WARM AUDIO WA-44 レビュー:1930年代に発売の名機RCA 44-BXを元に設計したリボン・マイク

WARM AUDIO WA-44 レビュー:1930年代に発売の名機RCA 44-BXを元に設計したリボン・マイク

 米国のメーカーであるWARM AUDIOは、ビンテージ・マイクに範を取った製品を比較的リーズナブルな価格で数多く発売していて、好評を得ているものもたくさんあります。このたび発売されたWA-44は、これまでリリースしてきた製品群からさらに時代をさかのぼり、オリジナルは1930年代に発売されたリボン・マイクの名機RCA 44-BXです。どのような製品なのか、早速見ていきましょう。

日本で生産された純度99.1%のアルミ製リボン

 外箱を開封すると、ジッパーで開閉するソフト・ケースの内部に、本体を縦にしっかりと固定できるようにマイクをかたどった発泡スチロールがあしらわれていて、さらに袋状のソフト・ケースに本体が収められています。リボン・マイクは構造上、繊細な取り扱いが要求され、基本的には垂直にしておく必要があります。本体の重量が重いので、ケースには強度を保ちつつ軽量化しようとした工夫が感じられ、保管、運搬どちらに際しても便利そうな作りとなっています。

 本体サイズは、120(W)×320(H)×70(D)mm、重量は2.8kgあり、オリジナルと同様に相当な存在感があります。セッティングの際には、マイクの重さでスタンドの角度などが意図せず変わったりしないように、いつも以上に注意が必要です。しっかりした作りのホルダーにマイク本体が取り付けられており、RCA 44-BXのように本体背面の下部から背後に向かうように直付けされているケーブルには、4重シールドのGOTHAM製のものを使用。サウンドの心臓部とも言えるリボンは、長さ60mm、厚さ2.5μm、純度99.1%のアルミ製で、日本製の特注とのことです。リボンを挟む磁石は、オリジナルではアルニコ磁石(アルミニウム、ニッケル、コバルト)が使用されていましたが、本機では効率が良く強力で耐久性のあるネオジム磁石が採用されており、現代的にアップデートされています。このほかにも、カスタム・メイドのアメリカ製CINEMAG出力トランスで駆動させており、こだわりを感じる作りです。

 コントロール類は何も備えておらず、周波数特性は20Hz~20kHz、インピーダンスは270Ω。リボン・マイクなので吹かれには注意が必要ですが、最大SPLは140dBなので大音量に対しても安心して使えます。

豊かな低域はオリジナルをほうふつさせる

 では実際の音を聴いてみましょう。まずは自宅にて、WA-44をRME Babyface Pro FSに立ち上げて、ピアノ弾き語り曲の女性ボーカルを録ってみました。リボン・マイクなのでコンデンサー・マイクと比べると感度が低いとはいえ、オーディオ・インターフェースのマイクプリだけでも十分なゲインを得られました。さらに今回は、26dB固定ゲインのインライン・アクティブ・マイク・プリアンプのWARM AUDIO Warm Lifterも一緒に試すことができたので、マイクとオーディオ・インターフェースの間に挟んでファンタム電源を送り、ゲインが同じになるようにオーディオ・インターフェース側のゲインは下げています。

インライン・アクティブ・マイク・プリアンプ、WARM AUDIO Warm Lifter(23,800円)。低出力のダイナミック・マイクやリボン・マイク用に設計されており、出力ゲインは26dB固定。入力インピーダンスは2.4kΩで、100Hzハイパス・フィルターを搭載する

インライン・アクティブ・マイク・プリアンプ、WARM AUDIO Warm Lifter(23,800円)。低出力のダイナミック・マイクやリボン・マイク用に設計されており、出力ゲインは26dB固定。入力インピーダンスは2.4kΩで、100Hzハイパス・フィルターを搭載する

 同社からWA-44と同じタイミングで発売されている製品だけあって、このマイクに最適化されている印象で、音の解像度が上がって、焦点が合う感じが好感触です。ちなみに、Warm Lifterには100Hzのローカットと、高域を3kHzからブーストするスイッチが付いていますが、これらはオフにして使用しました。

 一聴してハイクオリティなリボン・マイクのサウンドで、豊かな低域はオリジナルをほうふつさせます。中域から高域にかけては密度感があって滑らかで、繊細な表現やニュアンスもきっちり録れました。オケがピアノだけとはいえ、現代のポップスに慣れた耳だと高域に物足りなさを感じるので、DAWのEQで上げたところ、かかりが良く、試しにかなりブーストしても音像が細くならず、シャラシャラした嫌な感じもなく奇麗に倍音が出てきます。リップ・ノイズの帯域があまり目立たないのも良いですね。近接効果が如実に出るため、ボーカリストとマイクの距離はシビアに設定する必要がありますが、はまると非常に存在感のある音像になります。また、双指向性のため、一般的なカーディオイドのマイクと比べると背面からの反射の影響を受けるので、設置場所にも注意が必要です。

 次にスタジオでSSL SL4048G+コンソールにWA-44を立ち上げて、ロック・ドラムのオーバーヘッドにフロント側から立ててみました。コンプをかけなくてもまとまりがあり、スネアやハットがカチカチと細く硬い感じにならず、リズムを点ではなく面として感じられます。コンプをかけていくと迫力が出てきて、オンマイクと混ぜるとキット全体の接着剤のような効果も発揮してくれました。

 続いてピアノのオフマイクにも試してみると、深みや温かさが付加され、EQやコンプ、リバーブなどとはまた違ったアプローチで音像を調整できます。ペアで用意してオンマイクに使ってみたいとも思いました。また、今回は試す機会がありませんでしたが、管楽器や弦楽器にオン/オフ問わず使ってみるのも良さそうです。

 この価格で、RCA 44-BXにそん色がないサウンドを実現しているのは素直にすごいと思います。オリジナルは古い製品ということもあって、良い個体に巡り合う機会が珍しいため、探している方は本機を選択肢に入れるのも良いでしょう。また、コンデンサー・マイクとは全く違う音像感なので、オリジナリティを求めてリボン・マイクにトライしてみようと思っている方にもお薦めです。

 

山崎寛晃
【Profile】HAL STUDIOを拠点とするエンジニア。Superfly、坂本真綾、Little Glee Monster、古内東子、ART-SCHOOL、SPANOVAなどを手掛け、曲想に合ったレコーディングに定評がある。

 

 

 

WARM AUDIO WA-44

158,000円

WARM AUDIO WA-44

SPECIFICATIONS
▪形式:リボン ▪指向性:双指向性 ▪周波数特性:20Hz〜20kHz (±12dB) ▪出力インピーダンス:270Ω ▪最大SPL:140dB ▪外形寸法:120(W)×320(H)×70(D)mm ▪重量:2.8kg ▪付属アクセサリー:3/8インチ・マイク・スタンド・アダプター、刺繍入りマイク・ソックス、刺繍入りマイク・ケース

製品情報

WARM AUDIO WA-44

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