UNIVERSAL AUDIO SD-3 / SD-5 / SD-7 レビュー:Hemisphereプラグインによるモデリング・マイクの新シリーズ3機種

UNIVERSAL AUDIO SD-3/SD-5/SD-7 レビュー:Hemisphereプラグインによるモデリング・マイクの新シリーズ3機種

 今回はUNIVERSAL AUDIOのマイクに新しく加わった、ダイナミック・マイクのSD-3、SD-5、SD-7の3本をレビューしていきます。これらは先に発売されているコンデンサー・マイクのSP-1、SC-1、ダイナミック・マイクのSD-1と同様の、Hemisphereマイク・モデリング・プラグインとの組み合わせで使うシリーズとして新たに追加されました。

UADプラグインのDSPシステムはもちろん、ネイティブ環境でも使用可能なHemisphere

 Hemisphere上では、使用しているマイクの種類によりモデリング先として選択できるマイクの種類が違ってくるのですが、先に発売されているSP-1、SC-1は各種コンデンサー・マイク、SD-1はSHURE SM7やRCA 77DXなどをモデリングできるタイプでした。今回の3モデルはSHURE SM57、SENNHEISER MD 421、AKG D112など、ドラムやギター・アンプに超スタンダードとも言えるマイクをモデリングできるタイプとなっています。

 HemisphereはUADプラグインですので、同社のApolloオーディオ・インターフェースと併用することで、マイクプリなどのプラグインと同様に、レコーディングのチェインに組み込んでかけ録りすることが可能になります。またネイティブ対応もしているので、Apollo以外のインターフェースでの作業時は、モニターにインサートして録音時にもモデリングした音をチェックできます。個人的にはミックスしながらより楽曲にフィットするマイク・タイプを探したいので、モニター側での使用が合っていると思いました。

 レコーディング・スタジオなどでのAVID Pro Tools HDX環境では、ハイブリッド・エンジンであればモニター使用もできますが、レイテンシーの問題も発生してくるので、基本的にはApolloとの併用、またはネイティブ環境での使用になると思います。モデリングなしの音でいったん録音しておいて、後でマイク・タイプを選ぶという使い方であれば、HDX環境でも問題ありません。

 いったんマイクの外観や仕様を見てみたいと思います。有名メーカーの新製品らしく洗練された形のケースに入っていて、マイク本体も白のシンプルなデザインですが、現代の工業製品的な雰囲気もあり、いかにも最新のマイクという印象です。マイク自体はフラットなキャンバスで、モデリングによって好きな色を付けていくというコンセプトに合わせた理念なのだろうと感じました。またサイズ的には特別コンパクトではないですが、実際セッティングしてみて、設置上の使いにくさは全く感じませんでした。

 今回レビューする3本はすべてダイナミック・マイクですが、ある程度用途が想定された上で設計されており、それぞれ仕様が違っています。指向性は、SD-3がカーディオイド、SD-5がスーパーカーディオイド、SD-7がハイパーカーディオイドとなっており、それぞれ周波数レンジ、入力感度、出力インピーダンスも異なっています。お薦めの録音ソースも示されているので、あまり詳しくない人は、それを参考にしながらマイク・モデルを試してみるのがよいでしょう。

 個人的に3種の配置や使い分けは、モデリング先のマイクに脳内で変換して考えることができました。ある程度経験のある人はその考え方となるでしょう。今回はスタンダードな選択でテストしましたが、もちろんお薦めソースに入っていないものに使用するのもよいですし、むしろマイク・モデルを変えていく中で思いがけない発見があると思うので、どんどんトライしてみるのが面白いのではないかと思います。

 Hemisphereプラグイン上には、共通で位相の反転スイッチ、ローカット・フィルター(マイクにフィルター機能が付いているものはモデリング、ないものは60/100/200Hzの3ポイント)、マイクの近接効果をモデリングしたProximityコントロール、カプセルの軸をソースからずらしたときの周波数特性の変化をモデリングしたAxisコントロールが用意されています。ProximityおよびAxisに関しては、マイク・モデルごとの効果の違いもしっかりモデリングされていて、これは周波数特性以外にマイクの個性を示す事項をうまく調整項目として組み込んでいると思います。

Hemisphereプラグイン画面。下部には、左から位相反転スイッチ、Filter、近接効果をモデリングしたProximity、周波数特性の変化をモデリングしたAxisのノブ、Powerスイッチが備えられており、理想のサウンドに調整できるようになっている

Hemisphereプラグイン画面。下部には、左から位相反転スイッチ、Filter、近接効果をモデリングしたProximity、周波数特性の変化をモデリングしたAxisのノブ、Powerスイッチが備えられており、理想のサウンドに調整できるようになっている

各マイクのモデリングの機種は5種類 実機のキャラクターを忠実に再現

 さて、ここからは実際のテストをした上での音の印象や、モデリング・マイクの種類を含めたプラグインの操作感などについて書いていきたいと思います。

 メインのテストはドラム・レコーディングです。スネアにSD-3、バス・ドラムにSD-5、タムにSD-7という配置でテストしました(マイクプリはNEVE 5315コンソールで統一)。3機種に共通してモデリングなしの状態の音の印象は、予想通りですがクリーンでフラット。モデリング先になっている各種マイクの印象に比べると、全体的に低〜中低域はスッキリして重心はやや高めになる感じです。恐らくモデリングが前提であり、この音で使うことをそこまで想定してはいないと思いますが、アタックなどを非常に端正に捉えてくれる部分もあるので、楽曲に合えばモデリングなしで使用してみるのもよいでしょう。

 モデリング先のマイクをまとめてみます。それぞれ5種類用意されており、SD-3はSHURE SM57、545SD、SENNHEISER E604、MD 409、AUDIX D-4。

SD-3のモデリング先のマイク選択画面。SHURE SM57、545SD、SENNHEISER E604、MD409、AUDIX D-4をそれぞれモデリングしている

SD-3のモデリング先のマイク選択画面。SHURE SM57、545SD、SENNHEISER E604、MD409、AUDIX D-4をそれぞれモデリングしている

 SD-5はAKG D12、D112、SHURE Beta 52A、AUDIX D-6、SOLOMON DESIGN Lofreqと思われるサブキック。

SD-5のモデリング先のマイク選択画面。AKG D12、D112、SHURE Beta 52、AUDIX D-6のほか、SOLOMON DESIGN Lofreqと思われるサブキックが選択できる

SD-5のモデリング先のマイク選択画面。AKG D12、D112、SHURE Beta 52、AUDIX D-6のほか、SOLOMON DESIGN Lofreqと思われるサブキックが選択できる

 SD-7はSENNHEISER MD 421の白および黒、MD 409、MD 441、リボン・マイクのBEYERDYNAMIC M160となっています。

SD-7のモデリング先のマイク選択画面。SENNHEISER MD 421の白および黒、MD 409、MD 441、BEYERDYNAMIC M160が選択できる

SD-7のモデリング先のマイク選択画面。SENNHEISER MD 421の白および黒、MD 409、MD 441、BEYERDYNAMIC M160が選択できる

 録音したソースにそれぞれのモデリングを適用してみたところ、それぞれのキャラクターがしっかり再現されており、5つのハッキリした選択肢を与えてくれます。

 まずバス・ドラムにセットしたSD-5から確認していきましょう。個人的に使い慣れた機種を元にしたDN-112やDN-52は記憶通りの音がします。録音したトラックを複製して、片方にDN-SUBを適用してアタックのクリアなDN-6と組み合わせてみたのも良い結果となりました。最終的にプリセットの“SD-5 Metal Kick”を呼び出したところ、全体のバランスにうまくはまったので、そこから少しProximityの設定をプラス方向に変更して採用しました。このようにマイク・モデルのセレクトからパラメーター設定までを含めたプリセットが楽器や音楽ジャンルの名前で幾つか用意されており、そこを参考にして選ぶのもよいと思います。

 次にスネアのSD-7。SM57のマイク・モデルDN-57は、オリジナル通りの音がしました。スネアのトーンは、ジャンルを問わず非常に重要ですが、普段はあまり試さずにオーソドックスなもので進めてしまうことがあるので、SD-7で録音しておいて、あとで楽曲に合わせてマイクを選べば、より良いものが見つかるのかもしれないと思いました。ボトム・マイクも、チューニングやプレイ・スタイルによって適切なマイクが違うことがあるので、とりあえず録っておけば、あとでじっくり考えられるというアドバンテージになります。

 タムに使用したSD-7は、DN-421と比較すると、DN-409NやDN-441では重心感が良く、しっかり差別化されています。M160のマイク・モデルRB-160はリボン・マイクの質感がかなりよく再現されています。個人的にお気に入りのマイクなのですが、ハイハットなどのシンバル、またドラム以外の楽器に使ってもとても良い音がするので、モデリング先の選択肢に入っているのは注目要素だと思いました。最終的にコンデンサー・マイクのSP-1、SC-1と組み合わせてこのシリーズのマイクのみでドラム全体を録音し、後でHemisphere上でモデリングを選んでいろいろ調整してみたところ、非常に良い録り音の結果になりました。

 なお、オリジナルのSM57やMD 421との比較も行いましたが、基本的にトーンはかなり近くなります。当然個体差もあるので微妙な違いはあるものの、前述のProximityとAxisを使って非常にナチュラルにトーンをコントロールしていくことが可能なので、それらの調整でかなり近づけられました。これらはさすがのモデリング品質というか、EQで施す処理とは感覚が違って、本当に配置を調整しているような自然な変化が得られます。生楽器のミックスにおいては、EQなどの処理よりも、むしろ素材のナチュラルさを保持しながらトーンを調整できる、とても有効な処理になってくると感じました。もちろん実際の作業においては、オリジナル・モデルに似せることを目指すわけでもありませんし、単純にトーン・コントロールだと思って楽曲に合うように調整するという使い方で問題ないでしょう。全体的にとても分かりやすいと思います。

ミックスのタイミングでもパラメーター設定による細部の調整が可能

 次にダイナミック・マイクの使用が多いギター・アンプ録音もテストしてみました。こちらは全タイプ録音して、全モデリングを聴き比べてみましたが、しっかり15モデル分の個性が出る結果でした。例えば、カッティングのエレキギターにDN-421Sを選択してみたところ、MD 421で特徴的なS(Speech)Filterを最も強い3に設定して軽さを出し、Proximityは楽曲のグルーヴを聴きながらちょうど良いところを探し+1に設定。またアタックが少し耳に痛かったので、Axisを1目盛り分ずらしてなじませました。

SD-7を使い、エレキギターのカッティング演奏をアンプで録音。DN-421Sのマイク・モデリングを選択し、Filterを3、Proximityを+1、Axisを1目盛りの辺りに設定して音作りをした

SD-7を使い、エレキギターのカッティング演奏をアンプで録音。DN-421Sのマイク・モデリングを選択し、Filterを3、Proximityを+1、Axisを1目盛りの辺りに設定して音作りをした

 このような処理を実際に録音しながらセッティング変更して決め込んでいくのはかなり時間がかかる上、マイクのフィルターを最大にするような思い切った処理はどうしても躊躇して先延ばしにしてしまったりもするものです。モデリングであれば完成に近いミックス・バランスの中で最適な設定を探ることができる上、いわゆる“攻めた設定”にも気楽に試せますので、この辺はとても大きなアドバンテージになると感じました。

 アンプから出る音色や音量はプレイヤーによって全然違いますし、そのトーンをどう捉えるかで楽曲の印象も大きく変わってくることが多いので、3本のマイクでこれだけの選択肢を持てるということはかなりのアドバンテージではないでしょうか。もはや3本とも立てておいてもよいくらいです。またアンプ録音ではプラグイン上のFilter(特にマイクに付いているフィルターはとても音楽的なのだとモデリングを通じて再確認させられました)、Proximity、Axisのコントロールがとても良い働きをしてくれますが、マイクのセッティングを含めたこれらの調整を実際にセッティングするのは相当な時間を使ってしまいますので、効率という面ではかなり便利なのではと思います。

 最後にトランペット、サックスのホーン・セクションでもテストしてみましたが、モデリング性能は言わずもがな、マイクの耐音圧性能も十分で管楽器の録音用マイクとして望ましい性能を持っていると思います。筆者は管楽器録音にはリボン・マイクを使用することも多く、背面の指向性が幾らかある感じが好きなので、ハイパーカーディオイドのSD-7が好印象でした。

多くのマイク選択肢を手に入れられスタジオから宅録環境まで活躍

 今までは職業柄、マイクのラインナップがそろっているレコーディング・スタジオでの録音が主となることもあり、あまりモデリングのマイクを使用する機会がなかったのですが、今回チェックしながらプラグインも含めた完成度の高さに驚かされました。まずモデリングという時点でオリジナルとの音質差がもう少し出ることも想定していたのですが、予想を超えて相当な精度に達しています。特に今回レビューしたダイナミック3機種は用途を考えてもその辺の微妙な違いにはそこまで神経質にならなくてよいと感じました。そうなってくると逆に効率面のメリットは大きいです。実際スタジオでもミュージシャンがスタンバイしているところで、細かいところまでマイクを複数トライして選ぶという時間が取れることは少ないので、当機を使用することで選択の可能性を残すことができます。

 また、多くの選択肢を手に入れられるのも魅力です。音響調整されていない宅録環境などでは、ソースに合うマイク選択が難しいことがありますが、その際たくさんのマイクの選択肢を持っている人はまれです。単純に1本につき5種類の選択肢を得られる本機は、相性の良さそうなものを選んで直感的にパラメーターを設定をするだけで、宅録時に多く見受けられる“録音ソースに対する機材セレクトのミス”のリスクを大きく減らせるのではないでしょうか。全体的に、実作業に大きなメリットをもたらしてくれる製品だと感じました。

 

檜谷瞬六
【Profile】prime sound studio formやstudio MSRを経て、フリーランスで活動するレコーディング/ミキシング・エンジニア。ジャズを中心にアコースティック録音の名手として知られる。

 

UNIVERSAL AUDIO SD-3/SD-5/SD-7

SD-3:22,000円、SD-3(3-Pack):58,300円/SD-5:33,000円/SD-7:25,300円

UNIVERSAL AUDIO SD-3/SD-5/SD-7

SPECIFICATIONS
●SD-3
▪形式:ダイナミック ▪指向性:カーディオイド ▪周波数特性:40Hz〜15kHz ▪感度:−58dB ▪出力インピーダンス:250Ω ▪外形寸法:42(φ)×91(H)mm ▪重量:214g
●SD-5
▪形式:ダイナミック ▪指向性:スーパーカーディオイド ▪周波数特性:20Hz〜15kHz ▪感度:−64dB(0dB=1V/Pa@1kHz) ▪出力インピーダンス:50Ω ▪外形寸法:142.6(φ)×103.2(H)mm ▪重量:727g
●SD-7
▪形式:ダイナミック ▪指向性:ハイパーカーディオイド ▪周波数特性:30Hz〜17kHz ▪感度:−54dB ▪出力インピーダンス:600Ω ▪外形寸法:97.5(W)×113.5(H)×50(D)mm ▪重量:475g

製品情報

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