UNITED STUDIO TECHNOLOGIES Vintage Direct Box レビュー:ビンテージ機からインスピレーションを受けた自社開発トランスを備えるDI

UNITED STUDIO TECHNOLOGIES Vintage Direct Box レビュー:ビンテージ機からインスピレーションを受けた自社開発トランスを備えるDI



 筆者にとって久しぶりのDIのレビューです。今回は、マイクロフォンなどを発売するUNITED STUDIO TECHNOLOGIESから登場したDI、Vintage Direct Box。比較的、ぞんざいに考えられがちなDIですが、今回のレビューで読者の皆さんのDIに対する考え方が、大きく変わることになるかもしれませんね。

広い周波数特性とヘッドルームを実現した独自開発のトランス“5078”を搭載

 DIとは“ダイレクト・インジェクション・ボックス”の頭文字の略語で、インピーダンスの変換器のこと。簡単に説明すると、ギターやベースなどの楽器の出力インピーダンスは非常に高いのですが(通常200kΩ以上)、録音機器やPAの機材は、ノイズや長い配線の引きまわしによる信号ロスを配慮して、ローインピーダンスで作られています。そこで、ハイインピーダンスの楽器の出力をローインピーダンスに変換する必要があり、その役目を担うのがDIなのです。

 一般的にDIには、パッシブ型とアクティブ型がありますが、その違いはトランスを使うか、トランスを使わずに電子回路に頼るかです。今回レビューするVintage Direct Boxは、1960年代のモータウン・サウンドの要であるベース・サウンドの鍵を握る“WolfBox”と呼ばれる手作りのDIや、エンジニアの巨匠ブルース・スウェディーンが使用していた“Bass Box”と呼ばれている、同じく手作りのDIにインスピレーションを受けたそうです。いずれも要はトランスにあります。WolfBoxは、現在でもハイエンド・オーディオの世界では名高いTRIADのトランスを使用。またBass Boxは、名機と呼ばれる1960年代の録音機器でよく使われていたUTCのトランスが採用されていました。ちなみにオールドNEVEはMARINAIR、ST.IVESのトランスが使われています。

 UNITED STUDIO TECHNOLOGIESは、独自のトランス製作から始め、何年もかけてトランスのさまざまな巻き線比と合金を試したそうです。最終的には、インスピレーションの源となった1960年代のトランスに非常に近い、高ニッケルのラミネーションを使用し、最適な巻き線比を実現できたとのこと。ちなみに、なぜ製作に何年もかかるかというと、当時のトランスを再現しようとしても、現在では使用できない素材があるからなのです。これはトランスに限らず、さまざまなパーツに言えることですし、楽器に関しても、やはり当時と同じ金属や木材が入手不可能なので、全く同じものは作れません。だからこそ“ビンテージ”という価値があるのでしょうね。そして、同社が開発したトランス“5078”が誕生し、純粋なサウンド、広い周波数特性、並外れた広いヘッドルーム、そして優れたノイズ抑制を実現するVintage Direct Boxが完成しました。

 Vintage Direct Boxの特徴は、信号の入力段に余計な回路がないことです。多くのDIには、PADやボリューム、フィルターなどが挟まれ、そこで本来のサウンドを損ねる可能性があります。しかし、本機のレベル調整は出力のトランス・タップに組み込まれていて、3つの異なる二次巻線構成と精密な抵抗による−12dBの出力のアッテネーターを組み合わせることにより、6つの均等間隔の出力レベル設定を実現させているのです。

演奏の表現にも影響する楽器そのもののサウンドを忠実に再現

 さて本機に目を向けてみましょう。まず、Vintage Direct Boxの顔となる正面には−12dBのアッテネーター、位相反転、グランド/リフトのスイッチとアウトプットのツマミがあります。前項で述べたように−12dBのアッテネーターは出力段によるものです。リア・パネルに目を向けると、通常のDIと同じく楽器のインプット、変換されたアウトプット、それとスルー・アウトプットが搭載されています。

リア・パネル。左からOUTPUT(XLR)、INPUT(TRSフォーン)、THRU(TRSフォーン)が用意されている

リア・パネル。左からOUTPUT(XLR)、INPUT(TRSフォーン)、THRU(TRSフォーン)が用意されている

 それではサウンドを聴いてみましょう。筆者の所有しているフラット・ラウンドの弦を張っている1969年製のFENDER Precision Bassで試してみました。これは驚きです! 筆者のスタジオにもさまざまなDIがありますが、今までに体験したことがないサウンドで、DIを通した音とは思えないほどのプレベらしい鳴り方をしています。弊社スタジオに導入しない理由が見つかりません。ただ単にローエンドや音の速さが優れているということではなく、楽器そのものの音がニュアンスとして表現に加わるのです。プレベ特有のジュルジュルした感じがあり、スラップ音やグリッサンド、ピアニッシモ、フォルテシモがきちんと表現されていました。これにはとても驚きです。Vintage Direct Boxで弾くことで、おそらく演奏するフレーズも変わってくると思います。

 ギターのFENDER Stratocasterでも試してみました。こちらも驚きの一言。特に巻き弦以外の1、2、3弦の倍音の聴こえ方が、これまで聴いてきたDIとはまるで違います。通常のDIだと、“あぁ、ラインの音だね”となるのが、“レオ・フェンダーのことを分かっている音だな”と感じました。ただのラインの音ではなく、ニュアンスやピッキングによる倍音の表現がきちんと分かるのです。

 今回は試せませんでしたが、RHODESやWURLITZERなどのエレピでも同じようなサウンドを得られることが想像できます。Vintage Direct Boxは、レコーディング・スタジオにも必須ですが、ぜひプレイヤーの方々に試していただき、そのサウンドを体感してもらいたいDIだと感じました。

 

橋本まさし
【Profile】スタジオ・サウンド・ダリの代表を務めるレコーディング・エンジニア。bird、エレファントカシマシ、ケツメイシ、大黒摩季、MISIA、土岐麻子、MONDO GROSSOなどの録音やミックスに携わる。

 

 

 

UNITED STUDIO TECHNOLOGIES Vintage Direct Box

オープン・プライス

(市場予想価格:71,500円前後)

UNITED STUDIO TECHNOLOGIES Vintage Direct Box

SPECIFICATIONS
▪入力インピーダンス:80kΩ(アンバランス) ▪出力インピーダンス:50〜250Ω ▪最大入力レベル:+10dB ▪周波数特性:20Hz〜20kHz、±0.5dB ▪外形寸法:148(W)×47(H)×155(D)mm ▪重量:920g

製品情報

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