このコーナーで初登場となる台湾の新興ブランドACOUSTIC EMPIRE。マイクが開発される場所として、今までなじみが薄い地域からの新製品は大変興味深い。現在、同社がリリースしているE04とG87という2つのコンデンサー・マイクのうち、今回はG87を紹介しよう。NEUMANN U 67、U 87の長所を融合したという本製品。一体どのようなマイクなのだろうか。
本家より一回り小ぶりながら剛性感ある筐体 単一指向性固定でHPFやPADは非搭載
NEUMANNのU 67、U 87といえば、ビンテージながらも現在でも活躍しているマイク。真空管マイクとして屈指の知名度を誇り、かつ現存数が多いであろうU 67は、1960~71年に生産されていた。長らくディスコンだったが2018年に復刻されており、現行機種でもある。そしてU 67の後継機種として1967年に発表されたU 87は、佇まいはU 67そのままに、内部をFET化して時代の要求に応えた。さらに1986年、細かなリファインが施されたU 87 AIにアップグレードされ現在に至る。どちらのマイクもNEUMANNらしいしっかりとした中域の表現力、サウンドの立ち上がりの良さ、全帯域における自然な特性などが特長ゆえ、どんな楽器にも使えるのだが、やはりボーカル録りにセレクトされることが多い。特に真空管マイクであるU 67が持つ倍音の豊かさ、声との相性の良さは特筆すべきものがある。
というわけで、G87を見ていくことにしよう。まずは外観から。黒一色で統一された筐体は正面にブランド・バッジ、下部にモデル名“G87”が印字されるだけの極めてシンプルなデザイン。別バリエーションとしてグリルとボディが白のモデルも用意されており、こちらはやや華やかな印象だ。
U 67、U 87をちょうどひと回り小さくしたほどの形状は取り回しが良く、傾斜の付いたメッシュ・グリル、工具なしで分解できる仕様なども、本家に忠実に再現されている。付属のサスペンション・ホルダー共々しっかりとした作りで剛性感が高く、機械としての質の良さが感じられる。
ただし本機は単一指向固定であり、ハイパス・フィルター、PADなどを備えていないので、それらのスイッチは存在しない。また専用電源も用意されていないので、一般的なコンデンサー・マイク同様に48Vファンタム電源が必要だ。
密度のある中域とフラットな高域 ボーカルから楽器まで万能に使えるサウンド
音色チェックに移ろう。本機を、色付けが少なく、マイクそのものの素性が分かりやすいAVID HD Omniのマイクプリにつなぎ、Pro Toolsにアコースティック・ギターと男性ボーカルを32ビット・フロート/96kHzで録音した。
アコースティック・ギターのサウンドを聴いてみると、まず気が付くのが中域のレスポンスの良さだ。1kHz辺りの音の密度が高く反応が極めてしっかりしているため、ストローク時のコード感がちゃんと表現され、オケ中での楽器の存在が際立つ。低域は比較的タイトに引き締まっており、だぶついた感じはしない。情報量が少ないわけではなく、100Hz辺りの主張が控えめなのでそう感じるのだろう。高域はフラットな印象。ハイエンドに向かってナチュラルにロールオフしている感じだ。パッと聴きの“派手さ”を求めてどこかの帯域にちょっとしたピークを持たせているマイクも多いのだが、G87に関してはそういう色付けは見当たらない。EQで高域をブーストしても、嫌味なく上がってくるのが好印象であった。アルペジオにおける各弦への反応も良く、どの帯域でもバランス良く捉えており、基本設計がしっかりしているマイクであると感じた。
次に男性ボーカルをチェック。やはり芯となる中域の表現力にこのマイクの特長が集約されていることが分かる。近接効果もしっかり調整されており、マイクに近づくことで低域の膨らみが得られる。アコースティック・ギターに立てたときと同様に、高域に関しては自然な表現がされている。子音のピークも控えめなので、ミックス時の処理もしやすいだろう。
オリジナルとの差異に関しては、U 67のような真空管マイクが持つ独特の“色気”はさほど感じられず、どちらかと言えばソリッドで、各帯域でリニアな反応を見せる現行のU 87 AIに近い感じがした。加えて、シャープ過ぎず落ち着いた高域のおかげで、ほのかにビンテージ・マイク的な“温かみ”も兼ね備えていると言えるだろう。
いずれにしても音源を選ぶことなく万能に使えるマイクであることは確かで、ボーカル、アコースティック・ギター、ピアノ、ストリングス、木管/金管楽器、各種パーカッションなど、ありとあらゆる楽器収録に対応できるだろう。安価で高性能なコンデンサー・マイクをお探しであれば、その選択肢に入れることをお勧めする。
林憲一
【Profile】ビクタースタジオでサザンオールスターズなどの作品制作に携わり、フリーランスのレコーディング/ミキシング・エンジニアに。近年は、阿部真央、斉藤壮馬、DISH//らを手掛ける。
ACOUSTIC EMPIRE G87
参考価格:89,800円
SPECIFICATIONS
▪指向性:単一指向性 ▪周波数特性:20Hz〜20kHz ▪インピーダンス:200Ω ▪負荷最大値:1kΩ ▪感度:−32dBV/Pa(20mV/Pa) ▪最大出力電圧:3.8mV ▪ダイナミック・レンジ:105dB ▪電源:48Vファンタム電源 ▪付属品:サスペンション・ホルダー、ケース ▪外形寸法:48(φ)×191(H)mm ▪重量:460g
※いずれも実測値