UNIVERSAL AUDIO UA Bock 167 レビュー:多様な指向性選択とモード切り替えも可能な真空管コンデンサー・マイク

UNIVERSAL AUDIO UA Bock 167 レビュー:多様な指向性選択とモード切り替えも可能な真空管コンデンサー・マイク

 UA Bockシリーズは、これまでにSOUNDELUXや自身のブランドBOCK AUDIOでマイク・デザインを手掛けてきたデイヴィッド・ボック氏が、アメリカ・カリフォルニア州サンタクルーズのUAカスタム・ショップで手作りしたもの。氏が手掛けたビンテージ・マイクの復刻には定評があり、過去に開発したマイクもいまだに市場で高値取引されています。筆者もSOUNDELUX U99やBOCK AUDIO 47などを使ったことがありますが、ABテストしてオリジナルより復刻機を選ぶクライアントも居たくらい高評価でした。今回レビューするUA Bock 167はNEUMANN U 67にインスパイアされたモデルです。どのような仕上がりになっているか楽しみですね。早速チェックしていきましょう。

LUNDAHL製トランスとK67カプセルを採用

 ビンテージをオリジナル状態に戻せる修復技術を持っていると言われるデイヴィッド・ボック氏ですが、本機は完全なクローンではなく、現代的な要素を取り入れた多機能な設計になっています。カプセルはK67、トランスにはLUNDAHL、そして真空管はNOS EF732といった高級な部品を惜しみなく使用し、ハンド・ワイアリングによって組み立てられた真空管コンデンサー・マイクです。

 付属の専用パワー・サプライには、指向性パターンを変更できるツマミを搭載しており、オムニ、カーディオイド、フィギュア8の各指向性パターンを連続可変で設定可能。また、本体のスイッチで−10dBのPAD、fat/normalのキャラクター切り替えと、高域コントロールがカット(−1.5dB@5kHz)、カット(−3dB@10kHz)、フラット、ブースト(+2dB@10kHz)の4つから選択できるので、多彩な音作りに対応できそうです。

本体背面の下部には3つのスイッチを用意。左から、PAD(−10dB)、HIGH FREQUENCY(カット:−1.5dB@5kHz、カット:−3dB@10kHz、フラット、ブースト:+2dB@10kHz)、MODE(fatとnormの切り替え)の各スイッチ。fatにすると10~400Hzの低域がブーストされる

本体背面の下部には3つのスイッチを用意。左から、PAD(−10dB)、HIGH FREQUENCY(カット:−1.5dB@5kHz、カット:−3dB@10kHz、フラット、ブースト:+2dB@10kHz)、MODE(fatとnormの切り替え)の各スイッチ。fatにすると10~400Hzの低域がブーストされる

 各種スペックも確認してみると、周波数特性が10Hz~18kHz(±2dB)、最大SPL(1%THD)が118dB、ダイナミック・レンジが99dB、SN比が75dB、本体寸法が50(W)×228(H)mm、本体重量が716gとなっています。付属品は、ショック・マウント、100V仕様の専用パワー・サプライ、6ピンXLRケーブル、電源ケーブル、キャリング・ケース。マイク本体は木箱に収められていました。

fatスイッチでふくよかさが増し現代的な音色に

 今回は男性ボーカルとアコギで音質をチェックしていきます。両者とも、一聴して感じたのが出音の派手さ。かなり倍音が多めで、U 67に求めているザラつき、ザクッとした食いつき感を全面に押し出している印象です。かと言って、ピーキーさはなくキンキンした部分は強調されずに、クリーミーにまとまっています。ビンテージに比べると低音がややスッキリしていて、ボワボワした箱鳴りや太さが控えめだと感じました。ボーカルは胸で響く低音、アコギは箱っぽさが軽減します。この辺りは、むしろEQで整えるケースが多いと思うので、最初からこれくらいの音で録れるほうが便利だと思いました。女性ボーカルの場合は、新しいマイクでは耳に痛くなりがちですが、自然にピークを抑えられると予想されます。

 次にfatスイッチを入れてボーカルを試してみます。このスイッチを入れると10Hz〜400Hzまでの低音がブーストされ、ふくよかさが増します。もともと倍音が多いせいなのか、低音が出てきてもモヤッとしないで、歌の聴かせたいところだけが増える印象でした。ニュアンスとしては、U 67を古いトランジスターのマイクプリなどに通して、少し派手にして低音を整えた音。これはビンテージ・マイクを使った後に、EQなどを通して張り付き感のあるサウンドに加工した現代的な音色が、最初から得られるとイメージしてもらうと分かりやすいかと思います。恐らく宅録で、オーディオI/Oのクリーン系プリアンプに接続した場合でも、欲しいザラつき、ビンテージ感を手に入れることができるでしょう。シグナル・チェインのすべてをビンテージ機でそろえるのは現実的ではないですが、このマイクなら現代的な機材とセットで使っても、ビンテージ感を手に入れることができそうですね。

 ローカットではなく、高域のコントロールがついているのは珍しいですが、これはマイク自体が倍音多めのキャラクターなので、高域を増減させたほうがバリエーションが増えるという考えなのかもしれません。10kHzをブーストしてみると、ウィスパー向け、エアリーな女性ボーカル向けのサウンドになり、アコギの抜けもかなり良くなります。逆に10kHzをカットすると、少し落ち着いて自分が知っているU 67に近づいた感じがしました。5kHzのカットでは、さらにマットな質感になって、古いNEUMANN U 87に近い雰囲気になります。変化は自然なので、どれも使えるセッティングでした。

 また、本機ではオリジナルと違って指向性を連続可変できます。基本性能が高いので、どの指向性でも破綻がなく、カーディオイドにして軸を外したり、側面から歌ったりしても自然な音で録音できました。カーディオイドから少しオムニ側にずらして使うと音像が広くなり、またフィギュア8側に動かすとタイトになるので、さまざまな状況に合わせて積極的な音作りに使えると思います。

 本機はビンテージそのものではなく、拡張されて使いやすくなったビンテージ風のモダン・マイクでした。懐古趣味ではなく、ビンテージ・マイクの良さを生かしつつモダンな音楽を作りたいと思っている人には特にお薦め。同時発売のUA Bock 251は、TELEFUNKEN Ela M 251Eにインスパイアされたフラッグシップ・モデルで、音抜けが素晴らしく、興味がある方はそちらもぜひチェックしてみてください。

UA Bock 167と同時発売のUA Bock 251。TELEFUNKEN Ela M 251Eにインスパイアされたラージ・ダイアフラム真空管コンデンサー・マイクで、価格は990,000円

UA Bock 167と同時発売のUA Bock 251。TELEFUNKEN Ela M 251Eにインスパイアされたラージ・ダイアフラム真空管コンデンサー・マイクで、価格は990,000円

 

中村公輔
【Profile】neinaの一員としてドイツの名門Mille Plateauxなどから作品発表。以降KangarooPawとしてソロ活動を行い、近年は折坂悠太、宇宙ネコ子、大石晴子らのエンジニアリングで知られる。

 

 

 

UNIVERSAL AUDIO UA Bock 167

495,000円

UNIVERSAL AUDIO UA Bock 167

SPECIFICATIONS
▪形式:真空管コンデンサー ▪指向性:オムニ~カーディオイド~フィギュア8の連続可変式 ▪周波数特性:10Hz〜18kHz(±2dB) ▪PAD:−10dB ▪最大SPL(1%THD):118dB ▪感度:−29dB(33mV) ref 1V@1Pa, 1kHz ▪出力インピーダンス:200Ω ▪ダイナミック・レンジ:99dB ▪SN比:75dB ▪外形寸法:50(W)×228(H)mm ▪重量:716g

製品情報

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