「KORG MW-1608」製品レビュー:ミキサー開発の名手が携わったアナログ/デジタルのハイブリッド機

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 “アナログ/デジタルのハイブリッド・ミキサー”を銘打つKORG MW-2408(オープン・プライス:市場予想価格149,600円前後)とMW-1608(価格は上記)。ミキサー設計の2人のレジェンド、グレッグ・マッキー氏(MACKIE.の創設者)とピーター・ワッツ氏(MACKIE.やTRIDENT AUDIOでキャリアを積んだエンジニア)がKORGとともに作り上げたシリーズで、SoundLinkという総称が付されています。アナログを基本に、プロセッサーなどにかかわる部分をデジタル化し、グラフィックEQやリミッター、マルチエフェクト、シーン・メモリー機能などを搭載。今回は16chのMW-1608を触りながらレビューしていきます。
 

アタックが速く倍音も特徴のマイクプリ
チャンネルEQは効きが良く自然な印象

 

 パネル・レイアウトは一般的なアナログ・ミキサーとよく似ているので、非常にとっつきやすいです。特にノブやフェーダーの配置など、機能的なデザインはアナログ・ミキサーさながら。皆さんも迷うことなく使い始められるでしょう。  

 

 インプット・チャンネルは1〜8がモノラルで、9/10〜15/16がステレオ/モノラルの両方に対応。全チャンネルにXLRのマイク・イン(モノラル)が装備され、1〜8にはTRSフォーンのライン・イン、9/10〜15/16にはTRSフォーンのライン・インL/Rも用意されています。

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MW-1608のch8(モノラル・チャンネル)とch9/10(ステレオ/モノラル・チャンネル)。いずれも一番上に“HiVolt”マイクプリのゲインを装備し、モノラル・チャンネルはワンノブ型コンプを挟んで3バンドEQ、ステレオ/モノラル・チャンネルは入力ソースの切り替えボタンを挟み4バンドEQを備えている。EQの下にはAUXセンド1〜4、内蔵マルチエフェクトへの送り、パン、ミュートなどの操作子を配置

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MW-1608のリア・パネル。ch1〜8にマイク・イン(XLR)とライン・イン(TRSフォーン)、ch9/10〜15/16にはマイク・イン(XLR)とライン・インL/R(TRSフォーン)が備わっている。ch15/16の左にあるのは、トークバック用のマイク・イン(XLR)とフット・スイッチ用の端子(フォーン)。パネル下部にはモニター・アウトL/R(TRSフォーン)、内蔵オーディオI/OのUSB端子、メイン・アウトL/R(XLR、TRSフォーン)、グループ・アウト×8(TRSフォーン)、AUXアウト×4(XLR)、MUSICIAN'S PHONES端子×2(ステレオ・フォーン)などを配置

 

 マイク・インにはワッツ氏の設計による“HiVolt”マイクプリを備え、同価格帯のアナログ/デジタル・ミキサーの中で最も広いヘッドルームを有しているとのこと。音質は、実際に同クラスのミキサーと比べてみると明らかに前に出てくる印象で、張り付き感があります。低〜中低域のダブつきが少なく、立ち上がりの速いシャキッとしたサウンドです。アナログならではの高域の倍音成分が豊富なようで、これがメーカーのうたう“温かみ”につながっていると思います。例えるなら、リボン・マイクを使ったときに感じる歯切れの良さ。そういうニュアンスです。また、ゲインを上げていってもなかなか破たんせず、嫌なひずみが発生しにくいのも特徴。むしろ高域の倍音がリッチになっていくような印象さえ受けました。なお、このマイクプリ部は80Hz/−12dB/octのハイパス・フィルターとファンタム電源(マイク・チャンネル一括供給)を搭載しています。 

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シリーズ製品のMW-2408。入力は24chで、外形寸法は480(W)×187(H)×530(D)mm、重量は9.3kg。そのほかの仕様はMW-1608とほぼ共通している

 そのままチャンネル・ストリップを追っていくと、ch1〜8のマイクプリ部の後段にはコンプレッサーが備わっています。ワッツ氏の設計によるワンノブ型コンプで、スレッショルドとアウトプット・ゲインが連動するため、初心者でも簡単に操作できるでしょう。声と2ミックスのソースに試してみたところ、基本的には自然なかかり方で、ライブ・ミキシングに使いやすいと感じました。声にかける場合はノブを上げめにして、シャウトなどの突発的な大音量を狙ってコンプレッションするのが効果的。かなりピタッと、しかも違和感無く抑えられます。とは言え、リミッターのように完全に抑え込むのではなく、声の芯の部分は絶妙に保たれる印象。また、ひずみっぽさやこもった感じがしないため、DJなど2ミックスをベースとするパフォーマンスにも安心して使えそうです。  

 

 次にEQ。こちらもワッツ氏が設計したもので、ch1〜8に3バンド、ch9/10〜15/16には4バンドのものが用意されています。個人的には、このEQが一番好印象。アナログならではの効きの良さがありつつも音質の劣化が少なく感じられるというか、余計な部分が持ち上がらないというか……恐らく位相特性が良いのでしょう。より自然なイコライジングが可能です。3バンドEQの中域は周波数可変のピーキングで、一般的なミキサーよりもQ幅が狭く設定されているのか、ピンポイントな処理が非常にやりやすいです。

 

素早く呼び出せるグラフィックEQ
周波数アナライザーも装備

 

 続いてはデジタル領域。旭化成エレクトロニクス(AKM)のオーディオ・ブランドVELVET SOUNDのAD/DAチップもさることながら、最大の特徴はメインL/RとAUX1/2のバスをアサインできる内蔵のフィードバック・サプレッサー、ダイナミクス、グラフィックEQです。例えば、従来の小型アナログ・ミキサーではアウトボードのグラフィックEQやリミッターを併用しなければならないこともあるわけですが、SoundLinkならその必要は無いでしょう。またデジタル・プロセッサーなので、設定の保存やリコールも可能です。

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KORGのカスタム・チップを使った内蔵プロセッサーの操作部。写真では、上部の液晶にグラフィックEQが映し出され、その下には周波数ポイントの選択などに使用するボタンが並ぶ。中央のボタン群は内蔵プロセッサーにアクセスするためのもので、それぞれDYNAMICS(リミッター、コンプレッサー、ノイズ・ゲート)、EQUALIZER(グラフィックEQ)、FEEDBACK(フィードバック・サプレッサー)、DFX(マルチエフェクト)となっている。FEEDBACKとDFXの間には、ホーム画面や周波数アナライザーを表示させるためのボタンを配置

 

 グラフィックEQを見ていきましょう。ParaGraphic EQと名付けられており、基本的には9バンド。各帯域のQ幅が広いWide、狭いNarrowの2種類のモードを切り替えて使用でき、後者では周波数ポイントが31バンドの中から9つ選べるようになっています。このWide/Narrowは、ありそうで無かった機能ですね。また、EQUALIZERセクションのMAIN L/R、AUX1、AUX2のボタンをそれぞれ1回押すだけで、各バスのグラフィックEQにアクセスできるのも魅力です。マッキー氏が言うように、一般的なコンパクト・デジタル・ミキサーではグラフィックEQを開こうとすると画面を2〜3回切り替える必要があり、その分時間がかかります。これを解決できる設計というわけですね。ただし、ボタンを立て続けに2回押すとグラフィックEQがオフになってしまうので要注意。筆者も誤ってオフにしてしまうことが何度かありました。

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右下にあるのが、各バス(メインL/R、AUX1、AUX2)のグラフィックEQにアクセスするためのボタン。1回押すと設定画面を開くことができ、立て続けに2回押すとEQのオン/オフを切り替えられる

 

 グラフィックEQ自体の操作性は、ボタンで周波数ポイントを選びダイアルでゲインの調整する形なので直感的です。これに加えて周波数アナライザーも搭載しています。組み合わせて使うことで、瞬時に、そして的確にフィードバックへの対応が可能。“え〜っと”と考えている間にフィードバックはどんどん大きくなってしまうので、アナライザーで視覚的にとらえられるのは確実性の向上においても有利です。

 

スプリング・リバーブやエキサイター
“Sub Bass”など個性的な内蔵エフェクト

 

 デジタル部には20種類のマルチエフェクトもスタンバイ。同時に使えるのは1種類ですが、リバーブやディレイ、コーラスなどスタンダードなものに加え、エキサイターや低域強化のための“Sub Bass”などがそろいます。リバーブに関しては、ホールとルームはもちろん、スプリングのアルゴリズムも用意されています。いろいろと試してみたところ、ホールとルームはそれぞれの空間の特徴をやや強調した設定という印象。両方共、それと分かりやすい音色です。スプリングについては、設定次第では、いわゆるギター・アンプの内蔵リバーブに近くなります。他社のミキサーには、この感じのリバーブはあまり内蔵されておらず、エレキギターの音にかけたりすると面白いと思います。

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右上のDFXがマルチエフェクトの操作セクション。エフェクトの選択や設定を行うためのSELECTボタン、ディレイ・タイムの設定に使用するTAPボタンを備える

 

 さらにエキサイターとSub Bassもチェック。筆者は、ライブの現場ではこの種のエフェクトを使ったことがないのですが、DJやエレクトロニック系のライブに便利そうです。音のヌケが欲しい場合はエキサイターで高域の倍音を足し、重低音が欲しいならSub Bassを選びます。アイディア次第で、いろいろと可能性が広がりそうですね。このほか、テスト信号(1kHzのサイン波、ホワイト・ノイズ、ピンク・ノイズ、スウィープ音など)を出力するオシレーター機能もマルチエフェクト部に装備。以上、すべてのプロセッサーにはKORG製のカスタム・チップが使用されています。

 

ミュート・グループを4つ搭載
モニター向けの独自機能も魅力


 SoundLinkには、ミュート・グループが搭載されています。大型のアナログ・ミキサーにはよく付いているのですが、小型のものでは珍しいと思います。この機能を使えば、A〜Dの各グループにミュートしたい複数のチャンネルを登録しておけるので、一括ミュートが行えるのです。例えばミュート・グループAにドラムの各チャンネルを登録しておくと、Aのボタンを押すだけでドラム・キット全体をミュートすることが可能。設定方法は非常に簡単で、ミュート・グループのボタンを長押し→登録したいチャンネルのミュート・ボタンを押す→ミュート・グループ・ボタンを押して完了、というものです。

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中央にあるA〜Dの4つのボタンがミュート・グループ。いずれかのボタンを長押ししてからミュートしたいチャンネルを選択し、再びボタンを押すことで登録が完了する。右下には、全チャンネルを一括ミュートするブレイク・ボタンを装備

 

 このミュート・グループに加え、すべてのチャンネルを一括ミュートできるブレイク・ボタンも装備。例えば不慮のフィードバックやノイズが発生した場合、どのチャンネルが原因なのか瞬時の判断は難しいため、そんなときに一括ミュートできます。これは個人的にずっと欲しかった機能です。  

 

 ユニークな機能としては“MUSICIAN'S PHONES”が挙げられます。まず、リア・パネルにあるAUX3/4の出力部には、XLRのライン・アウトとは別にヘッドフォン・アウトが装備されています。このヘッドフォン・アウトはMUSICIAN'S PHONES端子と呼ばれ、ステレオ仕様です。なぜモノラル・バスであるAUX3/4でステレオ出力なのかと言うと、AUX3/4の信号にメイン・バスL/Rの信号を足したものが出力されるから。これにより、AUXやメインのバランスを変えることなくミュージシャン本人の楽器を大きく返したり、小さく返したりといったことが可能になります。

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ピーク・メーターの左にあるのがMUSICIAN'S PHONES機能の操作子。AUX3/4のそれぞれに向けたものが用意され、白い方のノブでMUSICIAN'S PHONES端子の出力音量、黒いノブでメイン・バスL/Rの音をどのくらい足すかを決められる

 

 例えば、AUX3のMUSICIAN'S PHONES端子からインイア・モニターに返す場合、AUX3にはミュージシャン本人の楽器のみを送っておき、メイン・バスL/Rの音を徐々に足していくことで、本人の楽器の音とほかの演奏者の音のバランスを調整することができます。また、モニターにステレオの広がりが得られるというのも特徴です。

 

 ミキサー設計のレジェンドのアイディアが詰め込まれたSoundLink。アナログ・ミキサーをベースとしつつも、デジタルのおいしいところを的確に取り込んだ印象です。今までに無かったような面白い機能も備えているので、使う側も新しい発想やアイディアを模索できそうな一台ですね。

 

問い合わせ:コルグお客様相談窓口

製品ページ:https://www.korg.com/us/products/drs/mw_2408_1608/

 

KORG MW-1608

オープン・プライス

(市場予想価格:118,000円前円前後)

 

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SPECIFICATIONS ▪チャンネル数:16 ▪バス:メインL/R、サブグループ1〜8、AUX1〜4、FX、モニターL/R ▪ゲイン・レンジ:−10〜+60dB(マイク・イン)、−10〜+40dB(ライン・イン) ▪周波数特性:20Hz〜20kHz(+0.5、−1.5dBu)/アナログ・イン〜メイン・アウト、ユニティ・ゲイン時 ▪等価ノイズ・レベル:−128dBu ▪全高調波ひずみ率:0.004% ▪SN比:−70dBu(アナログ・インのメイン・アウトに対するSN比) ▪クロストーク:−70dBu(入出力)、−90dBu(隣接するチャンネル) ▪最大出力レベル:+26dBu ▪AD/DAビット・レート:32ビット ▪A/Dダイナミック・レンジ:115dB(メインL/Rバス)、111dB(AUX/FXバス)/いずれもA-weighted ▪D/Aダイナミック・レンジ:115dB(A-weighted) ▪内部処理:32ビット ▪USBオーディオI/O機能:USB 2.0接続、Mac/Windows/iOS対応、2イン/2アウト、最高24ビット/48kHz ▪入力インピーダンス:3kΩ ▪出力インピーダンス:75Ω ▪ヘッドフォン出力:100mW/ch @32Ωロード ▪外形寸法:396(W)×187(H)×530(D)mm ▪重量:8.0kg

 

 

www.snrec.jp