スウェーデンに本拠を置くISOVOXは、超広帯域マイクロフォンのIsomicや、頭を覆うような形のユニークな簡易ボーカル・ブースIsovox 2などユニークな発想で話題の音響機器メーカー。そのISOVOXが開発し、“サウンドとルックスを向上させた”というポップ・ガードIsopopが届いた。早速スタジオで試してみよう。
複雑なフィルター構造でポップ・ノイズを軽減するNeutral
ポップ・ガードと言えば、言葉の破裂音や息によるノイズを軽減させるもので、クリーンなボーカル・レコーディングには欠かせない。ポップ・ガードにとって重要なことは、吹かれ防止以外に、音色の変化が少ないこと、柔軟にセッティングできることがある。また、洗浄・消毒など衛生面を保てることも必要だ。アーティストの口元かつ音を集めるマイクの正面に入れるのだから、かなり気を遣わなくてはならない。
早速Isopopを見てみると、高級感のある作りである。円形のハウジングは直径約10cmで、譜面や歌詞カードが見にくくなることもなさそうだ。ハウジングは、シルバー/ミッドナイト・ブラック/ブロンズの3色を用意。ちなみに海外では24Kゴールド加工の特別仕様もあるそうだ。
ネックの部分はチューブ加工されていて剛性感が高い。長さは約35cmあり、自由に曲げられるので柔軟なセッティングが可能。クランプの開口径は25mmあるので、ほとんどのマイク・スタンドに問題無くセッティングできると思う。
Isopop最大の特徴は、NeutralとDE-ESSの2種類のフィルターが付属していることだ。Neutralは少し粗めの特殊なスポンジで、ポップ・ノイズを防ぐ。DE-ESSは細かい目のスポンジで、ポップ・ノイズと共に耳障りな歯擦音も防止できるという。ハウジングに押し込むだけの簡単交換で、速乾性があり、使用後に水洗いできるそうだ。布製のポップ・ガードは洗えないので消毒可能な金属製を使うことが多いのだが、やはり“金属の音”がするのは否めない。スポンジ製で洗えることは衛生面で大きなメリットだ。
では早速使ってみよう。今回はベテランの男性、女性のボーカリストと、マイクに張り付くようにアグレッシブに歌唱するボーカリストに協力いただいた。アームの作りが良く簡単に設置でき、場所を決めたらアームの反発作用で動くことが全く無く、ピタッと固定される。かなり細かく曲げられるので、精密なセッティングが可能だ。これはとても良い。
まずは、通常のポップ・ノイズを防ぐ“Neutral”。高域から低域にかけて音色の変化はほぼ感じず、とても良好にポップ・ノイズを防いでくれる。マイクに張り付くような歌い方でも、ポップ・ノイズが出ることはほとんど無い。実際、自身でポップ・フィルターの前で思い切り息を吹いてみると、見事にポップ・フィルターの上下左右に分散され、抜けることが確認できた。粗いながらも複雑なスポンジの構造が風を分散させるのだろう。不思議なくらいポップ・ノイズが出ない。
細かい目でキツい歯擦音を防ぐDE-ESS
続いてはディエッシング効果があると言われる“DE-ESS”である。サ・シ・ス・セ・ソといった耳障りな歯擦音もポップ・ノイズも防げるという。Neutralに比べるとかなり目が細かい。ボーカル・レコーディングにおいて、抜けを良くするために中高域が強調されたマイクを選ぶと、歯擦音が気になる場合がある。今回、パワーはあるが抜けが今ひとつのボーカルを前に出すためにAKG C12をチョイス。案の定、歯擦音が気になったのだが、DE-ESSはかなり効果的に歯擦音を防いでくれたし、ポップ・ノイズはNeutral以上に防げた。全体的な質感として高域が落ちる感じもしなくはないが、あえて高域が伸びているマイクを使っているのでバランスは良い。
このDE-ESSにもNeutral同様に自ら強く息を吹き掛けてみたが、驚くほど風(息)を通さない。そして“ツツ……ササ……”などわざと歯擦音を発生させてみたが、これらが抑えられ、若干こもった音に聴こえた。Neutralで同様な発音をするとかなりキツく歯擦音が出たので、効果は出ている。モニター上も歯擦音が防げて、アーティストも歌いやすいというが、あらためて試聴すると若干ながら言葉が不明瞭に感じる部分もあるので、やはりディエッシングはミックス時に一言一言検証してリダクションすることが理想だと思う。
最後に、テスト後にポップ・フィルターを水洗いしてみたところ、Neutral、DE-ESSともサラッと水が抜ける。目の細かいDE-ESSは多少水分を含みやすいのでギュッと絞る必要があったが、スタジオのような乾燥した空間であればNeutralが1時間ほど、DE-ESSは2時間ほどで乾燥した。
音色の変化が少なく、セッティングは柔軟、譜面への視認性も邪魔しないサイズで、衛生面も保てる理想的なポップ・ガードに感じた。スポンジ製なので加水分解などの耐久性は気になるが、フィルターのみの部品供給があれば、Isopopは今後のスタンダードとなり得るポテンシャルを持っている。
山内"Dr."隆義(gogomix@)
【Profile】井上鑑氏や本間昭光氏、服部隆之氏らがプロデュース/編曲する作品に従事し、長きにわたりJポップを支えるレコーディング・エンジニア。近年はその経験を生かした80’sサウンドに傾倒中
ISOVOX Isopop
19,800円
SPECIFICATIONS
▪直径:約100mm ▪グースネック長:約350mm ▪クランプ開口径:約25mm ▪重量:158g