DANGEROUS MUSICは、ヒット・ファクトリーやスターリング・サウンドなどの名門スタジオで、長年にわたりカスタム機材の開発を手掛けたクリス・ムース氏のブランドです。2001年に発売されたアナログ・サミング・アンプ、DANGEROUS MUSIC 2-Busは、デジタルとアナログのいいとこ取りができるデバイスとして、評判になりました。海外の気になるエンジニアのホーム・スタジオにインストールされていることが多かったので、今回のDANGEROUS MUSIC 2-Bus XTも試すのが楽しみです。
偶数次倍音を付加する/ソースを引き締める2つのカスタム・カラーリング回路を搭載
2-Bus-XTは上位モデルのDANGEROUS MUSIC 2-Bus+と同様の6層ボードのサミング回路と、2つのカスタム・カラーリング回路を搭載した、アクティブ・サミング・ミキサーです。サミング・ミキサーはDAWからパラレルで出力した信号を2ミックスにまとめる装置で、DAW内部でバウンスしたときの飽和感や周波数レンジの狭さを緩和して、アナログ・コンソールでミックスしたときのようなゆとりを持たせたい場合に使います。ミックス・バッファーと呼ばれたりもしていますね。一般的なライン・ミキサーとは違って、マスタリング品質のオーディオ回路が使われているので、ハイファイで立体感のあるサウンドを得られるのが特徴です。
本機の入力は、2系統のD-Sub端子で計16chと、別の2-Busなどを接続して拡張するためのXLR端子のステレオ入力が1系統。ch1/2とch9/10にはモノラル切り替えのスイッチが付いています。出力はレコーダー用とモニター用に、XLR出力が2系統備えられており、出力レベルはSUM LEVEL TRIMでコントロールできます。
カラーリング回路はX-FORMER IIIとCOHERENCEの2タイプ。X-FORMER IIIは偶数次倍音を付加するトランスフォーマーをスイッチでオン/オフすることができ、COHERENCEはトランジェントを引き下げてソースを引き締める回路で、スイッチを押しノブを回すことで任意の量にコントロールできます。これらの回路はミックス・バスのほか、個別にかける場合はステムの15/16chに割り当てることも可能です。また、オフ時にはトゥルー・バイパスになります。
最大入力レベルは+27dBu、クロストークは-109dB@1kHzと、ゆとりのある設計でありながら、1Uのコンパクトなサイズにまとめられています。
それでは、実際に試していきましょう。今回はAVID Pro Tools|HDXにAPOGEE Symphony I/O MKIIを接続し、Pro Toolsのセッションを本機を通してまとめた後に、Pro Toolsの入力に戻す形で試聴しました。まず、パッと聴いた印象としては、めちゃくちゃにクリア。通すだけで元の音よりも奇麗になって戻ってくる感じすらします。
これまでにいろいろな機種のサミング・ミキサーやコンソールを使ってきましたが、今まで使ってきたものとは全く別物な雰囲気です。大体の機種が、コンソールを通した感じにカラーがつき、それは音のなじみという点では良いんですが、良くも悪くも古い音になる気がしていました。それが2-Bus-XTでは、通したほうが新しくフレッシュな音になるように感じます。コンソールを通したような音を目指していないと説明書きがしてあったんですが、本当にその通りで、純粋にDAW内部でミックスするよりも良い音にしようとしているのが一聴して分かりました。
音像が一段前に出るX-FORMER IIIとクリアな倍音を付加するCOHERENCE
味付けのできるサミング・ミキサーは、簡単に雰囲気が出せてよいのですが、その反面、低音が丸められてしまって、例えば低音が多めのモダンなミックスをするときには、DAW内部でやったほうがいい場合がありました。その点、本機は低音までバッチリとカバーされています。スペックを見ると、20Hzから50kHzまで各周波数のバラツキが0.1dB以内に抑えられており、驚異的にフラットな特性です。
DAW内部でミックスすると、上下左右が狭い箱の中に押し込められたような感じになってしまいがちですが、2-Bus-XTを通すだけで抜けも奥行きも自然に増えて、窮屈さがなくなりました。
Jポップ系のミックスの場合、こういうメリットはあっても、センターに定位させたいボーカルやキックなどの素材がぼやけてしまうので、使わない方もいるかと思いますが、本機の場合、モノラル・スイッチでその点も解消されていますね。
次にカラーリング回路を試してみましょう。X-FORMER III をオンにすると、音像が一段前にパリッと立った印象に変化しました。ポップス系のハリのあるサウンドに変化しつつも、低音の量感が減らないのが好印象です。COHERENCEは、使った印象として、痛く感じる2kHzから5kHz辺りを避けて、低域と高域に2つのディストーション回路が入っているようなサウンドでした。マキシマイザーで付加されるような倍音を、もっとクリアに、その気になれば激しくもかけられる感じで、なじみのいい音になります。この回路はパラレルでかかっているようで、深めにかけてもミックスが崩れることはありませんでした。
イン・ザ・ボックスで分離感や奥行きに限界を感じている方や、サミングをしつつも、モダンなサウンドを作りたい方にはお薦めです。
中村公輔
【Profile】neinaの一員としてドイツの名門Mille Plateauxなどから作品発表。以降KangarooPawとしてソロ活動を行い、近年は折坂悠太、宇宙ネコ子、大石晴子らのエンジニアリングで知られる。
DANGEROUS MUSIC 2-Bus-XT
330,000円
SPECIFICATIONS
▪入力インピーダンス:12kΩ ▪周波数特性:20Hz〜50kHz(±0.1dB) ▪ノイズ・フロア:−82dBu ▪最大入力レベル:+27dBu ▪クロストーク:−109dB(@1kHz) ▪外形寸法:483(W)×46(H)×320(D)mm ▪重量:5.14kg