モバイルを視野に入れたDSP内蔵オーディオ・インターフェースAPOGEE Duet 3レビュー

モバイルを視野に入れたDSP内蔵オーディオ・インターフェースAPOGEE Duet 3レビュー

 コンパクトなオーディオI/Oの中でも“最高峰”との呼び声が高いAPOGEE Duetの第3世代、Duet 3がリリース。筆者は同社のフラッグシップである初代Symphonyを長年メインのオーディオI/Oとして使用してきたので、Duet 3を試すのが非常に楽しみです。

最高24ビット/192kHz対応。最大65dBゲインのマイクプリ

 Duet 3は2イン/4アウト、24ビット/192kHz対応のUSBオーディオI/O。高く評価されているAPOGEEのAD/DAコンバーターと、最大65dBのゲインを持つマイクプリを2基搭載しています。Mac/Windowsをサポートし、コンピューターとの接続はUSB Type-C経由でバス・パワー駆動です。本体は手の平に収まるサイズで、重量はスマートフォンより少し重いくらいでしょうか。黒で統一感のあるモダンなデザインにテンションが上がります。本体上の端子はヘッドフォン・アウト、USB Type-C端子が2系統(片方は外部電源用)、ブレイクアウト・ケーブル接続用端子が1系統とシンプル。モニターや楽器類の接続は付属のブレイクアウト・ケーブルを使います。操作できるのは、回転/プッシュするボリューム・ノブが一つのみです。

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左からブレイクアウト・ケーブル用の端子、USB Type-C端子×2(コンピューター接続用と外部電源用)を装備

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ブレイクアウト・ケーブルの入出力は、マイク/ライン入力(XLR)×2、インスト入力(フォーン)×2、ライン・アウト×2(TRSフォーン)。別売りのDuet Dock(22,000円)をブレイクアウト・ケーブルの代わりに使用することもできる

 また、2系統のミキサーを搭載するミキサー・ソフトApogee Control 2を使用できます。Apogee Control 2の入出力系統は2イン/4アウト(4アウトのうち2系統はヘッドフォン・アウト)で、2つの入力には最大65dBゲインのマイクプリと48Vファンタム電源を供給可能。入出力の基準レベルを+4dBか−10dBで選択できるので、ギター/ベース/キーボードなどの楽器、プロ・オーディオから民生音響機器まで、さまざまなデバイスへ接続できます。チャンネル出力をMixerにすれば、入力音とDAWからのプレイバックのバランスを調整可能。ヘッドフォン・アウトからメイン・アウトと異なるバランスのミックスを出せるため、ライブでドラマーに送るモニター音とPA側へ送る音を分けるといった使い方をする方に重宝しそうです。

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ソフトウェア・ミキサーのApogee Control 2。マイクプリのゲイン調整、ボリューム調整、エフェクトの追加などが可能。また、Apogee Control 2の起動はDuet 3本体のハードウェアDSPを利用するため、レイテンシーの無い状態でエフェクトのかけ録りができる。さらに、2系統のミキサーを搭載しているため、メイン・アウトとヘッドフォン・アウトへそれぞれ別々のミックス・バランスの音を送ることも可能になっている

 また、APOGEEのコンプやEQプラグイン=Apogee FXプロセッシングを使用すれば、Duet 3内蔵のDSPと連携が可能。それらプラグインをかけた音を、低レイテンシーでモニターしつつ録ることができます。

エネルギッシュな音質でどのレンジも輪郭や質感が明確

 では、肝心の音質をチェックします。DAWからのプレイバックをモニター・スピーカーで再生すると、肉厚で低重心、そして分離感が非常に素晴らしいです。各パートの位置をしっかり聴けます。ナチュラルというよりエネルギッシュな音質で、どのレンジも輪郭や質感が明確。解像度も十分です。低域は引き締まっていて瞬発力が高く、軽快さやスピード感を担保。高域は上品な明るさで、手数の多いタム回しやステレオ感のあるシンバルさばきなどから定位の表現が見事だと感じました。中央のボーカルは、焦点がきっちりと合い、シャープな響き。全体的にやや張り出した、近い音に感じることもありますが、それがモニターのしやすさや迫力につながっています。分離が良いのでミックスで使ってみたところ、キックを拡張できそうな音の余裕を感じましたし、歌の明るさや音量感など、重要なパートの詰めの判断に最適でした。

 

 ヘッドフォン・アウトは、低重心で重量感のあるパワフルなサウンド。インピーダンスが0Ωとのことなので、その効果を実感できます。どんな楽曲を聴いても一貫した感触があり、これこそ“APOGEEの新しいサウンドの個性”だと受け取りました。同社のSymphonyや他社のハイエンドなコンバーターと比較しても劣るところが見当たらず、分離感という点では一番モニターしやすいサウンドです。個人的にはミックス時にスピーカーやヘッドフォンを切り替える感覚で、選択肢の一つに欲しいと思いました。

 

 続いて内蔵マイクプリは、ドッシリと太く重量感のあるサウンドが印象的。色付けは感じられないものの、結構コクのある音で録れます。ゲインの低いマイクにも十分に対応できました。声が軽いと感じる人に使用してみてほしい太さです。

 

 最後にギターをハイゲインのアンプ・ヘッドにつなぎ、キャビネットにマイクを立てて本機へ入力したところ、まとまりが良く音圧を感じる音でキャプチャーできました。ほかのコンバーターよりも、知覚しやすい150Hz付近の低域に特徴を持たせており、不要になりやすい100Hz以下と濁りやすい540Hz付近は抑えられています。低重心で太く、まとまりのあるサウンドの肝はここにあるようです。まるでマルチバンド・コンプで整えたかのように音の座りがいいと感じます。録音後の作業がしやすい音なので、作品制作に向く信頼性の高さを確認できました。

 

 この価格帯とサイズでこれだけの音を楽しめるとは、技術力の高さに驚きを隠せません! モバイル用途やデスクに据え置きでもガンガン使い倒せそうな万能機種……ほんと良い時代になりましたね。音楽制作用途だけでなくオーディオ・ファンの方にも試聴してもらいたい音です。現在盛り上がっているハイレゾ・ストリーミングのリスニング用途や、ゲーム、映画を楽しむ場合でも選択肢の筆頭になることでしょう。

 

Hiro
【Profile】METAL SAFARIのギタリストとして活動し、2010年にSTUDIO PRISONERを立ち上げ、プロデューサー/エンジニアに。NOCTURNAL BLOODLUSTなどメタル・バンドを手掛けている。

 

APOGEE Duet 3

80,300円(9月30日までのイントロ・プライス:77,000円)

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SPECIFICATIONS
▪オーディオ入出力:2イン/4アウト ▪最高ビット&レート:24ビット/192kHz ▪付属品:ブレイク・アウト・ケーブル、トラベル・ケース、USB Type-Aケーブル、USB Type-Cケーブル ▪外形寸法:102(W)×150(H)×30(D)mm(実測値) ▪重量:340g(実測値)

REQUIREMENTS
▪Mac:OS 10.15以降 ▪Windows:Windows 10 Anniversary Update以降

製品情報

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