BOSE T4S ToneMatch Mixer 〜制作/配信/ライブまで対応するコンパクト・デジタル・ミキサー

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L1 CompactやS1 ProなどのBOSEのコンパクトPAシステムは、長年にわたるスピーカー作りの技術力が注がれた音の良さと、アーティストによるセルフPAも行いやすい操作性のシンプルさが評価されている。音作りのしやすさの秘密は同社独自のプロセッシング技術=ToneMatch。接続した入力ソースに合わせて音質を自動調整してくれる機能だ。ここではそのToneMatchを備えた4chデジタル・ミキサー、T4Sを紹介する。ToneMatchのほか、多彩なエフェクトやオーディオ・インターフェース機能も備えており、ライブだけでなく制作環境やライブ配信システムに組み込むなど、多様なシーンで活躍するミキサーだ。エンジニアの山寺紀康氏にレビューいただくとともに、ギタリスト/作編曲家の小倉博和にT4Sの魅力を語っていただいた。

Photo:Yoichi Kawamura

 

BOSE T4S Overview

 “すべてのアーティストのために設計”されたコンパクトなデジタル・ミキサー。操作子はシンプルにまとめられており、PAシステムに慣れていない初心者や演奏者もオペレートしやすいようにデザインされている。同社独自のDSPプロセッシングによる高品位なエフェクトを搭載するほか、ToneMatch機能によって使用する楽器やマイクに合わせたプリセットEQの設定が簡単に行えるのが特徴。シーン・プリセットではミキサー全体の設定を保存できるため、会場ごとのセットアップもスムーズに行える。オーディオ・インターフェース機能も備えており、楽曲制作からライブ、配信にいたるまで、幅広いシーンで活躍するミキサーだ。

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トップ・パネルにはch1〜4用のノブやボタンが備わっているほか、パラメーターが表示されるディスプレイと、その下にパラメーター調整用ノブ×3が用意されている。パネル右側には48Vファンタム電源供給オン/オフのボタン、パラメーター切り替えのロータリー・セレクター、ヘッドフォン・アウトのレベル・ノブ、メイン・アウトのレベル・ノブが並ぶ

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リア・パネル。左上の電源ボタンの横には、コンピューター接続用USB端子(タイプB)とUSBストレージ接続用USB端子(タイプA)、メイン・アウト(TRSフォーンL/R)、AUXアウト(TRSフォーン)×2ch、AUXイン(TRSフォーン)×2chがスタンバイ。下側にはデジタル・アウトL/R(RJ-45、R側は電源端子としても機能)、マイク/ライン/インスト・イン(XLR/フォーン・コンボ)×4chが並ぶ

 

ノブの数が絞られたミュージシャンライクなデザイン

 T4Sは小型ながらかなりの機能が詰め込まれたデジタル・ミキサーだ。4chミキサーとしてだけでなく、オーディオ・インターフェース機能も備えているので制作環境でも活用できる。エフェクトも多彩で、各チャンネルで独立して設定できるのでライブ配信などを行う場合も有用だろう

 

 まず製品を取り出したときに好感を持てたのが、マグネット式の保護カバーである。ミキサーは意外とデリケートなもので、持ち運びではノブの破損のおそれがあるため段ボールのまま、または重たいハード・ケースでの運搬になってしまいがちだ。保護カバーが付属していることで軽量化と安全が保たれている。

 

 また、T4Sの底面にあるスタンドに取り付けるためのネジ穴が1/4インチ(6mm)になっているのもうれしいポイント。カメラの三脚などが使えるので、音響機材専門店ではなく家電量販店などでアタッチメントがそろえられるのも好感が持てる。

 

 トップ・パネルには4ch分のトリムとボリュームのノブのほか、CH EDITとFX MUTE、CH MUTEというボタンと、48Vファンタム電源オン/オフ用PHANTOMボタン、出力レベル用のPHONESとMASTERのノブ、設定項目を切り替える大きなロータリー・セレクター、パラメーターを調整するための3つのEDITノブが並ぶというシンプルな構成である。リア・パネルには4ch分のXLR/フォーン・コンボ入力とAux入力(TRSフォーン)×2ch、メイン・アウトL/R(TRSフォーン)、Aux出力(TRSフォーン)×2chがスタンバイ。4ch分のXLR/フォーン・コンボ入力は、ハイインピーダンスに対応しているので、ギター弾き語りなどには最適だ。ほかにオーディオ・インターフェースとしてコンピューターと接続するためのUSB端子(タイプB)とUSBストレージからオーディオを読み込むためのUSB端子(タイプA)、デジタル・オーディオ出力L/R(日本未発売製品用)があり、Rch側は電源端子も兼ねる。

 

 ロータリー・セレクターで切り替えられる設定項目にはチャンネルごとと全体のコントロールがあり、チャンネルEQやマスターEQ、コンプなど、ミキサーとして必要なものはすべてそろっている。しかし、エフェクト・リターンが無かったり、USBストレージからの再生もパラメーター内をたどることになっているため、PA卓に慣れている人は戸惑うことも多いだろう。その分、ノブの数が絞られたシンプルなデザインになっているので、とてもミュージシャンライクな機材だ。見た目も含め、このシンプルさは“機械”を感じさせず、エンジニアとミュージシャンの垣根を無くす発想だと思う

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エフェクトはEQやコンプレッサー/ゲート、モジュレーション(コーラス/フランジャー/フェイザー/トレモロ)、ディレイ、リバーブを搭載。各チャンネルで独立した設定が行えるのも魅力だ(リバーブのみ全チャンネル共通で同じリバーブ・タイプを使う仕様。Mix値は個別に設定可能)。設定項目は3〜4つに絞られているため、直感的にコントロールできるだろう。マスターに6ポイントのグラフィックEQも用意している

 前述の通り、USB端子はUSBストレージからの音楽再生用ポートと、オーディオ・インターフェースとして使うためのポートの計2つがある。この“オーディオ・インターフェースとして使える”というのも大きな特徴の一つだ。最近ではライブ配信が増えているが、エンジニア不在で行う小規模な配信の場合、演奏者自身の手元で簡単な操作をすることも少なくない。T4Sにはチャンネルごとに独立して備わっているパラメーターに加えて、チューナーや自照式のノブ、MC時に必要なFXミュートなども備わっており、こうした“演奏者に寄り添った機能”があるミキサーは珍しいだろう。

 

誰でも簡単にEQができるToneMatch

 今回はT4SとF1、L1 Compact、S1 Proのそれぞれを接続し、音源とマイクによるチェックを実施。パラメーターは何も設定せず、プロセッシングが施されていない状態で聴いたが、音質に変化があるように感じた。特に顕著だったのはS1 Proで、T4Sを使う前は少しルーズに感じる部分があったが、そこがキュッと締まって中高域に張りが出る。テストに同席していたエンジニアもその違いを指摘していた。

 

 BOSE独自のプロセッシング“ToneMatch”もT4Sの特徴として挙げられる。PAシステムで言えば、スピーカーに対する設定を行うプロセッサーがあるように、T4SのToneMatchでは楽器に対する適正な設定を用意してくれているのだ。“Handheld Mics”や“Miked Amp w/SM57”などの多種多様なプリセットが備わっており、チャンネルEQで大胆な処理がされていることもあるが、使用するソースの楽器や機材に合うプリセットを選択して、そこから微調整をしていけばより良い音を作れそうだ。また、ソースに合わせて3バンドのクロスオーバーを自動調整するzEQでも別途イコライジングが可能になっている。同社のF1やL1 Compactの設計概念と同じく、“PAで細かくEQする”という発想ではなく、“誰でも簡単にEQできる”ことを重視しているのだろう。マスター・アウトには6ポイントのグラフィックEQも備わっており、BOSEらしく変化の仕方に滑らかさを感じた。

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ToneMatchでは、そのチャンネルに入力されたソースに合わせた最適なEQが施される。チャンネルに備わった3バンドEQ=zEQのクロスオーバーは、選択されたプリセットによって変化するので、マイクや楽器に合わせたEQが簡単に行いやすい。プリセットはVocal MicsやElectric Guitarsなどのカテゴリーごとに収録しており、“Shure SM58”などマイクや楽器の種類を選べるものも用意されている

 昨今、PAエンジニアも配信に携わることが多くなり、スピーカーを鳴らす技術とは違ったノウハウが求められるようになった。それとともに、自宅環境からの配信などでミュージシャンにもエンジニアの技術が求められるようになっている。コンピューターやスマートフォン内蔵マイクでも音楽は届けられるが、誰もが本当は音にこだわりたいはず。しかし、エンジニアを呼ぶわけにもいかず、ましてや広い環境でセットアップできないことも多い。そのようなときにT4S、そしてToneMatchがかなり重宝するはずだ。マイクや楽器の種類に合わせた音質の調整がすぐにでき、自分でより良い設定を追い込むことも可能。操作パネルのシンプルさもあるため、音作りに時間をかけることなく、音楽を届けることに集中できるのではないかと思えた。可搬性も含め、そんな演奏者のニーズに応えてくれる製品だと思う。

 

REVIEWER
山寺紀康

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【Profile】 PAをメインに手掛けるサウンド・エンジニア。角松敏生、浜田省吾、久保田利伸、スピッツなどのライブでPAを担当してきた。尚美学園大学の芸術情報学部情報表現学科で准教授を務める。
Photo:Takashi Yashima

 

User Impression
小倉博和 × BOSE T4S

 ソロ・ギタリストとして、また数々のアーティストを支えるギタリスト/作編曲家として長年活動をしている小倉博和。彼がライブで愛用しているミキサーがT4Sだ。ユーザー目線からT4Sの魅力を語っていただこう。

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【Profile】ギタリスト/コンポーザー/アレンジャー。桑田佳祐や福山雅治、大貫妙子をはじめ、数々の作品に参加する。これまでにギター・デュオ=山弦として5枚、またソロとして4枚のアルバムをリリース。卓越したテクニックと幅広い音楽性は多くの支持を集めている

 

さまざまなギターを使うライブでも
シーン・プリセットの切り替えだけで対応できます

ーこれまでどのような音響システム構成のライブでT4Sを使用しましたか?

 アコギにセットしたOVALマルチピックアップ・システムから、インブリッジのピエゾとマグネティック・ピックアップをミックスした音(A)と、ボディ・トップ裏側に仕込んだ張り付けタイプのピックアップの音(B)、計2系統をT4Sに入力してライブを行っています。T4SでそれぞれのレベルやEQの調整、場合によってはコンプレッサーやゲートなどをかけて音の下ごしらえをし、メイン・アウトからそれぞれの回線をL/Rにパンニングして2台のアコギ用プリアンプ+エフェクターへ出力。Aの回線は、ステレオでメインPAシステムとモニター用のS1 Pro×2へ、Bの回線はメインPAシステムとL1 Compactへルーティングします。L1 Compactはボディをヒットした際の“ドッ”というキックのようなサウンドを担うためのサブウーファー的な役割です。

 

ーT4Sの気に入っているポイントは?

 コンパクトで取り回しやすいのに、デジタル・ミキサーの多機能さを備えているところです。高音質であり、操作が分かりやすいという点は、少人数で限られた空間でやることの多い配信ライブなどでも大きなメリットになるでしょう。

 

ーT4Sがそのほかの小型ミキサーよりも優れていると思う点はどこでしょうか?

 シーン・プリセット機能です。チューニングや求めるサウンドによってギターを持ち替えて弾くことが多いのですが、ギターによってシーン・プリセットを作り込んでおけば、本番でギターを持ち替えてもシーン・プリセットを切り替えるだけですぐに対応できます。

 

 ーToneMatch機能やzEQの魅力は何でしょうか?

 プリセットの多彩さです。ボーカルから鍵盤、打楽器、管楽器までカバーしているのは驚きました。私のシステムでは、ピエゾ+マグネティック・ピックアップの回線にはアコギ系プリセットを、ボディ・トップ裏ピックアップの音には“KICK Audix D6”というプリセットを使用し、キック・ゲートも活用しています。

 

ーエフェクトのクオリティや操作性はいかがですか?

 現場で必要とされる一通りのエフェクトがそろっていて安心です。音質はどれも上品でクリア。いじれるパラメーターは最小限ですが、良いポイントに効いてくれるので音作りが素早くできます。

 

ー最後にBOSE製品に対する印象を聞かせてください。

 BOSE製品との付き合いはもう10年以上になると思いますが、新製品が出るごとにほかには無い新しいアイディアを打ち出してくるところにいつも驚かされます。常に新鮮な感動を与えられる物作りの姿勢は素晴らしいですね。

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7月に八ヶ岳高原音楽堂で行われた大貫妙子のアコースティック・コンサートでT4Sを使用した様子

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八ヶ岳高原音楽堂のライブでは、モニター用としてBOSE S1 Pro×2台、サブウーファー的な役割としてL1 Compactが使われた

BOSE T4S 製品情報

www.bose.co.jp

 

BOSE T4S ToneMatch Mixer

78,000円

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SPECIFICATIONS
■入力:ch1〜4(XLR/フォーン・コンボ)、ch5/6(AUXイン、TRSフォーン×2ch) ■出力:TRSフォーンL/R、ヘッドフォン・アウト(ステレオ・フォーン)、AUXアウト(TRSフォーン×2ch)、デジタル・アウトL/R(RJ-45) ■内蔵エフェクト:zEQ、パラメトリックEQ、コンプレッサー/ゲート、モジュレーション、ディレイ、リバーブ、マスター・リバーブ、マスターEQ ■シグナル・プロセッシング:24ビット/48kHz ■外形寸法:184(W)×83(H)×214(D)mm ■重量:1kg ■付属品:マグネット式保護カバー、ToneMatchケーブル、ユニバーサル電源アダプター

 

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