HEAVYOCITY VAST | IMPULSE ENGINE レビュー:ユニークなテクスチャーやリズムのIRを備えたコンボリューションリバーブ

HEAVYOCITY VAST | IMPULSE ENGINE レビュー:ユニークなテクスチャーやリズムのIRを備えたコンボリューションリバーブ

 HEAVYOCITYは、音楽制作やサウンドデザインに特化したソフトウェアやサンプルライブラリーを提供するメーカーです。彼らの製品は、高品質な音源や効果音、ループ、プリセットなどを含んでおり、DamageシリーズやEvolveなどのサンプルライブラリーは、プロのミュージシャンやサウンドデザイナーに広く利用されています。今回ご紹介させていただく同社のVAST | IMPULSE ENGINEは、ピアノ音源ASCENDからのアイディアに基づき開発された、従来の同系統の製品とは一線を画す、よりクリエイティブなコンボリューションリバーブ・プラグインです。

200を超えるインパルスレスポンスを収録 リバースやテンポシンクなどの豊富なオプション機能

 それでは、プラグインUIから見ていきましょう(上掲の画面)。最上部にプリセット選択メニューがあります。200以上のプリセットを搭載しており、汎用的なものからギターやドラム、ボーカルに特化したものまで幅広く用意されています。画面中央上部の、製品名のロゴの下にもプルダウンメニューがあります。こちらは、インパルスレスポンス(以下IR)の選択メニューです。ファクトリーIRには一般的なホール系、ルーム系、プレート系のほかにも、ユニークなテクスチャーやリズム要素を含む、入念にキュレーションされた、200を超えるIRが収録されています。このIR選択メニューは、8つのカテゴリに分類されており、希望のサウンドイメージに合うIRを効率的に選択することができます。

 中央の大きなディスプレイには、IRデータの波形を表示したり、スペクトログラムでIRデータの周波数特性を表示することができます。また、表示だけでなくIRデータの編集も可能です。始点と終点を指定したり、波形ディスプレイ左上部の矢印アイコンをクリックすると、IRデータが逆再生されるようになります。

 その下には、左側からインプットレベル・メーターとそのスライダー、中央にEQ、GATE(ゲート)、DELAY(ディレイ)、CONV(コンボリューションエフェクト)、COMP(コンプレッサー)、MIX(ドライ/ウェットミックス)といった各エフェクトモジュールおよび、リバーブなどのマスターエフェクト・セクションがあります。各モジュールの接続順は音作りの重要なポイントですが、これらは順序入れ替え可能になっており、信号の流れを視覚的に捉えて、好みのサウンドをデザインすることができます。VAST | IMPULSE ENGINEの核となる、CONVセクションは、通常ではあまり見られない、リバースやテンポシンク、モジュレーション、高域/低域のステレオ幅調整、レゾナンス調整など、豊富なオプション機能が用意されています。

CONVセクションのパラメーター。左端にTEMPO SYNC、SIZE(サイズ調整)、PRE-DEL(プリディレイ)を用意。その右にVAST | IMPULSE ENGINE独自のパラメーターが2列に並ぶ。左から順に、IRデータをトランスポーズするPITCH、共振ピークを取り除くRESONANCE、モジュレーションと動きを加えるLUSH、複雑な初期反射を加えられるDIFFUSION、IRデータのFADE IN/OUT、ステレオイメージを調節できるHIGH/LOW WIDTH、出力レベルを調節するGAIN、ドライ/ウェットをブレンドするMIX

CONVセクションのパラメーター。左端にTEMPO SYNC、SIZE(サイズ調整)、PRE-DEL(プリディレイ)を用意。その右にVAST | IMPULSE ENGINE独自のパラメーターが2列に並ぶ。左から順に、IRデータをトランスポーズするPITCH、共振ピークを取り除くRESONANCE、モジュレーションと動きを加えるLUSH、複雑な初期反射を加えられるDIFFUSION、IRデータのFADE IN/OUT、ステレオイメージを調節できるHIGH/LOW WIDTH、出力レベルを調節するGAIN、ドライ/ウェットをブレンドするMIX

便利なオートレゾナンス機能 プリセットと異なるIRを読み込めば新鮮な響きに

 では、実際の音の印象はどうでしょうか? 試しに、Creative Texturesプリセットの中から、Shimmer Gazeを選択します。このプリセットは、EQ、ディレイ、コンボリューション、コンプレッサー、ドライ/ウェットミックスの順番で各モジュールが接続されています。EQセクションで低域と高域やIRのレゾナンスによる過剰な成分を取り除き、ディレイセクションではアナログライクな音色のフィードバックとピッチシフトが1オクターブ上に適応され、これがシマーサウンドを特徴づけています。EQセクションで不要な帯域をカットすることで、リバーブを付加したせいで音が不明瞭にならないように工夫されている印象です。このプリセットのコンボリューションセクションでは、14.89秒と比較的長めなIRが選択されています。ピアノやマリンバなどの音源で試聴してみると、アタック感のある短い音源から、美しく幻想的な持続音を生成しました。

 各セクションをクリックすると表示される、エディットパラメーターも非常に自由度が高いです。高域と低域を独立して、音像の広がり感を調整可能なWIDTH、サウンドにモジュレーションと動きを加えるLUSH、複雑で濃密な初期反射を加えて音を汚すことができるDIFFUSIONなど、これらのパラメーターを調節して、イメージ通りのサウンドを表現することができます。さらに、オーディオファイルをコンボリューションのIRソースとして読み込むことで、付属IRの世界を超えて、無限に創造性が広がります。

 実際に使用してみて、特に有用だと感じたポイントをピックアップしてご紹介します。まずは、オートレゾナンス機能。コンボリューションにロードしたIRソースを自動解析し、不要なレゾナンスを軽減する機能です。これにより、特にルーム系のプリセットが、非常にすっきりとした自然な質感となり好印象。混濁感がなくミックスの邪魔にならない、モダンな質感のリバーブを得ることができました。

 続いて、サウンドデザインの観点で有用だと感じたのが、プリセットと異なるIR成分を選択し、全く違うサウンドを作ることができる点。例えば、リズム要素を含むIRを選択すると、独特で複雑なコンボリューションとエコーが生成され、実験的で新鮮なサウンドイメージを得ることができます。現代的なサウンドプロダクションは、リバーブが鍵を握っているのだと実感。

 用意されたさまざまなテクスチャーや豊富なIRデータを使用して、個性豊かでクリエイティブな音作りを楽しむことができました。総じて、VAST | IMPULSE ENGINEは、サウンドデザインの新たな可能性を切り開くための強力なツールであると言えるでしょう。

 

Mine-Chang
【Profile】作編曲家/音楽プロデューサーとして、アーティストへの楽曲提供やCM音楽制作などで活躍するとともに、prime sound studio form所属のレコーディングエンジニアとしても活動している。

 

 

 

HEAVYOCITY VAST | IMPULSE ENGINE

16,324円(価格は為替レートによって変動)

HEAVYOCITY VAST | IMPULSE ENGINE

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.15/11〜13、AAX、AU/VST
▪Windows:Windows 10(64ビット)/11、AAX/VST
▪共通項目:64ビット環境のみ
▪対応フォーマット:AAX、AU、VST、VST3

製品情報

関連記事