SLATE DIGITAL Storch Filter レビュー:フィルターにひも付いた5種類のエフェクトを内蔵するプラグイン・エフェクト

SLATE DIGITAL Storch Filter レビュー:フィルターにひも付いた5種類のエフェクトを内蔵するプラグイン・エフェクト

 Storch Filterは、マルチプラチナ・レコード・プロデューサーのスコット・ストーチと、SLATE DIGITALのパートナーシップから生まれたプラグイン・エフェクトです。筆者はかねてから同社のプラグインを愛用し、Virtual Mix Rackやサブスクリプション・サービスAll Access Passを利用してきたので、新しいプラグインの発表を楽しみにしていました。さらに、ドクター・ドレー、ドレイク、ビヨンセなどの楽曲でスコット・ストーチの音楽をたくさん聴いてきましたので、彼の創造性の高さをこのプラグインを通じて皆様にも知っていただきたく、レビュー記事を執筆させていただきます。それでは早速、見ていきましょう!

フィルターのかかり具合に応じてエフェクト量が変化

 “サウンドに興奮と新鮮さを加えることができるプラグイン”と銘打つStorch Filterは、VERB、CHORUS、SAT、SPREAD、PHASEの5つの内蔵エフェクトと、オート・フィルターで構成されています。プラグイン画面の中央には大きなカットオフ・ノブがあり、その下にはレゾナンス・コントロール・ノブに加え、4つのフィルター・タイプ(フラット、ハイパス、バンド・パス、ローパス)、4つのスロープ・オプション(1X、2X、4X、6X)も用意(上部のメイン画像)。5つの内蔵エフェクトは、このカットオフ・ノブやレゾナンス・コントロール・ノブにひも付いていて、それぞれのパラメーターを上げれば上げるほどエフェクトが強くかかる仕様です。ローパス・フィルターは、フィルターが20.5kHzで完全に開いているときにすべてのエフェクトがドライになり、ハイパス・フィルターは20Hzですべてがドライになります。

 画面最下部にはフィルターがかかった信号をさらにエフェクティブに処理できる、オンボード・オート・フィルターが用意されています。

画面最下部にあるオンボード・オートフィルター。6つの波形を備えるLFOから好みのものを選択し、RATEやDEPTH、PHASEのパラメーターを調整してよりエフェクティブな音色を作成できる

画面最下部にあるオンボード・オートフィルター。6つの波形を備えるLFOから好みのものを選択し、RATEやDEPTH、PHASEのパラメーターを調整してよりエフェクティブな音色を作成できる

 RATE(レート)、DEPTH(深さ)、PHASE(位相)のパラメーターの調整や、6つの波形を備えたLFOで希望のサウンドを作ることが可能です。さらに、入出力のゲイン・トリムも備わっているので、この辺りをうまく調整することで、既存の音色からより理想的な新しいサウンドを生み出すことができるでしょう。

エフェクトは“良い感じ”にサウンドを引き立ててくれる

 次に内蔵エフェクトについて見ていきましょう。VERB、CHORUS、SAT、SPREAD、PHASEの5つのオプションがあり、それぞれを個別に使用することも、任意の組み合わせで使用することもできます。

画面上部に表示される5つの内蔵エフェクト。左から、VERB(リバーブ)、CHORUS(コーラス)、SAT(サチュレーション)、SPREAD(ステレオ・スプレッダー)、PHASE(フェイザー)。個別に使用することも、組み合わせて使うことも可能。いずれの場合も、エフェクトはフィルターがかかった信号に付加される

画面上部に表示される5つの内蔵エフェクト。左から、VERB(リバーブ)、CHORUS(コーラス)、SAT(サチュレーション)、SPREAD(ステレオ・スプレッダー)、PHASE(フェイザー)。個別に使用することも、組み合わせて使うことも可能。いずれの場合も、エフェクトはフィルターがかかった信号に付加される

 その下にはFX BOOSTスライダーがあり、こちらを高く設定するとより強くエフェクトがかかり、サウンドに劇的な変化をもたらすことができます。

5つの内蔵エフェクトの下に表示されるFX BOOSTスライダー。エフェクトのかかり具合を調整できる

5つの内蔵エフェクトの下に表示されるFX BOOSTスライダー。エフェクトのかかり具合を調整できる

 VERBはホール系のリバーブです。ゆっくりと立ち上がり、密度が高く、クラシックな雰囲気を感じさせてくれます。CHORUSはシンプルで、ピッチのずれとステレオの広がりが加わるエフェクトです。SATは温かみを付加することができ、FX BOOSTスライダーを高めに調整すれば、オーバードライブ的なサチュレート効果をもたらすことも可能。SPREADは、短いディレイとステレオ・エンハンサーのような役割があり、PHASEはモジュレーションを程よくもたらします。全体的にかかりすぎず、良い具合にサウンドを引き立ててくれる印象でした。

 使い方としては、サビ前のブリッジのボーカルに何か特殊なエフェクト感や空間を付加したいときや、上モノに何か新しい質感を追加したいときに、プリセットでちょうど良いものを探りながらミックスに組み込んでいく方法がお勧めです。プリセットはスコット・ストーチ自身が作成していて、幾つか気に入ったものがあったのでご紹介いたします。

 まずはベースやドラムについて。“Trunk Shaker”は、ヒップホップには欠かせないROLAND TR-808のベースにしっくりきました。サチュレーション成分が足されて音の輪郭が分かりやすくなり、FX BOOSTの調整でよりなじみの良い音色になります。ドラム・バスには“Storch Drum”が良い感じ。粒立ちがはっきりします。

 上モノには“Hello Tremolo”が素敵。5つのエフェクトは設定されておらず、カットオフ・ノブと画面下部のオンボード・オート・フィルターに処理が施されているプリセットです。プロジェクトのテンポに追従しているので、RATEの数値を好みの設定にするとよいでしょう。フィルターのかかり具合も絶妙でした。トレモロはほかのプラグインでも使用する個人的に好きなエフェクトで、次にトレモロを使用したいなと思ったときはこのプリセットからスタートすることになりそうです。ほかにも用途に応じて使えそうなプリセットがあり、曲の構成に合わせて所々でカットオフ・ノブにオートメーションを書いて調整するような使い方が良いなと感じました。

 プラグイン自体のCPU消費量は非常に少なく、遅延も感じられません。見た目もシンプルで非常に分かりやすいので、初心者の方でもすぐに理解できるでしょう。ジャンルとしてはエレクトロやEDM、ヒップホップなど、電子音が使用されるような楽曲にとてもマッチします。皆さんにとってこのプラグインは、スコット・ストーチが長い時間をかけて培ってきた感覚を自分の楽曲に組み込める、非常に強力なアイテムになることでしょう。

 

murozo
【Profile】Crystal Soundを拠点に活動する気鋭エンジニア。ヒップ ホップ、R&B、ポップスのミックス/マスタリングに加え、Dolby Atmosや360 Reality Audioなどイマーシブ作品も多く手掛けている。

 

 

 

SLATE DIGITAL Storch Filter

25,300円

SLATE DIGITAL Storch Filter

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.15以降、INTELまたはApple Siliconのプロセッサー
▪Windows:Windows 10/11、INTELまたはAMDのプロセッサー
▪共通項目:64ビット、4GBのRAM
▪対応フォーマット:AAX、AU、VST2、VST3

製品情報

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