SYNAPSE AUDIO The Legend HZ レビュー:ハンス・ジマーと共同で開発されたアナログ・モデリング・ソフト・シンセ

SYNAPSE AUDIO The Legend HZ レビュー:ハンス・ジマーと共同で開発されたアナログ・モデリング・ソフト・シンセ

 名機をモデリングしたソフト・シンセの開発に定評のあるSYNAPSE AUDIOから、新製品The Legend HZが登場。同社は以前に、MOOG Minimoogをモデリングしたソフト・シンセ、The Legendをリリースしており、その拡大版と言えるのが本製品。ハリウッドを代表する映画音楽作曲家、ハンス・ジマーとの共同開発となっています。

6つに拡充されたオシレーターなど多数の機能を追加し前モデルから大きく進化

 正確な回路シミュレーションにより、実機のサウンド特性を忠実に再現しながら、高いユーザビリティを持っていたThe Legend。今回リリースされたThe Legend HZでは、計6つに拡充されたオシレーター(ポリフォニー設定も追加)、モジュレーション・マトリクス、32ステップ・シーケンサー、モジュレーション・コントロールを追加するMSEG、拡張されたエフェクト・セクションなど、多数の機能を追加しています。また、MPE(MIDIポリフォニック・エクスプレッション)をサポートしているので、同規格対応のMIDIハードウェアを用いて、1音にだけピッチ・ベンドをかけたり、異なる音へのスライド、エフェクトの付加などをより自在に、かつ感覚的に変化させることができます。これらの機能の更新によって、よりスピーディな作曲作業が実現するほか、ライブ・パフォーマンスにも効果を存分に発揮するのではないかと思います。

 それではフロント・パネル側から、外観をチェックしていきましょう(上掲の画面)。上部に、左からピッチ・ベンド&モジュレーション・ホイール、グライド、モジュレーション・ミックス、MSEG、デチューン、スプレッド、ポリフォニックの設定部、ボリューム・コントロールを配置。中央部に、左から6つのオシレーター、ミキサー、フィルター、アンプ部のコントロールを配しています。下部に12基のモジュレーション・マトリクスとアルペジエーター、ステップ・シーケンサーがセットされており、これらはタブで切り替えることが可能です。

 フロント・パネル画面上部右端にある反転タブをクリックするとリア・パネル側に表示が切り替わります。

The Legend HZのリア・パネル画面。反転ボタン(赤枠)でフロント・パネルとリア・パネルの表示を切り替え可能

The Legend HZのリア・パネル画面。反転ボタン(赤枠)でフロント・パネルとリア・パネルの表示を切り替え可能

 上部には、グローバル設定、モジュレーション設定、オシレーター設定、フィルターのレンジ設定、サチュレーションを用意。中央部にはローパス/ハイパス・フィルター、イコライザーに加え、フェイザー、コーラス、リバーブ、ディレイ、コンプレッサーなどのエフェクト類が並びます。

生楽器とも違和感なく調和する存在感 映像となじみやすい音の質感で劇伴にも最適

 オシレーターから出力される波形を軸に、アンプやフィルターのエンベロープ・ジェネレーター(ADSR)で調整し、音色に時間的な変化を付ける部分は従来のアナログ・シンセの仕組みと同様ですが、それらにさらなる複雑さや奥行きを与えていくのが、新機能として追加されたモジュレーション・マトリクスとMSEGです。モジュレーション・マトリクスは1基につき、ソース(入力元)でデスティネーション(出力先)を変調し、アマウントで変調の度合いを調節するのが基本の流れとなっています。

新機能、モジュレーション・マトリクス。モジュレーションする際のソース/デスティネーションを設定するスロットが全12個用意されている。アマウント・ノブ(赤枠)で変調の度合いを調節でき、黄枠のマークを各パラメーターにドラッグ&ドロップすることで、より効率的にデスティネーションを設定することが可能

新機能、モジュレーション・マトリクス。モジュレーションする際のソース/デスティネーションを設定するスロットが全12個用意されている。アマウント・ノブ(赤枠)で変調の度合いを調節でき、黄枠のマークを各パラメーターにドラッグ&ドロップすることで、より効率的にデスティネーションを設定することが可能

 ソースにはベロシティ、ホイール、アフター・タッチ、エクスプレッション、MIDIブレス・コントロールなどの演奏情報のほか、MSEGで生成したカーブなどをアサインすることが可能。デスティネーションには、音量、ピッチ、フィルターなどの基本要素はもちろん、エフェクトのパラメーターなどもアサインできます。さらに6つのオシレーターに個別に変化を与えることも可能なため、音作りのポテンシャルは無限です。MSEGは“Multiple Segment Envelope Generator”の略称で、DAWにおいてオートメーションを描くような要領で、自由なエンベロープを生成することができる機能です。

新機能、MSEG(Multiple Segment Envelope Generator)が搭載され、より自由度の高いモジュレーションが実現可能に。リズミカルな効果を生むのに最適なLoop(エンベロープを周期的にループさせる)などのモードを駆使すれば、さらに幅広いサウンド・デザインが行える

新機能、MSEG(Multiple Segment Envelope Generator)が搭載され、より自由度の高いモジュレーションが実現可能に。リズミカルな効果を生むのに最適なLoop(エンベロープを周期的にループさせる)などのモードを駆使すれば、さらに幅広いサウンド・デザインが行える

 もともとはテクノ、ニューウェーブ系の出身だったハンス・ジマーが用いるシンセサイザーには欠かせない機能のようで、本製品には4基搭載されており、多数のプリセットも用意されています。

 全体の印象として、とても音が太く、それでいて耳につくピークがなく、ふくよかなアナログ感のある音だと感じました。サンプル・ベースの音源にありがちな今一つの物足りなさや、エミュレート方式の音源によく見られる耳に痛いピーク感、ローの暴走、他楽器との混ざりにくさなどが本製品には全くありません。エレクトリック系やアコースティック系リズム楽器、ギター、ピアノ、管弦楽器といった生楽器との融合も、特に大幅な調整をせずとも違和感なく調和する存在感を持っています。それだけでなく、人の声や環境音、効果音との親和性も高いので、映像となじみやすく、さすがは映画音楽のスペシャリストが開発に携わっている製品だけあるという印象です。

 早速、本製品を用いて楽曲制作を試みていますが、すぐに望んだ音が鳴ってくれるので、たくさんの楽曲を短期間で作らなくてはならないクリエイターの方などには即戦力になると思いました。アイディアを具現化するスピーディさがありながら、じっくりと突き詰めれば奥深く、ビンテージ・スタイルのサウンドから未知なる音色まで幅広く創造することができるポテンシャルを持ったハイブリッドなシンセサイザーとして、長く付き合っていきたいと思える製品となっています。

 

牧戸太郎
【Profile】東京音楽大学を卒業後に作編曲家として活動を開始し、ドラマや映画音楽のほか、竹内まりや、Hey! Say! JUMP、King & Princeなどの編曲も手掛けている。

 

 

 

SYNAPSE AUDIO The Legend HZ

33,000円

SYNAPSE AUDIO The Legend HZ

REQUIREMENTS
▪Mac:OS X 10.14以降、2.5GHzクアッド・コアCPU以上、AAX/AU/VST2/VST3(いずれも64ビット)対応のホスト・アプリケーション
▪Windows:Windows 7 SP 1以降、2.5GHzクアッド・コアCPU以上、AAX/VST2/VST3(いずれも64ビット)対応のホスト・アプリケーション
▪共通:アクティベーションのためにインターネット接続が必要。また、AAXバージョンにはAVID Pro Tools 11以降が必要

製品情報

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