「VIENNA SYMPHONIC LIBRARY Synchron Strings Pro」製品レビュー:4種類のマイク・ポジションで収録されたストリングス・アンサンブル音源

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 オーケストラ音源の老舗、VIENNA SYMPHONIC LIBRARY(以下VSL)から、ストリングス・アンサンブル音源のSynchron Strings Proが発売されました。VSLは、高品質なサンプル・ライブラリーを開発し続けてきており、ベテランの作曲家/アレンジャーからも高い信頼を得てきました。筆者が昔からあこがれてきたメーカーでもあるので期待に胸がふくらみます……。早速見ていきましょう!

ウィーンの巨大スタジオで録音された
11種類のアーティキュレーション・パッチを収録

 Synchron Strings Proは、VSLのストリングス音源Synchron Strings 1に収録された幾つかのサンプルに、新しく収録した音源などを加えてアップデートしたものです。そのほかにもアーティキュレーションのパッチが追加されたことで、表現力が向上し、ダイナミック・レイヤーを省略してコンピューターへの負荷を抑えられるように設計されています。

 

 動作環境はOS X 10.10 Yosemite以上、Windows 8の64ビット以上で、AAX/AU/VSTに対応。専用ソフトのSynchron Playerを付属し、別売りのVienna KeyまたはSTEINBERG USB-eLicenserで認証します。

 

 そして音源は、映画CM音楽などのレコーディングにも使用されている音楽スタジオ=Synchron Stage Viennaにウィーンの演奏家が集結して収録。クローズ・マイク(モノラル)、奏者前方ミッドマイク(ステレオ)、ルーム・アンビエンス・マイク×2(デッカ・ツリーのステレオ/センター)の4種類のマイク・ポジションを使用できます。エクステンデッド・ライブラリー(別売り)を購入することで、サラウンド・マイクを含む4種類のマイクを追加で使うことも可能。着座位置のままの音が収録されているため、同社のコンボリューション・リバーブMIRX Teldex Scoring Stageなどを使って調整していた定位、奥行きなどの処理が省けますね。

 

 収録内容は、1stバイオリン×14、2ndバイオリン×10、ビオラ×8、チェロ×8、コントラバス×6という編成で、“Short notes” “Long notes” “Legato” “Legato agile” “Portament” “Dynamics” “Tremolo” “Trills” “Pizzicato” “Harmonics” “Ponticello”という11種類の奏法を用意しています。

 

MIXタブでミックス・バランスの調整が可能
ポルタメントはDAWに準ずるテンポで再生

 アーティキュレーションのパッチは階層ごとに分かりやすく整理されているので、目的のサンプルを素早く見付けることができます。サウンドはどれも繊細で、ウェットな響きをしているのが音楽的です。ビブラートのかかり具合が程良いのも好印象でした。最初に音色を読み込んだ際に、高音のサラサラした成分がブーストされているのが気になりましたが、MIXタブのミキサーに搭載されたEQをオフにすることで、録り音に近い状態で聴くことができました。ほかにもMIXタブでは、マイク・ポジションごとにEQ、ディレイ、リバーブ、パン、ボリュームなどを操作して、ミックス・バランスを調整することができます。

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Mixタブでは複数のマイク・ポジションのミックス・バランスを調整する。標準では、クローズ・マイク(モノラル)、奏者前方ミッドマイク(ステレオ)、ルーム・アンビエンス・マイク×2(デッカ・ツリーのステレオ/センター)の4種類をブレンド可能で、エクステンデッド・ライブラリー(別売り)を購入するとサラウンド・マイクがここに加わる

 同社が最も得意とするレガート奏法の技術は、表現力にさらに磨きがかかっていました。ポルタメント奏法ではDAW上のBPMに応じてタイム・ストレッチが働くので、よりわざとらしさや嫌らしさを排するように工夫されていると思います。

 

 個人的にうれしかったのは、トレモロ奏法のカテゴリーの中に“Measured trem”という、テンポに即したパッチが用意されていたこと。120/130/140/160BPMのみですが、さすがクラシック音楽の聖地で生まれた高品位な製品だなと思いました。オクターブ演奏は、1stバイオリン+2ndバイオリン、2ndバイオリン+ビオラ、ビオラ+チェロ、チェロ+コントラバス、といったコンビで収録されています。オーケストレーションやストリングス・アレンジを習熟した方にとっては重宝するパッチだと思います。

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オクターブ演奏のプリセットを選んだ際に表示されるパッチの階層。Instrumentsでコンビネーションを選び、アーティキュレーション、タイプ、アタックなどを設定する

 昨今のストリングス音源の中には、一音弾いただけで情感たっぷりなビブラートがかかる派手なものもたくさんあり、そういった音源を使うと大した曲でなくても素晴らしく聴こえる反面、その特徴に曲が引っ張られてしまうこともあります。しかしVSLの音源は、作曲家が頭に描いたスコアをより正確に再現することを目指している音源なのだと感じました。

 

 ところで、VSLの公式SNSでは、製品ができるまでの様子をのぞくことができます。筆者はこれを見て、ますますSynchron Strings Proに愛着が湧きました。今後もVSLに注目していきたいです。

 

牧戸太郎

【Profile】三重県出身の作編曲家。東京音楽大学を卒業後に作編曲家として活動を開始し、ドラマや映画などの劇伴のほか、Hey!Say!JUMPや竹内まりや、King & Princeなどの編曲を手掛けている。

 

VIENNA SYMPHONIC LIBRARY Synchron Strings Pro

55,600円

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REQUIREMENTS
▪Mac:OS X 10.10以降、AAX/AU/VST対応のDAW
▪Windows:Windows 8以降(64ビット)、AAX/VST対応のDAW
▪共通:INTEL Core I7/I9/Xeon以上のプロセッサー、122.7GB以上のハード・ディスク空き容量(エクステンデッド・ライブラリーを含む場合は237.8GB以上が必要、SSD使用を推奨)、16GBのRAM(32GB以上を推奨)

 

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