【動画あり】Fairchild 670発表会 〜伝説のコンプ/リミッター復刻の秘密を語る

FAIRCHILD 670 Header

1959年に発売された真空管ステレオ・コンプ/リミッターのFairchild 670。当時としては珍しいM/S処理機能を備えるなど、革新的な機器として知られた。以来、数多くの名盤に使用され、今では伝説的なアウトボードとも言われる。そんな中、TELEFUNKEN ELEKTROAKUSTIKを興し、Ela M 251 Eなどの名マイクを復刻してきたトニー・フィッシュマン氏がFairchild 670を完全復刻したという。本稿では、その製品発表会の模様をお届けしよう。

Fairchild Recording Equipment - Fairchild 670

FAIRCHILD 670 Front

 Fairchild 670の復刻モデル。各パーツや寸法、ネジ穴位置、タレット・スタイル構造、ポイント・トゥー・ポイントのはんだ付けなど、開発者レイン・ナーマ氏による設計を限りなく再現し、オリジナルとのパーツ入れ替えも可能となっている。また、6Uサイズの筐体には20本の真空管と11個のトランスを搭載。入力部には独自のパラPP真空管回路を採用し、低ひずみで豊かなサウンドを提供するという。さらに、出力段には真空管6973を使用したPP回路を備え、20Wクラスのギターアンプと同等の高音質と出力を実現する。

リア・パネル。写真左上にはライン入力×2とライン出力×2(いずれもXLR)を装備する

リア・パネル。写真左上にはライン入力×2とライン出力×2(いずれもXLR)を装備する

SPECIFICATIONS

  • 入力/出力インピーダンス: 600Ω
  • 入力レベル範囲:0〜+16dBm
  • 出力レベル:+4または+8dBVU(クリッピングポイント+27dBm)
  • ゲイン:+7dB
  • 周波数特性:40Hz〜15kHz±1dB
  • ノイズ・レベル:70dB以下(基準信号レベル+4dBm)
  • 重量:30kg

Fairchild 670製品発表会レポート

FAIRCHILD 670 発表会

 6月27日、サウンド・シティでFairchild 670製品発表会が開催された。当日は多くのプロ・エンジニアや音楽クリエイターが集まり、そのサウンドと技術的な再現性に注目。ここでは、フィッシュマン氏と親交の深い宮地商会M.I.D.の佐藤俊雄氏(TONEFLAKE:写真左)と、エンジニアの森元浩二.氏(同右)を迎えたトークセッションの内容をレポートしよう。

ぜいたくの限りを尽くして作られた機材

 森元氏は、自身が初めてオリジナルのFairchild 670を体感したときの印象についてこう語る。

 「1980年代にキャピトル・スタジオで仕事をしていたときのことでした。2ミックスにかけたら全然音が違っていて本当に驚いたんです。飽和感がプラスされたようなサウンドで、当時は信じられないほど感動したのを覚えています」

 佐藤氏は、Fairchild 670はぜいたくの限りを尽くして作られた機材だという。

 「Fairchild 670はオール真空管で、ゲイン・リダクションや電源回路にも真空管が使用されているんです。さらに高性能な安定化電源も搭載しています。つまり、670を作ったレイン・ナーマさんは電源の重要性を認識しており、最高のものを作るために良い回路、良い部品、ぜいたくな構造を妥協しないで製作したのだと思いますね。Fairchild 670以外に、同じような発想で作られたコンプレッサーは見当たりません」

オリジナルと部品単位で完全に交換可能な状態

 今回、フィッシュマン氏がFairchild 670を復刻するに当たって「Fairchildから商標の使用許諾を得られたことは非常に大きなポイントだった」と佐藤氏は話す。

 「商標の使用許諾を得られた大きな理由は、復刻版Fairchild 670がオリジナルの設計図に忠実に基づいて作られているからです。各部品や金型、設計の物理的な取り回しやジオメトリーもビンテージの670と同じであり、完全に交換可能な状態なんですよ。レイアウトやねじ穴の位置も同一で、ビンテージと容易に交換できます。音響機器においては、物理的な振動が音に影響するため、同じ質量の部品が同じ場所に配置されることが重要です。例えば、回路が同じでもパネルの仕様が異なると同じ音はしません。そのためジオメトリーがオリジナルと同一であることは、復刻モデルの製作において非常に大切なことなのです」

 佐藤氏は、フィッシュマン氏のこだわりについて、こう教えてくれた。

 「トニーさんは“似たようなものは世の中にたくさん出ているけれど、本物は一つもない。だから本物を作りたかった、それだけだ”と言っていました。例えばオリジナルと全く同じ部品素材が地球規模で存在しないとか、今では環境への配慮で禁止されているとか、そういうのはしょうがないけれど、そうでない限りは全部納得いくまで再現するんだ!という気持ちで作ったそうです」

 トーク終了後には、来場したプロの面々が興味津々でこの新しい670に触れていた。その関心の高さこそ、“本物”が放つ魅力であろう。

発表会の模様を動画で!

Toni Fishman

記事制作中の7月12日にトニー・フィッシュマン氏はご逝去されました。謹んで哀悼の意を表します

小森雅仁氏によるFarichild 670レビューはこちらから

https://www.snrec.jp/entry/pr/special/fairchild670review

製品情報

 

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