この4月、AVID Pro Toolsの最新版がリリースされると同時にラインナップの刷新があり、その内容が理解できるまでユーザーの間ではちょっとざわついた感も見かけました。自分はちょうどライセンスの更新時期が近付いており、どうなるのかとだいぶドキドキしましたが難なく更新できたのでとりあえずホッとしています。
そんな新しいバージョンPro Tools 2022.4から、全グレードに2種類のプラグイン・インストゥルメントが付属されました。リズム・マシン/サンプラーのGrooveCellと、シンセサイザーのSynthCellです。全く新しいプラグインではありますが、見た目も含め使い勝手はそう難しくもなさそうなので、いろいろと触ってみて感想など綴っていきたいと思います。
GrooveCell〜強力なシーケンサー内蔵のパッド・サンプラー
まずGrooveCellの方を。先にも書きましたが、立ち上げた際の見た目はとてもシンプルです。往年のAKAI PROFESSIONAL MPC的な16個のパッドがドドンと構えています。あらかじめ音も立ち上がっているのでパッドをクリックすればキック、スネア、ハイハット……と音を鳴らしていけます。パッド・コントローラーを持っていたらそのままたたいて遊べますね。付属のサンプルもいいあんばいにタイトな音が多く、そのままでも十分に使えると思います。
もちろんこういったサンプラー系ソフトを使いこなしている人にも自分で作った音やサンプルを読み込めるので、よりこだわったキットが作れるところもうれしいですね。サンプルはWAV、AIFF、MP3(WAVに変換)と、Pro Toolsで読み込めるフォーマットはアサインできるようなので、オリジナルなドラム・キットも他社のソフトを使わずに作れてしまいそう。パッドには最大3種類のサンプルをレイヤーできるのも良いですね。
パッド横の調整ノブもシンプルに扱いやすい感じです。ここのウィンドウは3層あり、上から順にページ1はサンプル自体の微調整用。ボリューム、ピッチ、スタート/エンド・ポイントとマルチアウト、フィルターとセンド・エフェクト(リバーブ/ディレイ)を設定します。
ページ2は発音の際の調整用。2の部分のDrum Modeメニューには「Drum Machine 1200」「Old Sampler」といった往年のサンプラーをエミュレートしたプリセットなどがあるのでいろいろ試してみるのがよいと思います。そのほかAHDSRエンペロープ(ボリュームとピッチ)も用意されています。
ページ3はサンプルのブラッシュアップ用と言うのが分かりやすいでしょうか。ひずみを加えるDriveと、ワンノブ・ダイナミクスのDynamicsがあります。また、Sample Mappingsはそのパッド内のサンプル・レイヤー管理ではなく、そのパッドに該当するノート・ナンバーとベロシティを管理します。というのも、GrooveCellではパッドに任意のMIDIノート・ナンバーをアサインできるので、1つパッドや鍵盤を押すだけで、複数のパッドを同時に鳴らすといったことも可能なのです。
また、FXページとして、全体にかかるEQ、ディストーション、コンプレッサーと、各パッドからセンドで扱うリバーブ、ディレイが用意されています。
GrooveCellでは、左上にあるモードの切り替えでステップ・シーケンサー画面に変更してパッドの音を即座に打ち込むこともできます。最近よく目にすることの多くなったステップ・シーケンサーは断然視覚的に有効ですね。最大32ステップと結構細かいところまで打ち込める上、全体もしくはパッドごとにスウィングやステップの調整も可能。さらにはベロシティ、ピッチ、パンニングなどを1ステップごとでもエディットできるので、シンプルなシーケンスからより複雑なシーケンスまで作り込めます。
好みの音やリズムができたらオーディオ・トラックに書き出すのも簡単なところが純正プラグインの良い部分。まとめて2ミックスでも良し、各オーディオ・トラックに単体の音を振り分けるのも良し。設定がそう難しくないので、さらに追い込んだ作り込みがしたい場合にもストレスは少ないかと思われます。
SynthCell〜エフェクト内蔵のバーチャル・アナログ・ポリシンセ
続いてSynthCellを紹介します。こちらも視覚的にとてもシンプルな見た目なので、初めての人の取り掛かりには非常に良いかも。地味ですが奇をてらってない分、分かりやすいです。
SynthCellは32ポリフォニックのアナログ・モデリング・シンセで、オシレーターは2つ、マルチモード・フィルターも2つ。LFOやエンベロープ(フィルターADSR、アンプADSR、モジュレーションADの3系統)も1画面の中で変更しやすくなっています。下段にはアルペジエイターもあるので、作り込みもスムーズに進められます。画面のモードの切り替えでエフェクト調整も見やすく、即座に追い込め、かかり方も純正ならではといった感じでよいです。
シンセに詳しい人ならゼロ状態からオリジナルな音を作り込むことも可能だし、楽しそうなのはもちろんですが、プリセットで入っている音の方もなかなか豊富で用途に合わせて仕込まれており、そのキャラもいい具合に強めです。なのでシンセのエディットに詳しくない方はまず自分がイメージしていたものに近い音を見つけた上で、そこからさらに各ツマミを触ってエディットしていくのが、勉強にもなるし楽しめるかと思われます。実際に触ってみても、プリセットでもベース、コード、上モノと足したい音を比較的楽にチョイスできるので、ラフにスケッチするにはかなり短時間で作業もできます。
エフェクトに関してもプラグインを立ち上げてインサートすることなく処理できるので、あちこちと画面を切り替えなくても済む上、音の追い込みも思った以上に楽でした。
より凝った編集がしたければPro Tools上でフェーダーを描いてみても良いし、プラグインで深くも過激にもできます。もっと早い段階でPro Toolsに標準搭載されていても良かったんじゃないですかコレ、なんてことも思ってみたりしました。
現在のDAWはできることが多くなってきて、着地点も見つけづらくなっているような気がする制作の中で、いったん基本に戻ってみましょうか。GrooveCellとSynthCellはそう言っているかのような登場の仕方だなあと考えたりもしました。シンプルでも複雑でも、触ってみないことには自分のイメージも広がらないですからね。なので、まず初めての人はこの2つのインストゥルメントをいじり倒してみて、音作りの面白さを知ってほしいですし、使い慣れてる人にも新たなイマジネーションのきっかけのツールとして、リフレッシュがてら触ってみてほしいと思います。
TSUTCHIE
【Profile】SHAKKAZOMBIEのトラックメイカーとしてシーンに登場。レーベルSYNC TWICEを立ち上げ、自身や柳田久美子、RUNRUNRUNS、TOMY HONDAなどの作品をリリース。エンジニアとしても活動している。