今回はWAVESが発売したボーカル向けのピッチ/フォルマント・コントロール用プラグイン、Vocal Benderをレビューします。Vocal Benderは、歌の質感やピッチを積極的に加工していくためのAAX/AU/VST3/SoundGridプラグイン。Mac/Windows対応です。同様のエフェクトは随分と前からあり、Perfumeの登場で2007〜08年辺りに大ヒットしたわけですが、2021年仕様のVocal Benderはどういった部分が最先端なのか? そこをケンカイ的にアナライズしていきます。なお、今回は友人に協力してもらいつつ長時間試してみてのレビューとなります。
音質を損なわず劇的な変化を期待できる
歌だけでなくシンセの単音などにも有効
Vocal Benderの特徴は、何よりもシンプルなユーザー・インターフェース! メインとなるのはピッチとフォルマントを調整する2つの大きなノブで、あとは画面下部でモジュレーションを操作するくらいなので、直感的に音を作るのが好きなケンカイにとっても使いやすい印象です。早速触ってみると、ピッチやフォルマントを派手に上げ下げしても、ボーカリストが最初からそのキーで歌っていたのか?と思うくらいシームレスな変化で、“曲のキーを変えたので仮歌のキーもそれに合わせて変更したい”といったときでも、初めからそのキーで歌ったように自然と変化させることができるでしょう。
もう一つの特徴は、LFO/SEQの項目。LFOはシンセサイザーのLFOのようにRATEノブで周期を設定して、ピッチをグニョグニョ上げ下げすることができるモジュレーションです。これもまた変化がすごくシームレスなので、ボーカルの一部分で使えば“人工ビブラート”を付加することさえできるかもしれません。とはいえ周期を速めに設定すれば、この世には存在しない不思議な信号のような声も生成できると思います。SEQはいわゆるステップ・シーケンサーで、設定した各ステップでピッチを変化させることが可能。こちらの方が派手な効果を期待できます。またLFO/SEQのどちらにもSMOOTHというパラメーターがあるので、変化をより緩やかに、自然にさせることができます。
何よりもの魅力は“音質を損なわずに派手な変化を期待できること”。MIXノブをいじることでドライ/ウェットのバランスを変えられるので、うっすらとコーラス効果などを与えることもできます。筆者としては、ボーカルに細かい加工を施すというよりは、シンセサイザーの単音やドラムのFX系サンプルをグニョングニョンさせることで、新しいフレーズ生成器として使う、という方法も可能なのが面白いな!と思いました。ピアノやギターなどにかけることで、楽器用エフェクトとしても立派に活躍すると思われます。ちなみに、和音より単音にかけるほうが効果的だと感じました。
かけ録りに使えるほど低レイテンシー
リアルタイムでも非常に自然な効果が得られる
Vocal Benderは、ネイティブ環境でかけ録り用のエフェクトとしても使えるほどのレイテンシーの低さが特徴です。実際にボーカルへのかけ録りを試してみたところ、完全にリアルタイムで声が変化するため、コンピューター自体の動作が安定していればライブ用エフェクトとしても使えるのではないかと思いました。しかも、やはりめちゃくちゃ自然なかかり具合で、音質の劣化があまりに少なくて驚きです。半音4つ分くらいキーを上げても気付かれないかもしれません。
フォルマントをいじれば、ジェンダー・コントロール的なニュアンスを付加することもできるように思います。パラメーターを派手に変化させても、今までのボコーダーやピッチ・コレクト的な効果ではなく、声がシンプルに変わっていくのは、ほかに無い魅力ではないでしょうか。個人的には、ANTARES Auto-Tuneや従来のピッチ・シフト系プラグインと併用することで、自然な変化/あからさまにエレクトロニックな効果の2つを使い分けするのがお勧めです。またロング・トーンの単音素材に使用し、派手にかけることで自分独自のサウンド・エフェクトを作ることもできます。
WAVESの音声加工の最先端技術が結集したVocal Bender。精度の高いボーカル・エディットをしたい方々にもぜひ、試してみてほしい逸品です!
ケンカイヨシ(Loyly Lewis)
【Profile】音楽プロデューサー/アレンジャー。ぼくのりりっくのぼうよみとの出会いをきっかけにJポップへ活躍の場を広げる。香取慎吾と草彅剛のユニット=SingTuyoなどの作品も手掛けている。
WAVES Vocal Bender
19,800円
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13.6/10.14.6/10.15.7/11.2.1、INTEL Core I5/I7/I9/Xeon
▪Windows:Windows 10(64ビット版/バージョン2004以上)、INTEL Core I5/I7/I9/XeonもしくはAMDのクアッド・コアCPU
▪共通:8GBのRAM、8GBのディスク空き容量、解像度1,024×768pix以上のディスプレイ(1,280×1,024または1,600×1,024pixを推奨)