音楽関係の現場でニーズが高まっている機能を多数搭載した“プレミアム・アナログ・ミキサー”Onyxシリーズ。24ビット/96kHzマルチトラック録音ができるUSBオーディオI/O機能や、ステレオ録音/再生が可能なSDカード・レコーダーなどを実装しています。今回は入力数が8/14/16/24chの4つのモデルのうち、14chのOnyx12を試していきましょう。
最大60dBゲインのマイクプリを8つ搭載
Onyxシリーズは最大60dBゲインを採用した超低ノイズ設計のOnyxマイク・プリアンプや、中域の周波数を変更できるブリティッシュ・スタイルの3バンドEQ“Perkins EQ”を搭載しています。さらにリバーブ、ディレイといった12種類の高解像度エフェクトや、そのエフェクト専用のEQも実装。また、AVID Pro Tools|FirstやTRACKTION Waveform OEMといったDAWがバンドルされているので、それらを使用してすぐにレコーディングを始められます。ライブPAはもちろん、配信用のミックスを作ったり、宅録や映像コンテンツ用のサウンド・プロダクションなども手軽にできそうです。
Onyx12は入力数が14chで、ch1、ch2はHi-Z入力にも対応しています。マイク・イン(XLR)の数は8つで、すべてにOnyxプリアンプを搭載。ch5/6〜11/12の4系統のステレオ・チャンネルは、それぞれライン・インL/Rのほか、マイク・イン(モノラル)も備えています。Perkins EQはch1〜4に搭載されており、それ以外のチャンネルのEQは中域の周波数ポイントが2.5kHzに固定。
細かい仕様を見ると、ch7/8はSDスイッチを押し込むとSDカードの音源を立ち上げるチャンネルに、ch9/10とch11/12のUSBスイッチは、押し込むとUSB接続されているDAWのアウトプット1/2と3/4がそれぞれアサインされて再生されます。ミックスする場合などに便利ですね。ch13/14はBluetooth入力にも対応。AUXはモニター用にプリフェーダーで2系統、内蔵エフェクト用に送りを1系統搭載しています。またMUTEとSOLOボタンの主張がなかなか強く、目立つので押し間違いなどの操作ミスも起こらないでしょう。
これだけの機能を持っている割に筐体は非常にコンパクトな印象です。“戦車級に頑丈なスチール・シャーシ”とのことでめちゃくちゃ重いのではないかと怯えていましたが、実際に持ってみると非常に軽量で、可搬性も高いと感じました。
高品質なエフェクトを12種類装備
次にサウンドをチェックしてみます。まず、SHURE SM58を使って声でチェックしてみました。抜けが良くスッキリした印象です。また非常にSN比が良いので、プリアンプのゲインを高めに設定してもヒス・ノイズなどは聴こえてきません。高域はギラつかず、中低域は量感がありながらダブつきが無くスッキリとしていますね。いわゆるアナログらしいマイルドなサウンドで、どんな楽器でも扱いやすいだろうなと思います。続いてPerkins EQを使ってみます。やはりアナログのEQは効きが良く筆者の好み。それでいて比較的自然なかかり具合で、オーバーEQ状態でも音像は破たんしない印象です。
そしてこのまま声で12種類の内蔵エフェクトも試してみたところ、これは使えます。ぶっちゃけてしまうと、今までコンパクト・ミキサーの内蔵エフェクトにおいて、特にリバーブは良いと思ったことがあまり無いのですが、本機は違います。HALL/ROOM/PLATEの3種類がプリセットされており、どれも奥行きがきちんとある印象。また、これらのリバーブとは別に“Delay+Reverb”というプリセットがあります。残念ながらリバーブのアルゴリズムは選べないものの、プリディレイをコントロールできるので、こちらも使えるなと感じました。先述の通り内蔵エフェクト専用EQもあるので、もし気になるところがあればそこで補正をすることもできます。操作性も良いですね。サウンドに関してはかなり満足度が高いです。
ライブ配信やレコーディング、収録などでの使用を考えたとき、オーディオI/O機能の性能や利便性が気になりますので、Macに接続して声とガット・ギターをレコーディングしてみました。ガット・ギターにはAKG C414 XLⅡを使用。DAWとの連携については、MacとUSB接続すればCore Audioで自動認識してくれます。あとはDAWを立ち上げ、ソフト側で入出力の設定をするだけなので非常に手軽です。さくっとセッティングしてすぐに録音できますね。音質も、ライブ・レコーディングや配信を手軽にしたいと考えている方には十分高品質ではないかと感じました。録り音はミキサーのUSBチャンネルに立ち上げれば再生されます。またマイク・プリアンプが8ch分あるので、ドラムの録音も問題無くできるでしょう。
マルチトラック・レコーディングはどうしてもデジタル・ミキサーやオーディオI/Oを扱うことが必要で、専門知識の無い方には難しく感じることもあると思います。しかしこのOnyxシリーズなら操作性はアナログ・ミキサーと同じなので、ハードルはかなり下がるのではないでしょうか? 自宅でのレコーディングや、規模の小さなライブ・スペースなどでの配信を含めたライブ用のミキサーとしてお薦めできますね。もちろんプロ・ユースとしても、さまざまな使い方ができると思います。また、コスト・パフォーマンスに優れたミキサーです。
西川文章
【Profile】大阪を拠点に活動するPA/レコーディング・エンジニア。大小さまざまな会場を回り、豊富な経験を持つ。かきつばたやブラジルなどのプロジェクトで、ギタリストとしても活躍している。
MACKIE. Onyx12
オープン・プライス
(市場予想価格:66,990円前後)
SPECIFICATIONS
▪モノラル・チャンネル数:4 ▪ステレオ・チャンネル数:5 ▪内蔵エフェクト:ディレイ、リバーブ、コーラス、エコー、フランジャー、他 ▪USBオーディオI/O:24ビット/96kHz、14イン/4アウト ▪EQ:3バンド(ch1〜4は中域が周波数可変) ▪AUX:3(モニター・センド×2、エフェクト・センド) ▪外形寸法:376(W)×137(H)×356(D)mm ▪重量:5.9kg