えている。またXLRのパラアウトが1基用意され、もう1台のDHR12Mと接続すれば、ウェッジをダブルで設置することが可能。この通り入出力系統もシンプルだが、昨今はデジタル卓の方でさまざまな調整が行えるので、スピーカー側に機能が詰め込まれていなくても現場では十分事足りる。

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背面のch1にはマイク/ライン・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)、レベル・ツマミ、入力レベル切り替えスイッチ(マイク/ライン)を装備。ch2はマイク/ライン・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)、ライン・インL/R(RCAピン)、レベル・ツマミを備え、その下にはライン・アウト(XLR)と出力ソース切り替えスイッチ(ch 1のみ/ch1+2のミックス)が用意されている。右にあるのは、D-CONTOURスイッチ(FOH/MAIN、OFF、MONITOR)とハイパス・フィルター・スイッチ(120/100Hz/OFF)

 DHRシリーズは非常にストレートで、細かいことを気にせず使用できるパワード・スピーカーと言える。誰もが使いやすいデジタル卓を作り続けているYAMAHAならではの製品なのかもしれない。また、側面のハンドルがグリル面ではなくフロア面に対して平行に付いているため、向きを気にせず手に取れるのがありがたい。

 

 エンクロージャーはポリウレア・コーティングで、同社DXRシリーズよりも硬質になっているからか、音が締まった印象。特に、このDHR12Mでは声の帯域を耳に痛くなく、なおかつコシのある音で聴くことができる(後で詳述)。

 

 サイズがちょうど良いことに加えて、ウェッジ・モニターとして設置したときの角度も絶妙。このクラスのスタンド設置/ウェッジ・モニター両用のスピーカーで小割(小さな木材)などを使わずともちょうど良い角度で置ける機種は、今まであまり見かけなかった。またアングル調整が必要な際に、フロアとの間に小割を挟んでも安定しやすい形状。その形状から、スタンド設置を前提としたスピーカーに比べて、ステージ転換のためのバミりもしやすいと感じた。ハンドルの面を下にして縦に置く場合、エンクロージャーの奥行きが浅いので、ステージに設置するインフィル・スピーカーとしても活躍しそうだ。

滑らかな高域とタイトな低域でハウりにくい。生楽器から電子音まで癖の無い音で再生

 デジタル卓と併用して、まずはモニター用途でチェックした。EQをかけずに声を入力してみたが、モニターとして十分に機能する音量まで持っていける。音質調整機能のD-CONTOURにはFOH/MAIN、MONITOR、OFFの3つの設定がスタンバイ。使用したときの音質変化はナチュラルで、オーバーにEQされているような印象も無く、扱いやすくて効果的だ。OFFにしても滑らかな高域とタイトな低域で、ハウリングが起こりにくい。高域が伸びたマイクにはOFF、そうでないマイクにはFOH/MAINやMONITORというように使い分けが容易で、さまざまなマイクのキャラクターと相性が良い。

 

 2台のDHR12をウェッジで使用してみると、ダブルなのに低域が飽和せず、パワフルかつタイトに鳴ってくれる。高域は耳障りでなく、それでいてくっきりとした音だ。好みに応じて120Hz辺りを2〜4dBほど落とせば、さらにすっきりと明りょうで、なおかつコシのある音でモニターできる。

 

 続いて、舞台現場のクリエイション/リハーサル中にモニター/メインの両方で試してみた。エレキギター、マンドリン、ハープなどを鳴らしてみたところ、いずれの用途でも非常に自然なサウンド。スピーカーそのものに極端なキャラクターが無いので、生楽器でも音作りがしやすい印象だ。また、ある程度の音量が必要なロック・バンドのモニター・スピーカーとしても十分に使えるだろう。

 

 サブベース的な効果音、エレクトロニックな金属音やSE、フィールド・レコーディング素材も立体的に再生され、このサイズのパワード・スピーカーに求めるサウンドを十分に実現している。まさに万能という感じだ。極めてシンプルな作りとサウンドが、どんな現場にもフィットしやすいと思うので、ほかの機材と併用したときの拡張性にも期待できる。

 

岡直人
【Profile】フリーランスとして活動するサウンド・エンジニア。君島大空、Tempalay、中村佳穂、ROTH BART BARONなどのライブ PAを手掛けるほか、舞台の音響や舞台音楽の制作もこなす。

 

YAMAHA DHR12M

オープン・プライス

(市場予想価格:73,700円前後/1台)

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SPECIFICATIONS
▪形式:2ウェイ・パワード・バスレフ型 ▪スピーカー構成:12インチ・コーン・ドライバー(低域)+1.75インチ・コンプレッション・ドライバー(高域) ▪内蔵クラスDアンプ出力:800W(低域)+200W(高域)/バイアンプ駆動 ▪最大音圧レベル:129dB SPL@1m ▪周波数特性:55Hz〜20kHz(−10dB) ▪指向性:90°(水平)×60°(垂直) ▪クロスオーバー周波数:1.8kHz ▪フロア・モニター・アングル:57° ▪外形寸法:500(W)×343(H)×454(D)mm ▪重量:16.5kg

製品情報

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www.snrec.jp