KORG SoundLink 〜音の練達が使い始めたハイブリッド・ミキサー【Overview & Developers' Story】

f:id:rittor_snrec:20200925130105j:plain

KORGが今年5月に発売したアナログ&デジタルのハイブリッド・ミキサー、SoundLink。24chのMW-2408(写真)と16chのMW-1608をそろえ、開発にはグレッグ・マッキー氏とピーター・ワッツ氏という2人の名オーディオ・エンジニアがコミットしている。ワッツ氏がかつて在籍したTRIDENT AUDIOのコンソールを思わせるマイクプリ、ミュート・グルーブやサブグループといった機能、フィードバック・サプレッサーに個性的なマルチエフェクトと、特徴は枚挙にいとまがない。開発陣へのインタビュー、オノ セイゲン氏とZAK氏によるユーザー・インプレッションを通して、SoundLinkの魅力に迫ろう。

Photo:Hiroki Obara(写真上)

 

Overview
KORG SoundLink

f:id:rittor_snrec:20200925130255j:plain

 アナログ&デジタルのハイブリッド・ミキサー。チャンネル構成はMW-2408が8モノラル+8ステレオ、MW-1608(写真)が8モノラル+4ステレオ。ステレオ・チャンネルはモノラル兼用で、いずれの機種も全入力にXLRのマイク・インを持つ。内蔵マイクプリは“HiVolt”を称する独自仕様。後段にコンプやEQを備える。AUXバスは4系統と豊富。機能面も充実し、MUSICIAN’S PHONES、ミュート・グループ、ブレイク、シーン・メモリー、サブグループなどを備える。内蔵マルチエフェクトはKORG製カスタム・チップ仕様で、ExciterやSub Bassなど個性的なものもスタンバイ。AD/DAにはVELVET SOUNDのコンバーターを使い、低ノイズを確保している。

 

f:id:rittor_snrec:20200925163441j:plain
f:id:rittor_snrec:20200925163450j:plain
f:id:rittor_snrec:20200925163500j:plain

① HiVoltマイク・プリアンプ
ピーター・ワッツ氏設計のマイク・プリアンプで、クラス屈指のヘッドルームやダイナミック・レンジを誇る。TRIDENT AUDIOさながらのウォームな音質も魅力

② コンプ&EQ
ピーター・ワッツ氏が設計したワンノブ型コンプとパラメトリックEQ。コンプの品質はスタジオ・グレード。EQについては、モノラル・チャンネルが3バンド(中域の周波数は可変)、ステレオ・チャンネルが4バンドとなっている

③ AUXセンド
AUXバスは4系統。AUX1と2には、内蔵のフィードバック・サプレッサーやグラフィックEQ、周波数アナライザーなどをアサインできる。内蔵エフェクト用のバスは別途用意されており、下の赤いノブでセンド量を調整する

 

f:id:rittor_snrec:20200925163508j:plain
f:id:rittor_snrec:20200925163518j:plain
f:id:rittor_snrec:20200925163527j:plain

④ MUSICIAN’S PHONES
AUX3と4の出力にはヘッドフォン端子も用意され、ヘッドフォン・モニターも可能。その際に、写真の黒いノブを上げればメイン・バスL/Rの音をミックスして聴ける

⑤ ミュート・グループ
好きなチャンネルをミュートし、その状態を最大4パターンまで保存/呼び出しできる機能。ライブの現場を見てきたKORGが搭載を熱望したものでもある

⑥ ブレイク
全チャンネルを一斉にミュートできるボタン

 

f:id:rittor_snrec:20200925163535j:plain
f:id:rittor_snrec:20200925163545j:plain

⑦ サブグループ
任意のチャンネルをまとめられるステレオ4系統のグループ・バス。それぞれ出力端子を備えるほか、ボタンのオン/オフでメイン・バスL/Rにアサインする/しないを決めることができる

⑧ 内蔵エフェクト
32ビットのマルチエフェクトは全24種類。液晶の下では、メインL/RとAUX1&2に割り当てられるフィードバック・サプレッサーやグラフィックEQ、シーン・メモリーなども操作可。サプレッサーは新規開発で、応答性向上のため、周波数推定に計算量の少ない検出技術を応用したという

 

f:id:rittor_snrec:20200925130428j:plain

 MW-1608の背面。ch1〜8にマイク・イン(XLR)とライン・イン(TRSフォーン)、ch9/10〜15/16にはマイク・イン(XLR)とライン・インL/R(TRSフォーン)が備わっている。下部にはモニター・アウトL/R(TRSフォーン)、2イン/2アウトの内蔵オーディオI/O用USB端子、メイン・アウトL/R(XLR、TRSフォーン)、グループ・アウト×8(TRSフォーン)、AUXアウト×4(XLR)、MUSICIAN'S PHONES端子×2(ステレオ・フォーン)などを配置。

 

Developers' Story
SoundLink開発の軌跡

 SoundLinkの開発は、どのように進められたのだろう? グレッグ・マッキー氏、ピーター・ワッツ氏、KORG技術開発部の河村裕司氏と工藤秀和氏の言葉から、そのストーリーに迫る。

アナログのシンプルさとデジタルの力
この2つを1つの製品として統合した

f:id:rittor_snrec:20200925180808j:plain
f:id:rittor_snrec:20200925180827j:plain
グレッグ・マッキー氏(写真左)、ピーター・ワッツ氏

f:id:rittor_snrec:20200925180955j:plain

KORG技術開発部の河村裕司氏(右)と工藤秀和氏

 TRIDENT AUDIOやMACKIE.で功績を挙げたワッツ氏。そのMACKIE.の創設者で、同社を去ってからはワッツ氏とともにM&W PRO AUDIOを立ち上げたマッキー氏。2人はミキサー設計者として認め合う仲であり、SoundLinkの原案も彼らが描いた一枚のスケッチだった。「それをKORGに持ち込むと、彼らはすぐにコンセプトを理解してくれました」と語るのはワッツ氏。これにマッキー氏が続く。

 

 「KORGは1990年代にMACKIE.の日本国内ディストリビューションを手掛けていました。当時から関係が良く、私は現在も彼らの技術力とビジネスの姿勢に尊敬の念を抱いています。特にデジタル分野の技術と経験は随一でしょう。だからこそ、彼らと組めば我々の描いた“ハイブリッド・デザイン”を理想的な形で実現できると思ったのです

 

 ハイブリッド・デザインは、マッキー氏の市場調査から生まれた解である。

 

 「現行のコンパクト・ミキサーをことごとくリサーチしたのです。その結果、同じような設計ではユーザーの希求する機能を盛り込めないことが分かり、ハイブリッド・デザインというコンセプトに行き着きました。換言するなら“アナログのシンプルさ”と“デジタルのパワー”を一つにすることです」

 

 「デジタルでなければできないこと、というのもありますからね」とワッツ氏が続ける。

 

 「SoundLinkにおいてはマルチエフェクトやグラフィックEQ、フィードバック・サプレッサーなどです。例えばグラフィックEQは、アナログで同じ結果を得ようとするとコンパクトさが犠牲になります。一方、アナログならではの恩恵もあって、それはミキシング・エンジニアとの相互作用であったり、出音のクオリティだと思います」

 

 2人は原案のスケッチをKORGに提示。「そのスケッチにインスパイアされて新しいアイディアを出し、彼らからまたアイディアが戻ってくる……というのが当初のやり取りでした」と、河村氏が振り返る。

 

 「より小型のフォーマットのもの、8バスが無いもの、位相メーターを備えたものなどアイディアはさまざまでしたが、それらを取捨選択し、統合したのがSoundLinkです。厳格に貫いたのは、グレッグとピーターの共感が得られないアイディアは排除するというルール。新カテゴリーの製品を作るときは知らないことの方が多く、不安との戦いの連続で、物事をシステマティックに決めていくのが困難です。しかし今回は2人がそばに居てくれたので、我々も意思決定がスムーズに行えました」

 

マイクプリの肝は余裕のある内部電圧
ミュート回路は新設計のディスクリート

 マッキー氏とワッツ氏の意志を尊重しながら進められた開発。とは言え、KORGにもこだわりがあったようだ。

 

 「良い音のミキサーを、ということで随分と議論し、低ノイズや立ち上がりの速さ、明りょうさといった定義が生まれました。でも、単にオーディオ特性が良くて卒なく仕事をこなす優等生ではなく、やんちゃでユーザーを驚かせることが好きな“KORGっぽいミキサー”にしたいという思いがあったんです。だから、内蔵エフェクトにユニークな効果とチョイスを加えてみたりしました。例えばTape Echoは、タイムを変えたときに“キュルキュル”というテープ走行音がするんです。もちろんシミュレートした音声ですが、そういう小ネタも随所に盛り込んでいます。音を変えたいときにガラっと変えられるというのが、我々の目指したミキサーです。SoundLinkをダブ・ミックスなどに使っても面白いと思いますね」

 

 河村氏が言及した“オーディオ特性の良さ”は、入力段から徹底されている。HiVoltマイク・プリアンプについて、設計を担当したワッツ氏に聞くと「16.5Vという余裕のある内部電圧で駆動しているため、同じ価格帯のアナログまたはデジタル・ミキサーよりも大きなヘッドルームとダイナミック・レンジを有しています」との答え。その後段のワンノブ型コンプとパラメトリックEQは、ボーカルと楽器のサウンド・エッセンスに効果的な作りで、なおかつ簡単に扱えるよう設計されている。マッキー氏が語る。

 

 「多くのミキサーは、初心者にとって複雑でミステリアスに見える箱です。我々が常に目指しているのは、分かりやすく扱いやすいように作られた操作系。SoundLinkのミュート・グループは、その好例でしょう」

 

 ボタン一つで、あらかじめ登録しておいたミュート済みのチャンネルを呼び出せる機能だ。「各チャンネルのパラメトリックEQ の出力信号を制御しています」とは工藤氏の弁。

 

 「ミュート動作はCPUがデジタル制御していますが、ミュート回路そのものはアナログで、しかも新設計のディスクリート仕様です。単純なスイッチやミュートICでは、動作が速過ぎてノイズの発生が避けられず、特に低音信号があった場合に“ブツっ”という不快な音が生じます。消音までの速度を回路的に調整することで、高速フェード・アウトするようにスッと消えゆくミュート動作を実現しました

 

 ミュート・グループの傍らに配置されたブレイク・ボタン(全チャンネルを一斉にミュートする機能)も出色だ。

 

 「ブレイク機能は、一部のアナログ・ミキサーには搭載されていますが、AUXなどのバスはミュートされないことが多く、ステージ上でDIからケーブルを抜いたりすれば過大ノイズがバスを伝わり、スピーカーを飛ばしてしまう危険性があります。しかしSoundLinkでは、ミュートしたチャンネルが全出力への経路から切り離されるため、転換の際も安心です。トークバック用のマイク・インとステレオ・ミニのライン・インはブレイクやミュート・グループの影響を受けないので、常にMCやBGMの入力として使えます」

 

 3者のアイディアと技術を凝らしたSoundLink。ワッツ氏がこう締めくくる。

 

 「KORGのような素晴らしい企業と仕事ができて名誉に思っています。SoundLinkは真にインターナショナルなプロジェクトでした。我々は、このミキサーがユーザーに楽しみと成功をもたらしてくれたらと願っています」

 

Close-up
What’s “ミュート・グループ”?

ミュート・グループとは、複数のチャンネルをミュートし、その状態を保存/呼び出しできる機能だ。大型のPAコンソールなどにはよく見られるが、コンパクトなミキサーには珍しく、SoundLinkでは最大4つのグループを組むことが可能。設定は簡単で、A~Dのいずれかのグループ・ボタンを長押しし、プログラム・モードへ入る。次に好きなチャンネルをミュートしてグループ・ボタンを押すと保存完了。再びグループ・ボタンを押せば、すぐに呼び出せる

f:id:rittor_snrec:20200925181841j:plain

 

KORG SoundLink 製品情報

www.korg.com

 

KORG MW-2408 / MW-1608(写真)

価格:136,000円(MW-2408)、118,000円(MW-1608)

f:id:rittor_snrec:20200925130255j:plain

SPECIFICATIONS
●MW-2408
▪チャンネル数:24 ▪外形寸法:480(W)×187(H)×530(D)mm ▪重量:9.3kg

●MW-1608
▪チャンネル数:16 ▪外形寸法:396(W)×187(H)×530(D)mm ▪重量:8.0kg

●共通
▪バス:メインL/R、サブグループ1〜8、AUX1〜4、FX、モニターL/R ▪ゲイン幅:−10〜+60dB(マイク・イン) ▪周波数特性:20Hz〜20kHz(+0.5、−1.5dBu)/アナログ・イン〜メイン・アウト ▪等価ノイズ・レベル:−128dBu ▪全高調波ひずみ率:0.004% ▪SN比:−70dBu(アナログ・インのメイン・アウトに対するSN比) ▪AD/DAビット・レート:32ビット ▪内部処理:32ビット

 

関連記事

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp