WESAUDIO NGTubeEQ レビュー:アナログのシグナル・パスとプラグインを兼ね備えた真空管ステレオEQ

WESAUDIO NGTubeEQ レビュー:アナログのシグナル・パスとプラグインを兼ね備えた真空管ステレオEQ

 ポーランド発のメーカーWESAUDIOから、真空管パッシブEQのNGTubeEQが登場しました。同社は、Beta76などの、伝統的アウトボードから着想を得た“クラシック・デザイン”と、コンピューターと接続してプラグインでの操作とリコールを可能にしたアウトボード=NG(New Generation)シリーズを展開する“モダン・デザイン”の2部門を主軸に製品開発を行っています。NGシリーズの本機は、フルアナログ4バンド真空管パッシブEQということで興味津々ですが、こだわりのトランスやMac/Windows対応のプラグイン機能も搭載されているとのこと。早速チェックしていきましょう。

22Hz〜28kHzをカバーした4バンドの真空管ステレオ・パッシブEQ

 NGTubeEQの音声信号が通る回路はすべてアナログで、最大入出力+26dBuと余裕あるヘッドルームを持っています。出力部にはCARNHILLトランスを採用し、パッシブEQの要、インダクターにはカスタム・メイドのものを使用。品質の確かさがうかがえます。フロント・パネルの中央部には、各種ボタンが配されており、上から、ステレオ使用の際に調整を同期させるパラメーター・リンク、DUAL、STEREO、 M/Sの動作モード選択、そしてバイパス・ボタン(完全バイパス)と入出力メーターやノブ操作時の数値を表示するLCD、プラグインなしで使う際のプリセット・メモリー(A/B/C)と続きます。一番下のPROP.Qボタンで、Proportional QとConstant Qの2つのQモードが選択可能。前者はAPIのEQに代表される仕様で、ゲインに応じてQ幅が変わり(増加で狭まっていく)、後者はゲイン設定に関係なく一貫した帯域幅を保持して増減します。このボタンを長押しすると、ゲイン・モードを±15dB(約0.25dBステップ)と±5dB(約0.1dBステップ)に切り替えられるので、ミックスやレコーディングでアグレッシブに使いたいときや、マスタリングで繊細に追い込みたい場合など、状況に合わせた使い分けが可能。従来のアナログ機器でしたら2機種に区別されてしまうと思いますが、デジタル・コントロールの大きな恩恵と言えるでしょう。

 左右のパッシブEQセクションは、上からGAIN、 FREQ、 Qの3つのツマミを4バンド分搭載。周波数ポイントは各ノブ12個選択可能となっており、LFからHFまで22Hz〜28kHzをカバーしています。GAINノブは1回押すとEQのオン/オフ、2回押すとゲイン値の+と−が反転、2秒押し続けると0dBにリセットされる仕様。Qノブは押すとベル・カーブとシェルビングを切り替え可能です。

 最下段には5つのノブがあり、両端がアクティブのハイパス/ローパス・フィルターで、オクターブ・スロープを12/24dBに切り替えできます。そして間には、THD、OUTPUT、IRON PADの3つのノブを配置。これらが同機最大の特長と言えるのですが、まずTHDノブはサチュレーションの分量を0〜100%まで調整可能で、トラックに温かみ、キャラクター、存在感を与えたいときに有用です。OUTPUTノブは、押すとGREENモード(電子バランス)とREDモード(真空管&トランス)を切り替えられるのもうれしいところ。そしてIRON PADは、REDモードでのみ使用可で、0〜15dBのパッシブ・アッテネータ回路を作動させます。

音に立体感を与えるREDモードとIRON PADで現代的な音作りが可能

 生バンド曲とトラック曲のミックス作業でプラグイン・コントロール機能も交えて使っていきます。まず2ミックスの音を通して、何もいじらずに聴いてみると、味付け具合はほとんどなく良好です。フィジカルにGAINノブでブーストとカットを試してみましたが、EQをかけた感じが分かりやすく、現行機ならではの繊細で緻密な音の粒立ちがありつつ、パッシブEQ特有のざっくり感も相まって心地良いサウンド。爽快で淡麗、明るいけど耳に痛くない印象です。さらにProportional Qモードを使ってみると、ゲインをぐんぐん上げてもオーバーEQにならず、攻め気になれます。瞬時にConstant Qモードに切り替えられるので、EQの使い方に幅が出せそうです。THDは、ノブを上げていくと音像がじんわりにじんてくる印象で、個人的に20%前後がツボでした。

 次にREDモードを試してみると、各音のエッジが立ち、余韻も聴こえやすくなったことで、音に立体感が出てきました。加えてIRON PADを使ってみると、アナログ・フェーダーの減衰と似た印象で、音量を下げて奥まってもよく聴こえています。少しだけエッジ感を押さえたい場合などに有用で、今風なLo-Fiサウンド(Lo-Fiだけどハイレゾ)が作れました。テープ・シミュレーターでは作れない質感です。また、思いっきりEQしてIRON PADで音量を整える使い方をしてみても、かっこいいサウンドが作れました。実にいろいろな音作りができそうです。GREENとREDモードのキャラ分けもはっきりしており、それを1台で使えるのは便利だと思います。

 プラグインはWESAUDIOのWebサイトでインストーラーを入手可能。コンピューターとの接続用にUSB端子とイーサーネット端子がパネルの裏に用意されているのですが、今回はUSB端子を使いました。

リア・パネル。左から電源端子、USB-A端子、ETHERNET端子、そしてOUTPUT(XLR)、INPUT(XLR)が2系統用意されている

リア・パネル。左から電源端子、USB-A端子、ETHERNET端子、そしてOUTPUT(XLR)、INPUT(XLR)が2系統用意されている

 GUIはシンプルで使いやすく、プラグイン使用中に本体をフィジカルに直接調整も可能です。

プラグイン・コントロール画面。下部はハードウェアのレイアウトを再現した表示になっており、直感的なコントロールを可能としている。そのため、ハードウェアとソフトウェアのスムーズな互換性を実現した。なおプラグインは、ステレオとモノラルの2種類が用意されている

プラグイン・コントロール画面。下部はハードウェアのレイアウトを再現した表示になっており、直感的なコントロールを可能としている。そのため、ハードウェアとソフトウェアのスムーズな互換性を実現した。なおプラグインは、ステレオとモノラルの2種類が用意されている

 オートメーションも全パラメーターが対象になり、ここぞというときには本体ノブからでも書き込めるのも特筆すべきところ。プリセットもたくさんではありませんが、参考になるものが幾つか用意されています。

 NGTubeEQは、開発者が提言しているように、サウンドと機能共にビンテージとモダンの中間を目指した印象通りでした。表現の幅が広く、2ミックスはもちろん、ピアノやドラム、ベース、ギター、ボーカルだけでなく、打ち込み音源に対しても有効で、個人的には空気感、質感を生かしたい2ミックスやステム・トラックに使うと一番効果を発揮しそうに思います。パッシブEQなのでどうしても値は張ってしまいますが、それに見合ったサウンド・クオリティと機能を備えており、商業スタジオでも個人スタジオでも活躍しそうですし、プラグインでコントロールすることで、幅広いサウンドに対応できるのは、大きな武器になると思います。ぜひ一度試していただきたい機材です。

 

福田聡
【Profile】レコーディング/ミキシング・エンジニア。ファンクを礎に、グルーブ重視のサウンドを主に手掛ける。最近は.ENDRECHERI.、SANABAGUN.、SING LIKE TALKING、韻シストなど。

 

 

 

WESAUDIO NGTubeEQ

932,800円

WESAUDIO NGTubeEQ

SPECIFICATIONS
▪周波数特性(GREEN):5Hz〜100kHz(−0.5dB) ▪周波数特性(RED):20Hz〜25kHz(0.5dB) ▪ダイナミック・レンジ:122dB ▪ノイズ:−93dBu ▪クロストーク:−120dB(50Hz)、−100dB(20kHz) ▪インプット・レベル:+28dBu ▪アウトプット・レベル:+27dBu ▪外形寸法:483(W)×135(H)×252(D)mm ▪重量:8.8kg

REQUIREMENTS
▪プラグイン・フォーマット:VST2/3、AU、AAX

製品情報

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